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Microsoftが若きエンジニアをサポートする理由 第4回

ITで音楽を作り上げたい、nana music文原氏

世界の人々とセッションできる音楽アプリ「nana」

2012年06月27日 19時26分更新

文● タトラエディット、語り●文原 明臣、遠藤 諭、写真●小林 伸

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サービスの生い立ち ~アーティスト発掘の場になっている韓国のカラオケ事情

遠藤 「ライブセッションじゃなくて非同期というところが今のネットの基本にもなっているよね。ある種ニコ動の弾幕にも似ているというか」

文原 「ありがとうございます。音を重ねる前の状態のテイクも残るので、派生して違うバージョンが生まれたりもするんです」

遠藤 「よりクリエイティブだね。なるほど。僕もニコ生に出たことあるんだけど、顔に文字を重ねられると、なんかうれしいじゃないですか。一緒に出ていたコメンテーターなんかは『ロリコンw』とか書かれていたんだけどね。すると、あまり書かれなかった僕はちょっと寂しい。配信が終わって、たまたまTwitterで知り合いに話していると『それはいい!』と。罵倒でも書かれた方が勝ちなんじゃないかと。

 そういう楽しさって、実際ネットに配信してみないとわからないよね。とくに音楽なんて、誰が歌っても楽しい。コンビニが初音ミクを使った大キャンペーンをやって、店内の音楽を歌ったりするんだけど、そういう自由さが音楽にある。勝手にネットで広まったのがオフィシャルになっちゃうと。知らない人からすると「何なんだこれは」となるけれど、そうした爆発力がある。そうした魅力が音楽にあるんだよね。でも、そうした音楽ツールを作ろうとおもっても、なかなかできない部分があるじゃないですか」

文原 「そうですね。僕はコーディングもデザインもまったくできないので、Twitterで誰かやってくれませんか? とつぶやいてみたんです。すると手を上げてくれる方がいた。実際に作り始めたのが去年のゴールデンウィーク頃なんですが、僕は神戸在住で、毎月東京に来て、技術イベント(テックランチ)や勉強会にも出て、こういうことがしたいんですと打ち合わせを重ねました。

 懇親会で名刺交換して、いろんな方を紹介してもらったんです。今のメンバーもそうした懇親会やSNSで知り合った方ばかりです。神戸のコワーキングスペースでつながった方もいます。そうしながらサーバーエンジニアやデザイナー、iPhoneエンジニアの方と知り合いました。シリコンバレーの方とも知り合いました。日本はどちらかというとシャイな国民性だと思いますが、アメリカだと自己顕示欲も強いですし」

遠藤 「すごい行動力ですね」

文原 「(笑)。アメリカの音楽が好きだというのもありましたから。音を重ねていく、というのはゴスペルなんかもそうですし。それで、興味のあるメンバーが集まって、シリコンバレーに行きまして、現地のベンチャーキャピタルの方とお会いしたんです」

遠藤 「すごいね。やっぱ“アメリカいかなアカン”みたいな話になったワケ?」

文原 「そうですね(笑)。一度は見ておかないと。それで、知り合いの伝手でGoogleやFacebookに訪問したりもしました。英語はあまり喋れないんですけどね」

遠藤 「パソコン業界だと英語は必須のように思われるけど、意外になんとかなるんだよね」

文原 「そうですね。それで、一緒にシリコンバレーに行ったメンバーから、iOSの開発者さんを紹介してもらうことができました。そこから本格的に作り始めることになったんです。それが2011年の11月の頃でした。その間、アプリを作り直したりなんかで時間がかかっていますが。同時期にインキュベーターからの出資が決まり、関西から上京した次第です」

遠藤 「それまでは、ずっと実家だったと」

文原 「はい。その後は出資金で会社を作り、iOSの開発者やデザイナー、サーバーエンジニアの方を招き入れて本格的に仕事をするようになりました」

遠藤 「なんかバンドみたいだね。サーバーがドラムで、デザイナーが、ええと、まぁそんな感じ。次はどうやって立ち上げるかだね。かなり重要なポイントではあるけれど」

文原 「多くのメディアにもお知らせしてはいますが、他にもワールドワイドでEプロモーション展開も予定していたりするんです。世界中で『We Are the World』を歌おうというものなんですけど。まずは国内から、おもしろいことができないかと模索中です。たとえばカラオケの音源を入れてしまおうとか」

遠藤 「カラオケの始まりは、たしか70年代。それから80年代には世界を席巻した文化の1つだし、いいかもしれないね。ところで、どうして『nana(ナナ)』なの?」

文原 「歌のハミングです。最初は『ラララ』だったんですけれど、『ナナ』だと日本の女性としてよく聞く名前でもあるので。関係はないのですけど、漫画にもありましたよね。歌姫のようなイメージにもなるかなと。そうしたアイデンティティを持たせたかったんです」

遠藤 「そういえば、中国では一部で『あきな』という名前が人気で、『な』というのは女性という意味があると思われていたんだそう。話を戻すと、サービスの名前をわかりやすくする、というのはITサービスのトレンドでもあるんですよ。俺だったら『オケカラ』とかってサービス名にするかなぁ」

文原 「(笑)。『カラオケ』の逆ですね」

遠藤 「そうそう。概念が似ているけど、なんか違うような、同じような。という意味でね。韓国でこういうのあったような気もするけど。そうそう、たしか、2000年頃に韓国で取材したとき、あちらではすでにネットバブルがはじけそうなくらい成長していた。

 一方で、CDを売っているリアル店舗は床面積がどんどん狭くなっていた。規模が縮小していたんだね。何がそうした状況を生んだのかというと、「Bugs Music」をはじめとする無料で音楽を聞いて、コンピレーションを作れるサイトが急成長していたんだよ。

 それで、僕が『疲れたー』と言うと、誰かが癒し系の曲を集めたコンピレーションを作ってくれる。良くできているのは、そのコンピレーションを一般に公開しなくてはならないこと。みんなに見られちゃうしメッセージも付くので、自然とがんばっちゃうんだよね。だって、この人はセンスいいって思われたいじゃない。結果、サービスは大ヒットしたんだけど、今にして思うとネットコミュニケーションのツボを捉えていたんだね。

 話がそれちゃったけど、今や韓国でカラオケというと、ソウルだけみてもかなりの店舗数がある。中には巨大なディスプレーが1つと、小さなモニターが4つほどある。それぞれのモニターにカメラが付いていて、パソコンを使いながら歌っている自分を撮影できちゃう。あとで自分たちの歌う姿を見るための、いわゆるコミュニケーションツールとしてのサービスなんだけど、提供している企業の社長は『素人が歌う風景ほど最高のコンテンツはない』という。たしかに、ニコニコ動画やYouTubeなんかも素人が盛り上げているし、アダルトでも1ジャンルを築いているよね。

   それでカラオケがすごく流行しちゃって、韓国では大手企業がスポンサーになってコンテストもやったりしている。もともとはコミュニケーションツールだったものが、いまやコンテンツとして蓄積されているというわけ。カラオケのシステムから表舞台に出てきたシンガーもいるのよ。トンソーロシスターズとか」

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