自社製フラッシュに最適化することで性能をフルに引き出す
石井 「MCXについて、もう少し詳しく教えて下さい。トリプルコアということはわかりましたが、ファームウェアなどに工夫はあるのでしょうか」
岡田 「SSDのパフォーマンスは、シーケンシャルとランダムという2つの切り口がありますが、弊社のコントローラーでは、ファイルのサイズや数によって、いかにNANDフラッシュに書き込んでいくかという、データマネージメントの方法を変えています。
例えば、大きいファイルと小さいファイルが来たときに、『これはシーケンシャルがいい、あちらはランダムがいい』と判断するためのアルゴリズムがコントローラーに入っています。コントローラー内のデータバスは共有になっていますが、そこをいかに隙間無く埋めていくかが一番重要なポイントで、それをハードウェアによってほぼオートメーション化しています」
石井 「なるほど、コントローラーの中にインテリジェントな仕組みが入っているということですね」
岡田 「はい。また通常、NANDフラッシュは各社細かなスペックが異なることも珍しくありません。規格もいくつかありますので、他社の汎用コントローラーは、それらのすべての規格に対応するように作られてますが、Samsungでは毎回、自社製NANDフラッシュ専用のコントローラーを作ってます。
つまり、ハードウェアで決め打ちできる点が強みとなり、完全に最適化ができているというわけです。
一方、他社製のコントローラーやNANDフラッシュを使うと、ソフトウェアの仕事が多くなるため、どうしてもオーバーヘッドが生じて遅くなります」
石井 「なるほど。その辺はフラッシュからコントローラーまですべて自社製造しているSamsungならではのアドバンテージですね。次に、SSD 830ではフラッシュメモリーに何チャンネルでアクセスしているのでしょうか」
岡田 「8チャンネルです。他社製品もほとんど8チャンネルだと思います」
石井 「それは性能とコストのバランスですか?」
岡田 「一番大きいのは消費電力です。電源回路の設計を考えるときには、ピークの消費電力が重要になります。例えば、8チャンネルを16チャンネルにすると、かなりピークが大きくなるので難しいですね。ただ、エンタープライズ系のSSDは電源回路がしっかりしているので、そういった用途向けでは16チャンネルの場合もあります」
石井 「コンシューマー向けでは現状、8チャンネルが最もバランスいいということですね。では、トリプルコアで速くなるのであれば、さらにコアを増やすといった方向性はあるのでしょうか。例えば、ランダムアクセス用のコアをもう1つ増やすというのは?」
岡田 「SATA3の6Gbpsの場合、520MB/s程度が限度ですが、NANDフラッシュの実力は、今の時点でもそれを簡単に超えられるレベルなのです。ですから現時点ではコアを増やしても意味がないのです」
石井 「インターフェース側がボトルネックとなってきたわけですね」
岡田 「はい。最近は完全にインターフェースの限界を迎えています。インターフェースの制限がなければ、1TB/sも実現できるレベルにあります。ですから、将来的には別のインターフェースを考える必要があります。
業界的には、SATA3の次はPCI Expressインターフェースを使っていく動きがありますので、次の次の製品、来年くらいにはPCI Expressインターフェースを利用する製品が登場するのではないかと思います」
◆
MCXの高いパフォーマンスの秘密は、自社のNANDフラッシュに最適化した設計にあるという。確かに、組み合わせる相手が決まっているのなら、その性能は引き出しやすいだろう。このあたりも、すべてを1社でまかなえるSamsungならではの強みだ。
また、現在のNANDフラッシュメモリーの実力は、すでにSATA3の速度を上回るほどだという話には驚かされた。SATA3の後継としては、PCI ExpressベースのSATA Expressという規格の標準化が進められており、2013年にはSATA Express対応製品が登場しそうだ。