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最新技術の実験場「石狩データセンター」のすべて第4回

シンプルな直流給電のメリットは効率性だけじゃない!

さくら石狩HVDCプロジェクトで実証!直流給電の実力とは?

2011年12月05日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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先日、公開されたさくらインターネットの石狩データセンターにおいて、外気冷却とともに大きな注目を集めたのが、敷地内のコンテナ型データセンターで行なわれたHVDC(高電圧直流給電)の実証実験である。本稿では、プロジェクトを手がけるNTTデータ先端技術の村文夫氏の話を元に、データセンター事業者から大きな注目を集めるHVDCの最新動向や実証実験について徹底レポートする。

データセンターを変革するHVDCとは?

 直流給電とは、サーバーなどのIT機器への電力供給をUPSを介した交流(AC)ではなく、直流(DC)で行なう電力供給方式を指す。

 従来のデータセンターでは、変圧器からACで取り込まれた電力をUPS(無停電電源装置)でDCに変換して蓄電されたのち、ACに変換し直して、サーバーなどの電源ユニットに供給していた。サーバーの電源ユニットではこのACの電力をさらにDCに変換し、マザーボード上のCPUやメモリ、HDDなどの各部品に供給していたわけだ。しかし、こうした従来の供給方法ではACとDCの変換ロスが発生し、電力効率は60~80%にまで下がってしまう。もちろん、変換で無駄になった電力エネルギーは熱として排出されるため、これを冷却するためにコストがかかるという無駄につながる。また、変換効率のロスだけではなく、コスト面でもUPSなどの装置の負担は大きい。「本来、データセンターはサーバーが主役なのに、コスト面ではUPSが主役のよう。冷却すら必要になり、熱効率面でもよくない」(村氏)という。

NTTデータ先端技術 ソリューション事業部 グリーンコンサルティングビジネスユニット 開発グループ長 村 文夫氏

 これに対して、直流給電では、変圧器からサーバーまでに必要なACとDCの変換ロスを削減し、直流で動作するIT機器に直接給電することで高い電力効率を実現する。2段のAC/DC変換がなくなるため、無駄な電力消費を抑えられるほか、UPSやSTS(電源切替装置)などの機器も不要になるというわけだ。こうした直流給電はDC48Vのシステムが一部で導入されているが、電圧が低いと抵抗損失が高くなる。そのため、340/380V程度の高電圧で給電を行なう方式を「高電圧直流給電(HVDC)」と呼ぶ。

従来のデータセンターとHVDCの給電システム

 HVDCは、次世代の電源システムとして、昨今データセンター事業者から大きな注目を集めている。さくらインターネットは2011年2月に、NTTデータ先端技術、河村電器産業、日商エレクトロニクスとともにHVDCの実証実験プロジェクトを立ち上げ、西新宿にミニチュアのHVDCシステムを作って効率性を検証してきた。そして、第2フェーズにあたる今回は石狩データセンターの敷地内で、コンテナ型データセンターを構築。内部に本格的な実験設備を作り、HVDCの実力を検証しようと目論んでいる。「石狩のデータセンターでは、電力効率や信頼性、安全性はもちろんのこと、費用や保守までを検証します。もちろん高価なシステムでは普及しないので、費用対効果も検証する予定です」(村氏)という。

石狩データセンターの敷地内に作られたHVDCコンテナ

 なぜさくらインターネットは、未知数ともいえるHVDCの実証実験に踏み切ったのか? さくらインターネット取締役 副社長 舘野正明氏は、同社の業界での存在意義ともいえるコストパフォーマンスを追求するにあたって一番の障壁となる電気の課題を打破したいからだと説明する。「データセンターのイニシャルコストで一番大きいのは電気設備、運用コストでは電気料金。つまり、ほとんど電気がらみなんです。コストを下げるためにもっとできることがあれば、やはりチャレンジしなければならないと思いました」(舘野氏)とのことで、理由はシンプルだ。

さくらインターネット 取締役 副社長 舘野正明氏

 また、最低でもラック列単位で増設していかなければならないUPSに対して、「HVDCでは乾電池を足していくような感覚で設備を打っていけます」(舘野氏)のもメリット。初期・運用コストを下げられ、柔軟な拡張も可能。であれば、前例がなくてもチャレンジしようというのがさくらインターネットの姿勢だ。また、石狩データセンターが、ユーザーへのコロケーションではなく、クラウド前提の自社用のデータセンターであるが故、こうした革新的な取り組みが可能という側面もあるという。

90%以上の高い電力効率を実現

 さっそくHVDCシステムを構築したコンテナの中を見てみよう。石狩のHVDCコンテナは20フィートの汎用品を用いており、中にはトランス(変圧器)、安定した直流給電を行なうための機器を収納したPSラック、各機器に配電を行なうPDU(Power Distribution Unit)や充電器、バッテリなどを収めたPDUラック、そしてIT機器を収納したサーバーラックなどが並んでいる。母屋から引き込まれた電気はAC400VでPSラックに供給され、ここでDC380Vに変換される。UPSを介する場合、DCからACにまた戻されるのだが、HVDCのシステムでは以降AC/DC変換を一切行なわず、PDUを介して、サーバーラックの集中電源に供給される。集中電源からは各サーバーに対してDC12Vで電力が供給される。

HVDCコンテナの内部構成

 サーバーラックには、計105台のさくらインターネット自社製のサーバーのほか、NTTデータの「PRORIZE DCサーバ」×2台、「Lindacloud」×5台、NECのラックマウントサーバー「Express5800/E120b-1」×3台などのx86サーバーが並ぶ。これらはDC12V電源を搭載した機種で、一部試作機もある。また、スイッチとして日立電線の「Apresia 15000-32XL-PSR」×1台、「Apresia 13200-52GT-PSR」×3台、ジュニパーネットワークスの「EX4200-48T-DC」×1台、「EX4200-24T-DC」×2台もラックに備え付けられ、サーバーを接続している。ジュニパーのEX4200はDC48V対応だが、日立電線のスイッチはともにDC12Vに対応しており、サーバーと同じくDC12V供給の集中電源から電力供給を受けられるという。

NECやNTTデータのDC12Vサーバーが検証で用いられているずらりと並んだサーバーのほとんどはさくらインターネットのお手製だ

 さて、オープン直前の2011年11月11日にこのシステム構成でHVDC給電システムの効率をモニターした結果は、以下のとおりだ。AC400Vで供給されるA点では11.5kWだった電力値だが、DC380Vに変換したB点で11.2kWになった。この時点で97.55%という効率をキープしている。さらにDC380Vの電圧を集中電源によりDC12Vで変換したC点では、電力値が10.4kWになっており、92.72%の効率を実現した。その結果、現在の総合効率は90.45%となっており、旧来のデータセンターよりも10~30%電力効率が向上したという。「HVDCでの供給もあるが、集中電源を使ったことで高い効率を得られています。われわれの試算では、UPS方式に比べ、HVDC方式では1000kVAで年間2500万円強の電力削減が可能になります」(村氏)と鼻息も荒い。

HVDCシステムの効率をモニタした結果

 高い電力効率を実現し、UPSが不要になる直流給電だが、ほかにもメリットがある。交流方式のUPSでは停電時にACに切り替えるリスクがあるが、HVDCではダイオードで単純に接続されているだけなので、切り替え動作がない。「停電時にバッテリから電気を供給する場合も、川の水のように電気が流れるだけ」(村氏)とのこと。実際、村氏が電源スイッチをバチバチ切り替えても、問題なくIT機器は動作し続けた。また、整流器や集中電源などのパーツは冗長構成になっており、システムを落とすことなく増設することも可能だという。効率性の高さだけではなく、シンプルが故の信頼性の高さも大きなメリットだ。

HVDCはなぜ普及しない?なぜDC12Vがお勧めなの?

 こんなにいいことずくめのHVDCが今まで普及しなかったのか? その大きな理由は高電圧であるが故の安全性への懸念がある。

 実際、高電圧の直流電力では、電極に電位差が生じることで高温と閃光を発する「アーク」という現象が起こりやすい。電圧の変わらない直流給電ではいったん起こったアークが切れないため、コンセントの切り離し時などに生じた放電が原因で火事に至る可能性も高い。もちろん、供給電圧が高いがための感電時の危険性も懸念材料だ。

サーバーへの給電は、DC12Vのバスバーを介して行なえる

 これに対して、NTTデータ先端技術はアークを抑制する回路を開発し、安全な切り離しを可能にする技術を持っている。また、高抵抗によって電流制限を行なう中点アースを設置することで、感電に関しても万全な対策がとれるという。そもそも今回のHVDCシステムで高電圧となっているのは設備の一部のみで、集中電源からバスバーを経由してサーバーに供給されるのはDC12Vなので、ラッキングやメンテナンスの際でも安全だという。村氏は、「大電流だから危ないという意見はあるが、設計で課題はクリアできる」と話す。

 今回のさくら石狩HVDCプロジェクトで採用しているDC12V供給方式は、サーバー側のベンダーにもメリットがあるという。従来のACサーバーは電源でAC/DC変換を行なっていたが、DC12Vのサーバーは電源を外し、簡単な保護回路のみを経由して、部品に対して電力を供給する。最近のマザーボードはPOL(Point of Load)というコンバーターを使って、負荷の直前で電圧を落とすのが一般的になっているので、DC12Vを直接供給する方法も十分現実的だという。こうして電源を外してしまえば、サーバー自体が小型軽量化でき、電源が発する熱やノイズも抑えられることになる。また、電源を外出しすることで、サーバー側で安全規格認証を取得する必要がなくなり、開発期間の短縮化を実現できるというメリットもある。「電源単位で安全規格などを取得しているノートPCのようなことを、サーバーでもやりましょうというイメージです」(村氏)。

DCサーバーの増加が普及への鍵

 ここまで聞くと、HVDCの有効性は明らかで、さくらインターネットでの本採用も疑いないように思われるが、最新のUPSやデータセンターは電力効率も高くなっているため、採用までは予断は許されないという。また、電圧規格や安全仕様、コネクタ形状などの標準規格が存在していないという弱点もある。なにより、直流給電に対応するサーバーの選択肢が増え、汎用化しないとデータセンター事業者もHVDCという選択がとれない。

 村氏は、「今回はNECさんがDC12V対応のサーバーを提供してくれましたし、日立電線さんもいち早く動作保証してくれました。こうしたベンダーが増えてくれれば、HVDC普及への道は拓けてきます」と話す。さくらインターネットの舘野氏も、「基本的には、すべてのサーバーでDC12Vに対応してもらいたい。少なくとも汎用サーバーに関しては、ACサーバー並みの選択肢がほしいというのが希望です。今回の共同開発した電源はめどが立ったので、メーカー製のサーバーが調達できなければ、自身で作るしかないです」と、ベンダーに奮起を促している。

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