人は予定調和では感動しない
丸山 テレビ的な考え方では、「マスに観てもらうなら、誰にでも観やすい番組にする」という考え方もありました。誰にでも観やすい番組というのは、表現としては薄味になりがちです。僕は“表現を丸める”と言っていますが、丸めることがマスをとる正義かと言ったら、今はもう違うんじゃないかなと。アニメの場合は特にそうですが。
―― なぜそうお考えになるのでしょうか。
丸山 昔のように、テレビの中だけでどの番組を選ぶかだけだったら、薄味の表現でもよかったかもしれない。でも、今はゲームやインターネットといった「家でできる娯楽メディア」の選択肢が激増して、気を引くモノであふれてる。ユーザーも様々な刺激を体験して、単に薄味のものでは物足りなさを感じてしまうと思うんですね。今の時代、マスを狙って丸いものだけ出していたら、逆に誰も観てくれない可能性がある。それはエンターテイメント業界だけでなく、様々な消費財がそうなってきていると思います。
―― “マスなき時代”の突破口は、何だとお考えになりますか?
丸山 これまでの経験、失敗から思うのは、結局マスというのは「ひとりひとりの集合体」だというある意味で基本に立ち返ることです。テレビの向こうにいる、ある一人の人に強く刺したいという気分で、トガった、まさに「個性のある」作品作りをすることなのかなあと。
―― 前回伺った、深夜アニメ編成のお話ともリンクしていますね。一つ一つは狭い層に向けた作品群だけれども、バリエーションと数を用意することで、結果的にマスくらいの数をカバーする、という発想ですね。
丸山 はい。……でも人の心に刺さる表現をしないと、と言いながらいつも葛藤もしたりするんです。トガった表現というのは、ひとつ間違えると同時にマニアックになりすぎて誰もついていけなくなったり、誰かを不快にさせてしまう危険性もある。だからテレビプロデューサーの習性的な感じで、クリエイターさんがトガらせた角を削ってしまいそうになったり、公共放送でやるために必要なラインを考えたりして、常に迷いながらやっています。
「映像を送る」という行為だけで、見ている人の気持ちを動かすというのは、やはり大変な作業だと痛感してます。悩みの少ない予定調和な作品になってしまうとダメですね。
―― 「予定調和な作品」というのは、どんなものでしょうか。
丸山 既視感の強いもの、狙いすぎた作品です。プロデューサーも人なので、直近の仕事結果が思わしくなかったりすると、“ストライクゾーン”に入れにいきたいという気持ちに駆られることがあったりします。ユーザーさんに過去にこういうものが喜ばれていたからと、そこに球を投げようとし過ぎる。でも見ている方は、“置きにいってるような”“前に似たのがあったような”作品だと、「それはもう見たから」となってしまう。そういうものは、やはり感動とは遠くなりがちで……。
過去のリサーチでうまくいった要素を集めれば、一見、企画書としてはピカピカに光って見える。そういう作品は、成立はしやすいかもしれない。第一話までは見ていただけるかもしれない。でもその後、続けて見てもらえるかどうか。結局、感動した人々が生まれなかったら、先には続いていかないと感じます。
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