フツーのオーバークロックマンガを目指しているのではない!
――二ノ宮さんの漫画の中には、よく結構きつめの人物が出てきますよね。今回もオーバークロックの師匠みたいな立場の人としてMIKEが登場します。
二ノ宮:だって、ありきですから(笑)。
duck:ええ、そんな凶暴じゃないよ(笑)。
二ノ宮:凶暴じゃないけど、けっこうドSっぽいというか。そういうところも大げさに描きたいですよね。そういうキャラを描くのが元々得意ですし。私の中にあるSッ気も混ざっているのかなあと(笑)。子どもとかが泣いてると一番かわいいと思うので(笑)。必死に泣いてるのに「ククク……」って(笑)。
――最初にオーバークロックのことを漫画にすると話をしたのは?
二ノ宮:ずいぶん早くに……。
duck:2、3年くらい前ですね。
二ノ宮:話を聞いているときに「それ、次描くから。“のだめ”が終わったら詳しくお伺いします」と言って、ずっと置いていたんです。
――まだ“のだめ”の連載をやっている最中のことだったんですね。
duck:そうですね。実際、リアルのだめにも会ってましたし。
――それを最初に担当編集者に話したときはどんな感じだったんですか?
二ノ宮:「目が点」に(笑)。
――ですよねー(笑)。
duck:編集者の中にもそこそこパソコンに詳しい方もいらっしゃるわけですが、「何でオーバークロック?」という反応でした(笑)。
誤解しているのは、日本でオーバークロックというのは、自作PCの中のオーバークロックというイメージなんですよね。日本でも10年くらい前にCerelon-300Aとかそういうのが流行りましたけど、そういう反応される方はその時代の生き残りなんです。でも、あのオーバークロックは確かに面白かったけど、デメリットもすごく多かった。結局は負荷をかけるから長持ちしない、壊れる、一瞬だけのお遊びみたいな感じでした。思ったよりも早く火が消えていって、アキバの街もPC自体がシュリンクしていって……。オーバークロックって、そういうネガティブなイメージがものすごいあるんです。日本人のオーバークロックに対する悪いところは、自作PCありきのオーバークロックというところなんです。実はオーバークロックは自作PCのものでもなんでもなくて、半導体にマージンがあればなんでもできる。自作PCというくくりがあること自体、日本だけなんですよ。海外はそんなことない。最初から液体窒素で入る人もすごく多い。PCケースなんかに入れないで、そのままバラックで置いてという人もいます。最近はオーバークロック機能ってついてないマザーのほうが少ないですから。外国ではオーバークロック機能使いたいからって、窒素冷却用の筒も売っていますし。
二ノ宮:あの筒、売ってるんですか?
duck:売ってますよ。実際、友達が会社を立ち上げて、ビデオカードやCPUにつける筒を販売しています。そういう人もすごく多くて。ゲーマーから出てる人もすごく多い。まさにホビーの世界ですよね。国内で「いまさらオーバークロックの漫画を描くの?」みたいな反応ですけど、「いや、違うからっ!」っていうのが正直な感想です。
二ノ宮:そういう声をちらほら聞くんで、「あー、私はなんて言ったらいいかわからないけど、duckさんお願いします」って思っていたから助かりました(笑)
duck:自作PCの漫画じゃないってことを言ってしまうとそれは嘘になるし、否定はしません。だけど自作PCだけで漫画を描くんだったら、多分コミック3巻だけでネタが尽きます。そんなところじゃなくて、もっと大きなところです。ぶっちゃけ、スーパーコンピューターだってオーバークロックしてますし。そういう世界観です。
二ノ宮:誤解があるのは感じるんですよ。「オーバークロックのマンガを描いてどうなるの?」みたいなことを、むしろ自作を昔からやってきた人たちのほうが言うんで。だから「ちょっと違うんだけどなー」って。
duck:あと言われるのは、これから先はタブレットとかスマホにどんどんシフトしていく中で、自作PCとかオーバークロックが「何の役に立つんだ?」とかですね。ちょっとネタとして「遅すぎないか?」とか。大きなパソコン自体がいらなくなっていくんじゃないかとか言われていて、もちろん僕もそうなっていくと思ってます。だけど車の世界で言うと、だからといって走り屋向けとか、パワーのある車は絶対になくならないわけです。用途を絞り込むことによってシェアが拡大することってあるんです。同じ見方をしてたんじゃあ、どんどん廃れていくし、多分この漫画もそういうメッセージを発する役割があると思うのですよ。以前に打ち合わせした際にそういう話をしました。「どういう形でオーバークロックの世界は残っていくんだ?」と。パワー思考の人はどの世界にもいるので絶対になくなりませんから。
――アルゴリズムの効率化とか調整で今の「京」も相当速くなっているわけですからね。
二ノ宮:走り屋の漫画があるんだもんね。
duck:頭文字Dですね(笑)。
――漫画界の頭文字Dを目指すと。
二ノ宮:いや、目指すわけじゃないですけど(笑)。