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最新技術の実験場「石狩データセンター」のすべて 第6回

データセンター事業者が戦えるインフラを

HVDCサーバー投入!最新技術で省エネを追求するNEC

2011年12月19日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元
記事協力●NEC

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「データセンターに最適なサーバーとはなにか?」。この答えを探し続け、他社との差別化を追求し続けるベンダーがNECである。NEC プラットフォームマーケティング戦略本部 シニアマネージャー 本永実氏に、同社が特に強みとしているデータセンター向けサーバーの省エネ技術について聞いた。

さくらの田中社長も注目した省エネへの取り組み

 「同じスペックなのに、NECのサーバーはなぜか消費電力が低い」とは、NECサーバーをデータセンターで採用しているさくらインターネットの田中邦裕社長の言である。さくらインターネットでは、先頃オープンした石狩データセンターのHVDC(高電圧直流)プロジェクトでもNECのサーバーを採用しており、NECをパートナーにデータセンターの省エネに邁進している最中だ。

 CPUやメモリ、HDDなど利用されるコンポーネントが汎用化されつつあるサーバーの開発において、NECは長らく技術面での差別化を図ってきた。「2005年7月に前後から2台をマウントできるハーフサーバーを投入しましたが、この頃からデータセンター事業者様とがっちり手を組んで、製品の開発を進めてきました」(本永氏)という。こうしたデータセンター事業者と寄り添った製品開発の成果の1つが、高い省エネ性能を認めた田中社長の一言を生み出したといえる。

NEC プラットフォームマーケティング戦略本部 シニアマネージャー 本永実氏

 特に省電力化に関しては、「そこまでやるか」というくらい、本気で取り組んでいる。まず、サーバー機器自体の省電力化においては、高効率電源やモバイル向けCPUなど省電力パーツの採用に加え、ファンの消費電力を削減するためにマザーボードのレイアウト変更によるエアフローの改善まで行なってきた。「たとえばメモリに関しても、消費電力の削減を重視して、一世代前の低電圧メモリを使っていたりします。こうした省電力施策は、必ずしもx86サーバーの最新技術を追っているだけのベンダーでは実現できません」(本永氏)という。

 2008年には他社に先駆けて80 PLUS Gold電源を採用した省電力サーバー「ECO CENTER」を世に出し、2010年には消費電力の低いAtomプロセッサーを搭載した「Express5800/E110b-M」を市場に投入。また、複数のサーバーモジュールで集中電源を共用する「EcoPowerGateway」や、冷却効率の高い水冷サーバーなどもいち早く製品化した。性能や低価格一辺倒ではない、省エネ重視の製品は、多くのデータセンターやホスティング事業者で重宝されている。

運用面での省電力化
さらにはデータセンターまるごとエコも

 同社はサーバー機器自体の省電力化だけではなく、運用による省電力化も進めてきた。運用による省電力化の例としては、標準搭載の運用管理チップ「EXPRESSSCOPEエンジン」により、消費電力の上限値を設定するパワーキャッピングや、UPSがない環境でも標準添付のサーバー管理ソフトウェアを使って未使用時間帯にサーバーの電源On/Offを行なうスケジュール自動運転機能などが挙げられる。省電力機能を絵に描いた餅にしないよう、チップやツールのレベルでカバーできるようにしているのだ。「基本的にはハードウェアベースでの制御をコマンドラインで行なえるようにしています。データセンターで使いやすいハードウェアを提供するという点を重視しているからです」(本永氏)。

NECが進めるサーバー、運用、そしてファシリティの省電力化施策

 最近では、空調の消費電力削減まで含めてファシリティ全体の省エネ化・最適化を推進する「データセンターまるごとエコ」に取り組んでいる。まず手を付けたのが、従来35℃だったサーバの動作保証温度上限を40℃に引き上げる取り組みだ。これはIT機器と同じように、空調機器に関しても電力を削減しようというアプローチ。「稼働温度が5℃違うと、データセンターでの空調機の選定が大きく変わると言われています」(本永氏)という意見を元に、より高い温度でも安定した動作が可能になるよう、部品レイアウトやヒートシンク/ダクトの最適化を図り、熱解析や実機での評価を行なった。

 こうした省電力や冷却性能向上を実現するため、最終的に重要なのは、ハイテクな検証機器や高度な設計技術だけでなく、ノウハウに基づくローテクな「試行錯誤」だったという。他社の製品を見ると、電源ファンの排気を筐体内の別のファンが吸い込んでいるなど、設計時には考えがたい現象が起きている場合もあるという。本永氏は、「部品をどのように配置し、最適化するかは、完全にノウハウ。必ずしも設計時のシミュレーション通りにはいかず、結局は現物での確認を地道に行なっていくのが重要になります」と説明する。

 こうしたサーバー開発で培われた省エネ技術をストレージやネットワーク機器にも展開し、迅速な製品投入や開発・生産・保守コストの削減を実現する「コモン・プラットフォーム戦略」を掲げている。

直流給電や最先端バッテリ技術の活用で
さらなる省エネを追求

 さて、NECでは次世代の省エネデータセンターに向けた研究開発も絶え間なく行なっている。その代表例が、直流給電への対応だ。

 データセンターの電力効率を考える上で、直流(DC)と交流(AC)の変換ロスはつねに検討課題に挙がる。通常のデータセンターでは、商用電源をACで受けた後、いったんUPSでDCに変換。その後、ACに変換し直したのち、サーバーの電源で再度DCに変換される。ここまでの変換ロスは20~30パーセントにおよぶとも言われており、UPSでのAC/DCの変換をなくし、直接DCでサーバーに給電する直流給電に大きな注目が集まっている。

NECの直流給電への取り組み

 NECは以前から直流給電に着目しており、既にDC-48Vでの給電を可能とするサーバー、ストレージ、ネットワーク機器を販売している。おもに通信事業者のデータセンターでの利用を想定しており、AC/DCの変換回数を削減できる上、交換機で採用されているDC-48V設備をそのまま流用できるというメリットもある。

 さらに、より高い電圧で給電し、変換効率を向上させたHVDC給電システムへの対応も着々と進めている。これにはDC380Vを直接サーバーに給電する方法と、DC380Vをいったん集中電源で受け、DC12Vでサーバーに給電する方法があり、NECではそれぞれの方式に対応する製品をすでに開発している。このうち、DC380Vで直接受電できる製品として、ストレージでは「iStorage Mシリーズ」がすでに対応を開始しているほか、DC380V給電に対応したブレードサーバー「Express5800/SIGMABLADE(DC380V対応)」も先頃発表された。

HVDC給電システムに対応の「Express5800/SIGMABLADE-M(DC380V対応)」

 また、DC12V対応のサーバーは、さくらインターネットの石狩データセンターで行なわれているさくら石狩HVDCプロジェクトでも採用されており、集中電源でも安定して動作するサーバーとして高い評価を受けている。今後は「サーバーごとのAC/DC変換を削減する方式として、DC380V直接受電タイプと集中電源のEcoPowerGatewayから直接DC12Vで受電できる製品を拡充していきます」(本永氏)とのことで、直流給電対応の製品開発も積極的に行なっていく予定だ。

 もう1つリチウムイオン電池を活用したサーバーへのUPS機能の搭載にも取り組んでいる。NECでは、業界で初めてブレードサーバーに内蔵可能なUPSを開発し、電源故障時はUPSから電力アシストすることで、冗長電源部分の電力ロスを削減するソリューションを提供している。今後はICT機器がバッテリを搭載することで、ファシリティ側のUPS機器コストを削減するという構想も検討されている。

バッテリ技術を活用したファシリティコストの削減

 「現在、多くのデータセンターでは電源設備の横にUPSを置いていますが、事業者様が設備として持つと高価で、柔軟性に欠けます。そこで、ノートPCのようにバッテリ自体をサーバー側に積んでしまおうという発想です」(本永氏)。NECエナジーデバイスのリチウムイオン電池は、負極と正極をセパレータで挟んだスタックセル構造を採用し、大電流の充放電が可能。低発熱で、充放電サイクルにも強く、自動車や家庭用蓄電システムでもすでに採用されている。今後はサーバーの「ノートPC化」に貢献することになるかもしれない。

 データセンター事業者にとって、省エネとは環境負荷の軽減だけではなく、コスト削減のための命題だ。グローバルサービスが次々に上陸し、クラウドサービスの低廉化が進んだ昨今、電力の効率化はまさに事業者の「死活問題」となりつつある。こうした中、データセンター事業者に対して戦えるインフラを提供するため、絶え間ない技術革新を進めるベンダーがNECである。

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