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大河原克行が斬る「日本のIT業界」 第33回

ゲームビジネス開始後、初の営業赤字

任天堂はゲーム人口拡大の主役に返り咲けるのか?

2012年05月08日 09時00分更新

文● 大河原克行

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ゲームをコア事業に位置づけるソニー

 これに対して、ソニー・コンピュータエンタテインメント、マイクロソフトはゲームビジネスで成長へと転じている。

 ソニーの平井一夫社長は、4月に行った経営方針説明のなかで、エレクトロニクス事業の重点領域のひとつに、ゲーム事業を掲げながら、「エンタテインメント事業は、安定した基盤を持つ事業へと成長した。今後も、PlayStation VitaやPlayStation 3に加え、周辺機器によって、堅実な利益を創出する」と語り、2014年度には、ゲーム事業で売上高1兆円、営業利益率8%を目指す計画を明らかにした

ソニーの平井一夫社長は、4月に行った経営方針説明のなかで、2014年度には、ゲーム事業で売上高1兆円、営業利益率8%を目指す計画を明らかにした。

 ネットワークを通じたエンタテインメントビジネスも加速し、ゲームソフトのダウンロード販売であるPlayStation Network、定額課金サービスであるPlayStation Plus、カジュアルゲーム対応端末向けにコンテンツを提供するPlayStation Suiteによって、この分野でも事業拡大を図る考えだ。

 米マイクロソフトでは、Xbox 360事業を展開するEntertainment&Devices事業部の2012年1~3月の業績が、前年同期比16%減の16億2000万ドル、2億2900万ドルの赤字と厳しい内容となっているが、クリスマス商戦を含む2011年10~12月における売上高は、前年同期比15%増の42億4000万ドルとなり、同社の5つの事業部門の中で最も高い成長率を記録するという好調ぶりをみせていた。

 Xbox 360の累計出荷はすでに6600万台を突破。Xbox LIVEの登録者数も全世界で4000万人に達した。また、Xbox向けのKinectも1800万台の累計出荷し、2011年3月には発売後2ヵ月の販売台数で、iPhoneやiPadを抜き、短期間で最も売れた家庭用電化製品端末として、ギネスに認定されている。

 最新四半期の決算では、クリスマス商戦での反動が見られたものの、米国市場では、15ヵ月間に渡り、最も売れたゲーム専用機の地位を維持しているという。

「任天堂らしい利益」は2013年度以降に

 では、任天堂は、業績回復に向けてどんな取り組みをするのか。

 ハードウェアでは、ニンテンドー3DSが、前年比36.7%増となる1850万台、Wiiは今年の年末商戦に発売予定のWii Uを含めて、前年比6.7%増の1050万台。ニンテンドーDSは、前年の510万台から半減となる250万台を計画しており、ハードウェアビジネスについては比較的慎重な見方をしている。

 ニンテンドー3DSでは、2012年4月28日での韓国での発売など、アジア地域への販売強化が鍵となり、これら地域での販売が量産効果による逆ざや解消に貢献することになる。

 これに対して、ソフトウェアでは、3DS用ソフトが前年の3600万本から7300万本へと倍増を見込んでいる。ここには、デジタル配信である「ニンテンドーeショップ」によるパッケージソフトのダウンロード販売も含んでいる。

 同社によると、ニンテンドー3DSのインターネット接続率は、日本および米国市場では、70%を超えており、欧州、オーストラリアでも、約50%となっている。これまでの任天堂の携帯型ゲーム機の中で、最も高いインターネット接続率を実現していることが、ニンテンドー3DSおよびWii U向けのオンライン販売である「ニンテンドーeショップ」の広がりにどうつながるかが注目される。

 だが、海外でのニンテンドー3DSの普及が遅れていることから、ニンテンドー3DS用ソフトウェアの販売計画は、ニンテンドーDSの時よりも控えめな数字に留めているのも事実だ。

 特に、ニンテンドー3DSでは、ユーザー拡大型のソフトウェアの展開が遅いことを認めながらも、「これまでは奥の深さを狙った。今後についてはこれから変わっていく。幅の広さと深さの両方を充実させることで、一つのプラットフォームで、より幅広いお客様に満足してもらえるようにしたい」とする。

 同社では、ニンテンドー3DS向けに、8月には「NEW スーパーマリオブラザーズ2」を、2012年秋には、「とびだせ どうぶつの森」をそれぞれ発売する予定であり、東北大学の川島隆太教授と一緒に開発を進めている、集中力とワーキングメモリーを鍛える「鬼トレ」も今年夏に国内で発売。これらのソフトウェアの売れ行きも注目されよう。

 「このほかにも、今期発売予定の未発表タイトルがある。自社ソフトだけでも、かなりリッチなソフトラインナップを提案できる」と、岩田社長は自信をみせる。 一方で、年末商戦向けに発売される新製品「Wii U」に関しても、やはり最初に、どんなキラーアプリケーションが登場するかが注目される。

Wii Uの最終形は今年6月に発表される予定

 今年6月に米ロサンゼルスで開催されるE3において、その最終形が発表されるとともに、年内のソフトラインナップについても発表されることになる。業界関係者の関心は高まるばかりだ。 6.2型タッチスクリーンを搭載した新たなコントローラを採用したWii Uの操作性を生かしたアプリケーションの登場に期待したい。

 ここでは、2012年8月2日にWii版が発売される「ドラゴンクエストX」(スクウェア・エニックス)が、時期未定ながらも、Wii U向けに発売されることが公表されており、これがWii Uの販売にも影響を与えることになるだろう。

 任天堂によると、上期までニンテンドー3DSの赤字販売が続くこともあり、2012年度通期の業績見通しでは、営業利益は350億円、経常利益は350億円、当期純利益は200億円という黒字幅に留まると予想。売上高では26.6%増の8200億円と見込んでいる。岩田社長は、「任天堂らしい利益を目指す」とするが、それこそが2013年度以降の課題となる。

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