パクる側、パクられる側の共犯関係でシーンが活性化されている
―― もうひとつ、この本でグッとくるのは長谷川さんのこれです。「ヒップホップはシーンを天才が牽引するというよりは、皆がトップを争ってボトムから上がっていく感じなんですよ。最新の成果はシーンに還元されて共有財産になっていく。トップランナーがコケても成果はボトムに還元されているから、シーンのレベルは常に上がり続ける」これは、いまネット上で起きているCGMの流れと同じだと思うんですが、ヒップホップはインターネットのない時代からそうだったという。そこに驚きました。
長谷川 ヒップホップとコンピュータの世界が似ているのは、著作権という概念が合わなくなっているところですね。もともと模倣とかコピーというのは、音楽ですから当然あります。でも、ヒップホップの場合は「パクリ」としか言えないようなものが基本にあるし、真似された側もパクられて当然だと思っているところがある。自分が受け入れられたということですから。パクる側、パクられる側の共犯関係でシーンが活性化されているというか。
―― そもそもデジタルメディアの物性として、コピーしないことには操作も成り立たないわけですからね。コンピュータやネットもヒップホップ的なんですよね。
長谷川 でもロックの人からの目線で「パクりは黒人音楽の財産を食いつぶすことだ」と批判した人も相当いたわけです。それが実際どうなったかというと、ヒップホップ以降の音楽は進化していると思うんですよ。
大和田 ただアメリカも著作権を無視してOKということはないし、むしろ社会全体は保守化する傾向にあります。その中で面白いのは、ヒップホップが西海岸から南部へ移る過程で、トラックがどんどんビートだけになっているんです。つまり制度の恣意性というか。著作権ってメロディにかかるわけで、ビートではない。結局そこが生き残ったとも言えるわけです。サンプリングも昔に比べたら少なくなっているし。
長谷川 サンプリングが減っている理由はもうひとつあって、やっている側にヒップホップが内在化してきたことです。指で弾いてもそれがヒップホップっぽくなる。前はサンプリングがなければ、その“ノリ”が出せなかったんですけど、そういう世代の新しさというのはあると思いますね。
―― 身体が覚えたこのブレイクビーツ、みたいなことになっていくわけですね。生まれた頃から聴いているんで。
長谷川 だから今後、生まれた時から初音ミクを聴いていた世代が出てきた時に、何が起こるかということですね。ヒップホップで言えば、今はまだ東海岸のサンプリング時代なわけですよ。
―― まだ80年代の終りくらいであると。ネイティヴ世代の新しさについては、すでに兆しはある気がしますね。
▲ゴーゴー幽霊船 / 米津玄師(aka ハチ)。20歳の若手トップボカロPが、自らマイクをとった曲。アレンジや歌唱表現に最新ボカロ曲の特徴が見られるが、歌は自身の肉声だ |
大和田 それと、これは既によくいわれていることですが、萌え要素ってブレイクビーツと同じなんですよ。全体の中の一部分を取り出してという。ブレイクビーツの構造と猫耳とかパーツに萌えるのと一緒なんですよね。
―― ははは。なるほどねー。
大和田 古い発想だと、全体があっての部分ということになるんですけど、ヒップホップは気持ちのいいところだけ反復しちゃえという発想なわけですね。全体との関係がなくてもいい。
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