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HDDの容量を飛躍的に増加! 熱アシストの正体とは?

2012年02月23日 12時00分更新

文● 近江 忠

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HDDの容量増加は究極の省エネだ!

―― レーザーで50nmまで収束させると、媒体の温度はどれくらいになるのでしょう?

島沢 300℃以上の加熱能力はありますが、200℃以上にはする予定です。

―― その場合にHDDそのものの温度はどうなるんですか? 煙が出てきたらイヤだなと思うんですけど。

島沢 加熱領域が非常に小さいので、媒体全体に影響する熱量はごくわずかです。

―― じゃあ一瞬強烈に暖めて、すぐに冷えるという感じですか。

島沢 はい、受ける熱エネルギー量は非常に少ないものです。面積が小さいので。

―― 超巨大な鍋をずっとトロ火で……みたいなイメージですかね。

島沢 というよりは、鍋の底を、先端が加熱された縫い針でちょっとさわっているような感じです。従って、鍋の温度は上がりません。局所的に、限定的に見れば高い温度になっていることは事実ですが。

―― それ(レーザー)だけでも電力を使うわけじゃないですか。電力消費量ってどれくらいなんですか?

島沢 レーザーが消費する電力は微々たるもので、HDD全体の数%のレベルです。

―― HDDを使ったノートパソコンとかで、レーザーが付いたHDDを使っても動作時間は誤差範囲だと。

島沢 そうなるはずです。媒体を回転させたり、ヘッドを駆動するときの消費電力に比べれば、ヘッドの方でちょっとレーザーの分が上乗せされても……という感じです。

―― ようやくここまで来たわけですけど、いつごろモノはできるのでしょうか?

島沢 TDKとしては、2013年の早い時期には、ドライブメーカーさんから「量産を始めるから大量にヘッドを出してくれ」と言われても「はい喜んで」とお答えできるように技術と量産設備を揃える予定です。もちろん、モノが市場に出るタイミングはお客様のお考え次第となりますが。

―― けっこう値段は高くなるんですかね……?

島沢 もちろん、今現在の技術で量産すれば高くなりますが、そこからが我々の腕の見せどころです。結論から言えば、現在の製品と同じか、もしくはそれ以下の価格でご提供しないと意味がないと思いますし、それは可能であると考えています。

―― 実現できそうですか?

島沢 それをやってきたのがHDD、そしてTDKの磁気ヘッドの歴史です。そして、実現させなければなりません。サーバーの電力消費を何とか低減したいという要求が年々高まっています。2006年に米国のデータセンター運用に消費される電力は7000MWということです。簡単にいうと、最近問題になっている原発1基が1年間に発電できる量が1000MW。つまり7000MWは原発7基分に相当します。それに2006年というのは今からもう5年前であり、クラウドが出てくる前です。サーバーはどんどんデータが増えている状況で、今や当時よりも3~5倍くらいになっている可能性があるんですよ。

※ “Report to Congress on Server and Data Center Energy Efficiency Public Law 109-431”, U.S. Environmental Protection Agency, ENERGY STAR Program, Aug, 2007

―― そんなに多くのエネルギーを消費していたんですか!(図8)

島沢 調査機関によると、今後の情報爆発によって2050年頃には原発300基分以上の発電量に相当するエネルギーが世界のデータセンターで消費される見通しも示されています。でも、HDDの記録密度を今の10倍にできれば30基でOKです。そういう社会的な要請があるものというのは、最終的にモノになるんじゃないかと感じるのです。これを売れば儲かるとかそういうことではなく、社会が求めているものだとなれば純粋に多くの力が結集し、最終的には実現するのではないかと。実際、媒体をご提供いただいている昭和電工様をはじめ、日々有用なアドバイスを頂戴しているドライブメーカー様や大学の先生方なども含め、多くの方々のお力によって着実に前進しています。

図8 各分野のシミュレータにどのくらいの容量のデータ保存領域が必要なのかを示した図。ペタバイト級の容量が必要なのがよくわかる(NEDO公開資料より)

―― なるほど。

島沢 例えば核融合のシミュレーションをするにしても、CPUの能力が必要なのは当然なんですけど、HDDも必要なのです。計算したデータを保管して、それをまた引き出すというときに。原子力の分析なんかは数10PB(ペタバイト)とかですね。1000TB=1PBですからね。ペタまで考えていかないと、この先の社会の発展には寄与できない。それにストレージに対する非常に強い要請がある。記録密度はこれからもまだまだ上げていかないと。

―― (資料を見て)ロケットエンジンの燃焼シミュレーター、100PBも要るんですか!

島沢 要ります。それだけのものがないと計算できません。地球シミュレーターが250TBくらいです。これくらいなら今でも計算できますが、まだここは伸ばしていかないといけない部分です。タブレットPCになるとHDDは使われないから、HDDはもう進歩しなくて良いということではないんですね。

―― なるほど、重要性がよくわかりました。では最後に、読者に向けて技術者としてのメッセージをお願いします。

島沢 磁性というのは歴史的に日本が強い。日本がリーダーシップを発揮できている学問分野の1つだと思います。近接場光に関しても同様です。それらの1つの応用がHDDであり、これからも期待されている技術です。技術者としては、やっぱり世界と戦って勝っていきたいと強く考えています。1つ問題意識を持っているのが、日本は原料/燃料/食料あわせて、年間36兆円くらい外国から色々なモノを買って、それによって成り立っています。するとその分外に出て36兆円分売らなければいけない。そのうちの1つがHDDのような、日本に強い独自性のある部品技術であり高度な製造技術だと思うんです。なんとしてでもそこで勝って、36兆円の何分の1でも外国勢との競争で勝ち取って、日本という国に貢献したいと思います。いや、日本だけじゃなく、世界の生活を豊かにしたいと思います。

 HDDって一見地味なんですけど、実は、次の世代に繋がる非常に価値がある仕事だと思っています。まだまだ伸ばして行かなければなりません。ですから、この分野に若い人たちにもどんどん入ってきてほしいなと思います。ゆとり世代なんて言われていますが、最近の新入社員は皆さん優秀です。熱エネルギーに負けない頑固さもしっかり秘めています。ぜひ一緒に、世界に勝つ日本独自の新技術を作り上げていきたいと思います。



【取材協力】

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