電子教科書のオープン化・無料化
実は電子教科書におけるこのような試みは、これまでも行われてきた。例えば「Connexions」は、米国の高等教育界における最大級の電子出版のためのオープンなプラットフォームで、テキサス州の名門私立大学として知られるライス大学のプロジェクトとして'00年に始まった。Connexionsがプロジェクトとして立ち上げられる発端となったのは、私の友人でもある同大学の工学部教授リチャード・バラニックと他大学の同僚たちが、「自分たちが講義に使いたいような、最新の内容を網羅した工学分野のいい教科書が不足している」という不満であった。
彼らは協力して、自らの手による新しい教科書の執筆に取り掛かったのだが、その過程において、「教科書を章や節などの『モジュール』単位で、無料で共有できるオンラインプラットフォームがあれば便利だ」ということになり、Connexionsの原型となるシステムの開発が始まった。現在、Connexionsのウェブサイトでは、教科書のモジュールを作成するためのさまざまなオーサリングツールがオンラインで提供されており、教員は新しいモジュールを作成すると直ちに公開することができる。同ウェブサイトでは、世界中の大学や高等学校の教員などによって作られたさまざまな学問分野の教科書モジュールが、すでに1万6000点以上も公開されており、その数は増え続けている。
さらに教員や学生は、これらの教科書のモジュールの中から、自分たちが使いたいものをいくつか選び出し、自由に「リミックス」することが可能だ。このように、Connexionsのウェブサイト上でカスタマイズされた教科書は、電子版としてダウンロードできる。さらにオンデマンド印刷サービス「QOOP」を通じ、 オンラインで注文した部数だけ製本したものを、数日以内に郵送してもらうことも可能だ。印刷や製本代など多少は費用がかかるが、教科書のコンテンツ自体はオープンソースで無料であり、「教員や学生のニーズに合った内容の教科書を、いつでも必要なときに安価に入手可能にした」という点で、Connexionsは「教科書出版に革命をもたらした」と言えるだろう。
さて、それではこのような現在進行形の電子教科書のオープン化・無料化のムーブメントとアップルの教育における新戦略や事業展開は、今後どのように共存・協働・競合していくのだろうか。また、今回発表されたiTunes Uアプリは、教育をどのように変えていくのだろうか。続きはまた次回に。
筆者紹介――飯吉 透(iiyoshi@mac.com)
京都大学高等教育研究開発推進センター教授 Ph.D(教授システム学)。米国在住19年を経て、教育イノベーションや先進的な教育システムに関する研究や教育、啓蒙活動にグローバルに従事。大学や企業、研究開発プロジェクトなどのアドバイザーやコンサルタントなども務めるhttp://www.toruiiyoshi.com/
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