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【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ 第75回

Wikipediaでわかる日本コンテンツの“クールジャパン度”(続)

2011年12月07日 09時00分更新

文● 遠藤諭/アスキー総合研究所

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日本のアニメは海外では……
あまり強くない!

 図2は、アニメ作品に関連するカテゴリについて、同じように他言語の対応状況を表にしたものだ。これを見ると、アニメはディズニー作品を中心にした米国作品が独占している。日本でそれほど知られない『きつねと猟犬』が、なぜ世界中で興味が持たれているのかなど、このラインナップだけでも興味深いことがいくつかある。

 しかし、やはり気になるのは、日本アニメが『千と千尋の神隠し』や『となりのトトロ』ですらようやく30位以内にしか入らないということだ。

 日本のアニメは世界的に強いことがよく知られている。フランスでは、IPTVを含めると年に100本以上流れているという。2年半前、ロシアを訪ねたときに、日本大使館の方々に頼まれてラジオに出演したことがある(Культура манга и аниме в России“ロシア文化とアニメとマンガ”)。日本のコンテンツ事情について聞かれたのだが、30代の女性キャスターは、「今朝家を出るときに5歳の娘に“お勧めアニメを聞いてきて”と頼まれた」と言った。

 ところが、実際には米国のアニメ映画が圧倒的なのだ。その理由は、総合的な意味でのデリバリー力にあると思う。あるとき、スカパー! の関係者の方と話をしていて、「ハリウッドは何がすごいのですか?」と質問したら、まさに「供給力」だと言っていた。ジャパンエキスポの主催者に「日本のマンガはなぜ人気があるのか?」と聞いた答えも、「供給力」だったのである。

 それでは、マンガはどうなのか? 下の図3は、マンガ作品に関係するカテゴリで集計したものだ。これを見ると逆に、米国のDCコミックなどの作品も相当に強いものの、『NARUTO』の70言語にはじまって、日本のマンガがいかに世界に浸透しているかということがわかる。登録されている約1万作品のうちの3分の1程度、約3800本に日本語以外のページがある。


マンガ作品のWikipedia他言語展開状況

図3 マンガ作品に関しての、Wikipedia他言語ページの開設状況。アメコミも上位に食い込むが、それでもトップの『NARUTO』をはじめとする日本のマンガの強さが際だっている。

 メディアの垂直統合が叫ばれた時代に書かれた『ハリウッド/巨大メディアの世界戦略』(滝元晋著、日本経済新聞社)は、いま読んでも教えられることの多い本だ。この中で、米国の「エンターテインメント産業」の規模は、個別の作品からテーマパークまで、正確に総額を示すデータはないが、自動車や食品などの巨大産業といわれてきたものを超えていると書かれている。しかも、その輸出比率が高いことが指摘されている。

 経済産業省がコンテンツ産業を重視するのは、このような背景を見れば当たり前のことなのだろう。そして、「クールジャパン」というかけ声のもと(その声は、前回書いたようにやや自家中毒的な匂いがするのだが)、アニメやマンガを中心にしたポップカルチャーを推していこうというのも、ここでの集計を見ればうなずけるものだ。

 日本のコンテンツの人材に関しては、コミックマーケットのような豊かな地下水脈があり、それらを含めて出版社やアニメ制作会社によって商品化される生態系もある。このデータを見ていてわかるのは、課題は、コンテンツのデリバリーやエクスチェンジの部分だということだ。そして、日本のコンテンツ企業がディズニーやハリウッドのメジャーのような大企業ではないということである。

 ところで、この原稿を書いている途中で、Google Musicがベータから正式サービスになったというニュースが流れてきた。そのアナウンスの内容を見ていくと、Android端末が世界で2億台を超えたという数字が出てくる。しかも、1億台を記録したのはわずか6カ月前の今年5月だそうだ。毎日、55万台のAndroidが世界中でアクティベートされている。

 メディア環境はいま、ものすごい勢いで変化している。そして、世界はネットによっていろいろなことが見えるようになってきている。それらを見ていないで、いままでと同じ地図と装備で出かけるのでは、登るべき山にたどり着けもしないだろう。

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