超省電力CPUも可能にする結晶構造CAAC
一方、CAACは、結晶性IGZOとして、新たな結晶構造として開発されたものだ。
これまでの薄膜IGZOは、アモルファス構造を持っており、結晶化は不可能とされていたが、半導体エネルギー研究所ではアモルファス構造とも、単結晶構造とも異なる、CAACと呼ぶ構造を「偶然により発見」(半導体エネルギー研究所・山崎舜平代表取締役社長)。これまでのアモルファスIGZOを用いた薄膜トランジスタでは、ゲートBTに対する変動、とくに光照射時のBTが問題になっていたが、CAAC-IGZOでは光照射BTによる影響を低く抑え、信頼性を改善でき、より安定した薄膜トランジスタの作製に成功したという。
「C軸方向からみると六角形構造となり、C軸を垂直方向からみると、層状構造となっている。これまでにはないこうした新たな構造によって、物性を安定化させることができ、信頼性が高まるだけでなく、高精細化などのほか、幅広い分野への応用展開が可能になる」(山崎社長)という。
同社では、スマートフォン向けとなる4.9型(720×1280ドット、302ppi)および、モバイル機器向けとなる6.1型(2560×1600ドット、498ppi)の液晶ディスプレイを試作。さらに、タブレット端末やノートPCなどに採用できる13.5型(3840×2160ドット、326ppi)の有機ディスプレイ、およびスマートフォンや未来型ICカードなどにも採用できる3.4型(540×960ドット、326ppi)のフレキシブルタイプの有機ELディスプレイの試作品を発表。幅広い分野に活用できることを示してみせた。
「CAACによって、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイだけでなく、ノンディスプレイ分野への応用も期待できる。この技術を活用することで、フラッシュメモリや、デジタルカメラのイメージセンサー、極小電力で動作するCPUといったものも開発できる」(山崎社長)としている。
モバイル液晶事業への展開
シャープでは、IGZOを、「モバイル液晶技術のコアテクノロジー」あるいは、「モバイル液晶の成長エンジン」という言葉で表現する。
その理由はなにか。
ひとつには、IGZOがモバイル液晶において求められる要件において、数々のメリットを発揮できるからだ。
高精細化という点では、500ppi以上の解像度を実現でき、さらに低消費電力化や、タッチパネルの利用でもSN比を約5倍に高め、操作性を高めることができる。
シャープの水嶋副社長は、「モバイル液晶は成長分野であり、2015年度まで、年率17%増という成長を遂げると予想されている」とする。
液晶テレビ事業は、国内各社が赤字となり、不振ぶりが伝えられるが、これは大型液晶の話。スマートフォンやタブレットに用いられる中小型液晶は、むしろ成長市場に位置づけられているのだ。
「モバイル液晶はシャープの成長において、重要な市場領域と考えている。技術革新が求められており、新たな製品力、技術力の発揮が求められる分野でもある」と、大型液晶事業とは置かれた立場の違いを強調する。
スマートフォンやタブレット端末では、表示容量の大型化や高精細化がますます求められており、ここでIGZOの優位性が発揮されることになるのだ。
また、現在の液晶パネルでは、パネル駆動に関わる消費電力が半分以上を占めており、商品化した段階では、実にパネル駆動消費電力とバックライトの消費電力で、全体の75%を消費しているという状況にある。
Igzo液晶は、バネルおよび駆動技術によって、液晶パネルの低消費電力化とともに、液晶パネルの開口率向上、新たなバックライト技術の採用によってバックライトの低消費電力化にも寄与する。スマートフォンやタブレットの長時間駆動にも大きく寄与することになる。
さらに、Windows 8の登場などにより、今後はタッチパネルを搭載したノートPCやスマートフォンが拡大するとみられ、ここでもIGZOの特性が生かせることになる。
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