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2012年、日本のITはどうなる? 第4回

IT導入のファーストステップとしてのクラウドの価値

クラウドは中小企業を見捨てないと思う

2012年01月10日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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2010年に市民権を得たクラウドのブームは2011年も続いた。インフラを提供するIaaSのサービス拡充が続いたほか、さらにグローバル展開のため、クラウド導入が進んだというのも大きな特徴だ。担当が注目したいのは、やはり中小企業のIT活用にクラウドは有効なのではないかという仮説だ。

猫も杓子も「クラウド」となった2011年

 ASCII.jpでは2010年の10月にサブカテゴリとして「クラウド」タブを展開している。弊社のCMS上でTECHに掲載する記事に特定のIDを挿入しておくと、クラウドに掲出されるという仕組みになっているのだが、とにかくクラウドに関連した記事は多かった。サーバーやストレージ、ネットワーク機器はもちろん、複合機やAV機器、文房具まで「クラウド対応」の製品が生まれた。アップルがiCloudをスタートさせたこともあり、「なんちゃってクラウド対応」まで含めて、2011年はクラウドがコンシューマ市場に進出した年ともいえるだろう。

 では、実際の導入は進んだのか? もとよりクラウドの導入に関しては、サービスプロバイダーやオンラインゲームの事業者が先行していたが、これが一般企業に拡大しつつある。これに関しては、10・11月にIT関連4媒体で実施した「2011年 グローバルICT討論会」の記事を一読いただきたい。日経BPの星野氏やITmediaの浅井氏はクラウドの導入事例やCIOの意見を披露してくれたが、日本企業のグローバル進出において、クラウドが積極的に活用されているという事例は、自分にとっても新鮮であった。

「第2回メディア横断企画 グローバルICT討論会」の模様

クラウドはIT導入の起爆剤になるか?

 ただ、担当にとってどうしても気になるのは、日本企業の大半を占める中小企業におけるクラウドの導入である。仮想化やクラウド、データセンターなどの最新ソリューションを日々追いかけていると、どうしても中小企業のニーズや動向を置きざりにしがちだ。実際、事業者数の8割にのぼる10名未満のSOHOやスモールビジネスにおいては、クラウドどころかITの導入すらままならない状況である。これは、この10年ほぼ変わらないといえるのではないだろうか?

 しかし、クラウドは中小企業のIT導入を大きく促進する起爆剤になる予感がある。こうした気づきを与えてくれたのは、昨年に掲出した「日本の企業を変える!最新SaaS導入事例」での各社への取材だ。富士通のSaaS型CRMを導入した従業員5名のデザイン会社では、社長を含めた社員の方に意見を聞いたが、ここではビジネスのニーズとITがきちんと合致し、さらにクラウドだから導入できたという明確な根拠があった。月額課金で、サーバーなどの資産を持たないため、導入のハードルが低いこと。そして、モバイルでの利用に対応しているため、いつでも活用できるという点だ。社長自身がクラウドの効果により、ビジネスが変わったことを実感し、販売代理店までやりたいくらいだと話していたくらいだ。

事例を取材させてもらった神奈川県の厚木市にあるコンパスのオフィス

 こうした中小企業に対して、多くのベンダーやサービス事業者がこれまでさまざまな中小企業施策や低価格メニュー、アウトソーシングサービスを打ち出しているが、これだけでは不十分だ。では、クラウド導入を促進させる要因としてなにが必要か? 私はSIerがクラウドのメリットを理解することだと思う。

 多くのIT系ベンダーは、SIerよりも、ユーザーが製品選定のイニシアティブを握る米国の販売モデルを取り入れているが、私が見てきた多くの中小企業では、いわゆる「出入りの業者」と言われるSIerの担当者が、ユーザー企業のビジネスとITをつなぎあわせる役割を果たしている。こうしたSIerの方々に話を聞いていつも驚くのは、IT面での知識や動向だけはなく、ビジネス事情についてもユーザー企業の社員並みに詳しいという点だ。実際に出入りの業者側からユーザー側の企業に転職し、IT導入を担当している人もいた。ビジネスとITを理解する、こうした現場の人たちがクラウド導入を積極的に推進してくれれば、今までITからほど遠かった企業のIT導入も進むのではないかと思える。

 とはいえ、中小企業におけるクラウドの価値は未知数だ。「クラウドは中小企業を見捨てないと思う」というタイトルや本文も含め、本稿では確信を持たない表現を意図して多く用いている。というのも、担当自身が中小企業の実態を把握していると思えないからだ。2012年は、中小企業の事例取材を積極的に進めていこうと思う。

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