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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 ― 第127回

CPU黒歴史 いくつ知ってる? 幻のマイナー系x86 CPU

2011年11月21日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/

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AMD K9

 続いては「世の中に出なかったCPU」を取り上げよう。まずは有名どころのAMD「K9」である。

 AMDは「K8」(Opteron、Athlon 64)に続いて、K9の設計を2001年初頭から開始していた。これは「Greyhound」というコード名で知られていたが、2002年にAndy "Krazy" Glew氏がインテルからAMDに移籍して、彼がK9のアーキテクチャーを事実上決める原動力になったようだ。

 本来であればK9は、2003年中にテープアウト(設計完了)の予定だった。しかし、その前にK9はキャンセルとなり、Glew氏も2004年6月にAMDを退職。後に再びインテルに戻った。現在はMIPS Technologiesで主任コンピューターアーキテクトを務めている。

 さてこのGlew氏が、2009年に「Google グループ」に投稿したメッセージが面白い。最初に要約として「AMD's Bulldozer is an MCMT (MultiCluster MultiThreaded) microarchitecture. That's my baby!」とある。ようするに、「K9とBulldozerは極めて近いコンセプトである」いう主張だ。直接的なK9(Glew氏はK10としている)の説明はないが、基本的なアイデアはまったく同じようだ。

 もちろん、いくつかは異なっている。Glew氏の書き方からするに、「FPUを共用化する」というのは、あとで出てきたアイデアのようだ。またK9とBulldozerでは、「Cluster」と「Core」の用語が逆転しているらしい。一方で、マルチスレッド性能の向上に主眼を置いて、これを実現するために複数スレッドで共用するフロントエンドと、スレッドごとに独立するバックエンドに分かれてクラスターを構成するというコンセプトは、どうやらK9の時に生まれたようだ。

 インテルの「Hyper-Threading」の場合、フロントエンドもバックエンドも基本的には共用で、一部のレジスターだけがスレッドごとに用意されるというケチケチ設計となっている。だが、これでは十分にマルチスレッド性能が引き上げられないと、Glew氏は考えたようだ。

 この結果として検討されたK9は、やはりBulldozerに近い特性を持つものだったろう、というのは容易に想像がつく。この構造はHyper-Threadingに比べると、独立したバックエンドの回路規模がどうしても大きくなる。例えばSandy Bridgeの場合、アウトオブオーダーで実行されるバックエンドの整数演算側は、ALU×3、Load×2、Store×1の6ポート構成となっている。

 これをBulldozerの方式で実装すると、ALU×6、Load×4、Store×2の12ポート構成になり、これではダイサイズが猛烈に肥大化することになる。そこでBulldozerでは、コアあたりALU×2、Load×1、Store×1の4ポート構成に抑えることで、ダイサイズを現実的な範囲に収めた。

 1スレッドだけを実行する場合、IPCの観点ではSandy Bridgeに性能で及ばない。ところが2スレッドの場合なら、Sandy Bridgeは6ポートのままとなるが、BulldozerはALU×4、Load×2、Store×2が動くことになるので、トータルのスループットで勝るという発想だ。

 これがK9で受け入れられなかったのは、まだ当時はマルチスレッドがほとんど利用されていなかったからだ。ソフトウェアのマルチスレッド化が進み始めたのは、インテルがPentium 4やPentium Dでの性能を引き上げるべく、なりふり構わずアプリケーションのマルチスレッド化サポートを強力に行ない始めた2005年以降のこと。しかもその当時ですら、サーバー向けアプリケーションや一部のエンコーダー類しか効果がなかった……と言うよりも、今でもそんな状態が続いている。

 だからマルチスレッドに対応していないアプリケーションを動かしたら、性能が極端に落ちるのはBulldozerを見れば明らかである。K9がキャンセルになったのはある意味仕方がないことだった、と言える。

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