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日本のITを変えるクラウド世代のベンチャーたち 第1回

福岡のITベンチャーが新市場を切り開く

大ヒットMDMは余技?クラウドネイティブな「CLOMO」の価値

2012年01月13日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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「余技」で作った「悲しみの果て」が大ヒットしてしまったエレファントカシマシのように、本業のモバイルアプリ開発として離れたところで作った「CLOMO MDM」がヒットしているのが、福岡のソフト会社であるアイキューブドシステムズだ。「オンプレミス型は基本的に作らない」と断言する同社の戦略について、マーケティングコミュニケーション部 マネージャーの深野慧甫氏に聞いた。

「MDM」はあくまでパズルのピース

 必ずしも明るい話題のなかった2011年、IT分野で一気に開花した製品ジャンルが「MDM(Mobile Device Management)」である。MDMとは文字通り、iOSやAndroidなどのモバイル機器を統合管理するソリューションで、端末の情報収集やアプリケーションなどのポリシー適用、盗難・紛失時の制御などを実現する。iPadのようなタブレット、Androidスマートフォンの普及と共に、企業でのニーズが一気に勃興し、MDM製品は雨後の竹の子のように増えた。すでに60以上の製品が跋扈すると言われるMDMの市場において、高いシェアを誇るのがアイキューブドシステムズの「CLOMO」である。

アイキューブドシステムズ マーケットコミュニケーション部 マネージャー 深野慧甫氏

 開発元のアイキューブドシステムズ(以下、i3)は2001年創業の福岡のITベンチャーで、もともとは「太宰府に近い大野城という閑静な住宅地で、ゴリゴリと受託ソフトウェアの開発をしていました」(深野氏)という。2007年、社長がグーグルを訪問したのを機に、ソフトウェアをサービスとして展開するビジネス形態にシフト。Google Appsを拡張する形のスケジューラや共有アドレスと共に、モバイルデバイスへの対応を開始した。こうしたモバイル対応を進める中で生まれたのが、アプリケーション向けのフレームワークである「Yubizo Engine」とモバイルデバイスの管理プラットフォームであるCLOMOだ。

 CLOMOというとモバイルデバイスの情報収集や管理を実現するMDMのイメージが強いが、実際はクラウドサービスへのログイン制御を行なう「CLOMO GATE」、社内アプリケーションの一括配布・管理を実現する「CLOMO MOBILE APP PORTAL」、Webブラウザ、ドキュメント、メールなどを安全に利用できるセキュアアプリケーション「CLOMO SECURED APPs」などで構成されている。これらはCLOMO(Cloud as a Module)の略称の通りサービスを組み合わせることができ、サービス課金で汎用アプリケーションとセキュアなインフラを利用できる。そして、オリジナルのモバイルアプリケーションを展開したい場合は、前述したYubizo Engineを用いて、アプリケーションを開発すればよい。実際、中古車販売大手であるガリバーインターナショナルは全社に配布した2000台のiPadで、このYubizo EngineとCLOMO MDMを導入しているという。

i3の製品をいち早くiPadに取り込んだガリバーインターナショナルの事例

 このようにi3は、クラウド導入を実現するため、各ステップに応じた製品やサービスを包括的に用意している。MDMは、あくまでその一部分に過ぎないわけだ。深野氏は「クラウドをモバイル環境から安全に利用しようとすると、必然的にMDMにあたるものが必要になってきたんです」と述べる。

アップルやグーグルとも強いパートナーシップ

 とはいえ、CLOMO MDMは発売から1年ですでに6万ライセンスを突破し、同社の屋台骨となりつつある。先頃、バージョンアップしたiOS 5に対応した新機能も追加され、ますますMDMとしての魅力を増している。

 深野氏は、機能面は標準的としながらも、星取り表で他社に負けない機能を網羅していると話す。「国内でいち早くマルチプラットフォームのサービスとして提供した点(2010年11月サービス開始)や、サービスなので初期コストがリーズナブルという点は評価をいただいています」と説明する。特にクラウド型の提供に関しては、「ユーザーからは『オンプレミス型の製品をやらないですか』と言われるのですが、『作りません』と答えています(笑)」と話す。顧客のフィードバックをいち早く反映するためにはクラウドは必須。社内ネットワークやDMZにごてごてとサーバーを置く構成は、すでにレガシーと捉えるクラウドネイティブな事業者なのだ。

 また、日本ベリサインとの提携により、電子証明書やOTP(One Time Password)による強固な認証が可能になった点も大きい。「他社とのパートナーシップが良好なので、たとえばアップルやグーグル、オラクルから案件を紹介いただける場合も多いです」(深野氏)とのこと。前述したガリバーインターナショナルの導入事例は、米アップルの公式サイトに日本企業として初めて掲載されているという。

 2012年も早々に新製品の予定があるとのことで、楽しみにしたい。

初出時の記事において、誤りや意図しない表現を指摘されましたので、訂正いたします。本文は修正済みです。(2012年1月13日)

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