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CloudStackの商用版は“Citrix CloudPlatform”と改名

新製品よりワークスタイルの変革を目指すシトリックス

2012年05月11日 06時00分更新

文● 渡邊利和

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5月9日、Citrix Systemsは米サンフランシスコで“Citrix Synergy 2012”を開幕した。午前の基調講演ではCEOのマーク・テンプルトン氏が講演を行ない、最新情報を一挙に公表した。

充実するクラウド関連製品

 Citrix Synergyの基調講演ではさまざまな新製品や新バージョン、企業買収等が発表になるのが恒例で、今年も例外ではなく、多数の新発表が盛り込まれていた。

基調講演を行なう米シトリックス・システムズの社長兼CEOのマーク・テンプルトン氏

 製品としては、昨年秋にバルセロナで開催されたSynergyで公表された、同社のHDXプロトコルをハードウェアで処理する“HDX Ready System-on-a-Chip”の取り組みが具体的な製品につながり、WYSEとHPの端末が紹介された。特にHPの“HP All-in-One Zero Client”は、Ethernetケーブル経由で給電を受けるPoE方式を採用したことで接続するのはEthernetケーブル1本のみで、消費電力は13Wというシンプルな端末ながらHDXのハードウェア処理による高速な処理を実現したという。

HPの新しいシンクライアントとなる“HP All-in-One Zero Client”の概要。見た目は事実上単なる液晶ディスプレイにしか見えない。デモでは、キーボード/マウスをワイヤレス接続していたようだった。

 また、Facebookを彷彿とさせるソーシャルツールを開発しているPODIOの買収や、エンタープライズ向けのファイル共有サービス“ShareFile”にエンタープライズ向けならでは新機能としてデータの保存場所を明示的に選択できる機能が加わり、“ShareFile with StorageZones”として発表されたことなどが目を引くところだろう。企業がクラウドを活用する際に必要となる機能やサービスでは、現在同社の取り組みがもっとも充実していると言って過言ではないと思われる。

ShareFile with StorageZonesの概要。ユーザーがデータの保存場所を明示的にコントロールできるようにすることで、企業によってより使いやすいサービスとなった

ワークスタイルの変革が中心に

 また、以前とは異なる印象を受けた点として、これら新製品そのものよりも、それを使って「ワークスタイルを変革する」という点に重点が置かれているように感じられた。

 同社は、かつて一世を風靡したMetaFrameで知られるとおり、まだネットワークの活用がようやく始まったくらいの時期からWindows環境での「サーバ・サイド・コンピューティング」を実現していた企業だ。ここで培われた画面配信技術がデスクトップ仮想化やアプリケーション仮想化に発展し、サーバ・サイド・コンピューティングがクラウド・コンピューティングになった、という流れではあるのだが、その背後には「ユーザーがいつでもどこでも柔軟に働ける」モバイル・ワークスタイルの実現、というコンセプトがあり、技術や製品はむしろこのコンセプトを実現するための手段でしかない、というメッセージが強められていた。クラウド関連の製品やサービスが充実したことで「何のためのクラウド関連技術か」「クラウドで何をするのか」という点をストレートにアピールできる環境が整った、ということなのかもしれない。こうした取り組みの延長上に、「今回最大の発表」と位置づけられたProject Avalonを置くこともできるだろう。

Project Avalonの概要。中央部分がProject Avalonで、左右に配されたCloudGateway、NetSCaler、CloudPortal、ShareFile、CloudBridgeはProject Avalonと組み合わせるという位置づけ。この図は基調講演ではなくプレス向けのブリーフィングで紹介されたものだが、XenAppが含まれていない点など、まだメッセージ内容が微妙に固まっていない様子も伝わってくる

 Project Avalonの中核にあるのは、同社の基幹製品であるXenApp/XenDesktopのクラウド対応なのだが、その周囲に同社のクラウド関連製品/サービスが組み合わされることで統合的なソリューションとしての色彩も帯びている。

 一方で、一時はXenApp/XenDesktopと並んで重要視されたハイパーバイザー製品であるXenServerはほとんど言及されることがなくなり、XenApp/XenDesktopはマルチハイパーバイザー対応が謳われるようになっている。これは、CloudStackがApache Foundationに移管されてオープンソース・プロジェクトとして再スタートし、同社の商用製品版が“Citrix CloudPlatform”と改名されたことと考え合わせると、「同社の強みであり、ワークスタイルの変革に直接つながるのはやはりXenApp/XenDesktopであり、それを支えるインフラ技術の部分はあえて独自色にこだわる必要はない」といった米国企業ならではの“コア・コンピタンスへの集中”が行なわれた結果のようにも見える。

 とりあえず、以前のような「あれもこれも」という総花的な新製品紹介が行なわれているように見えつつも、実はポイントの絞り込みが行なわれている今回のメッセージの方が、企業ユーザーが同社の製品を活用した場合にどのような業務環境が実現できるかという点がイメージしやすくなっているのは間違いないように思われる。

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