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Apple in Education : Hello Again! 第3回

iTunesで教科書を買うことがなぜ「革新的」なのか

2012年01月29日 12時00分更新

文● 飯吉 透

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次世代電子教科書とロングテール

 このような問題を解決するために、アップルが今回送り出すのが、iBooks 2とiBooks Authorだ。iBooks 2は、これまでの図や写真に加えて、動画やアニメーション、インタラクティブなモジュールを電子書籍の中に埋め込むことができるようになった。これは、iPad上の電子書籍のより高度なマルチメディア化が可能になったことを意味する。もちろんこれまでも、元素について学べる教育アプリ「The Elements」(元素図鑑)のようなマルチメディアを多用したインタラクティブな教材はあった。このような教材を、iBooks 2を通して標準的な電子教科書として流通させられるようになったことの意義は大きい。しかも、このような次世代の電子教科書を編集・制作するためのオーサリングツールiBooks Authorは無料で配布され、アップルのプレゼンテーション作成ツールである「Keynote」やウェブ制作では標準的なHTML5とJavaScriptを使って、簡単にインタラクティブなモジュールを作ることが可能だ。

 このようにして制作された電子教科書は、iBookstoreで無料配布・販売することができる。今回の発表の中でも大きく取り上げられていたように、アップルは、すでに米国の3大教科書出版会社と契約を交わしており、各社が販売してきた高校用の教科書の電子版(マルチメディアが多用され、インタラクティブになっている)をiBookstoreを通して発売する。価格は14・99ドル以下に抑えられるという。

 しかし、iBooks 2、iBooks AuthorとiBookstoreの組み合わせによって可能になるのは、「既存の大手教科書会社の教科書が電子化され安価に流通する」ということだけではない。本当に素晴らしいことは、学校の先生や大学の教員、学生の誰もが、iPad上で使える先進的な教科書の制作と配布・販売を、自分たちの手でできるようになったということだ。

 教育の多様化・個人対応化が求められる中で、教育がさらに進展するためには、教科書出版の「ロングテール化」は避けられない。よく知られているように、「ロングテール」とは米ワイヤード誌の編集長クリス・アンダーソンが、アマゾンのようなオンラインストアが「少量しか売れない製品を多種取りそろえて販売することによって、大量に売れる人気商品を少種販売するのに匹敵する利益を上げる」という、「新たなネットビジネスのモデル」を説明するために提唱した概念だ。

 教育における「ロングテール」の重要性は、「収益モデル」ではなく、「教育の大きなパラダイムシフト」にある。二十世紀型の教育モデルの基本が「少種多量」だとすると、めまぐるしい社会の変化やさまざまなニーズに対応するため、21世紀型の教育モデルは必然的に「多種少量」、つまり「ロングテール」モデルに基づかなくてはならないからだ。そして、アップルはこの「ロングテール化」を電子教科書において可能にしたのだ。

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