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四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第77回

業界は不況でも、音楽の未来は明るい!――楽器フェア2011

2011年11月12日 12時00分更新

文● 四本淑三

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音楽はコミュニケーション
CGMはその潜在的願望のあらわれだ

 最後にブースをざっと見終わったあと、手タレPが雑談中にとても大事なことを言いはじめたので、急遽インタビューを開始することにした。


―― こんな風に楽器がたくさん売られていて、買う人も大勢いるのに、全員がプロになるわけではないんですよねえ。

手タレP 非凡な才能を持ったミュージシャンが前に立って、今のようなかたちで大衆に音を授けるというスタイルは、ここ100年くらいの話じゃないですか。それは録音っていうテクノロジー、マスプロダクションやマスメディアの発展にとともに音楽がそうなっていたわけで。音楽やるというと「有名になって皆の前で演りたいの?」っていう話ばかりになっちゃう。


―― 音を出して楽しむという部分が抜けちゃってるんですよね。

手タレP 音楽はコミュニケーションなんです、音を出すことによる。それは上手い下手じゃなくて、音を出してグルーヴを共有することで1つになる。それが音楽の大事なところだし、強いところだと思うんですよ。

TOCA(トカ)のブースでパーカッションを叩きまくる手タレP

MEINL(マイネル)のブースでも叩きまくる手タレP


―― おっ、それはその通りだと思いますよ! さすが。

手タレP このCGMの動きというのは、まさにそのコミュニケーションを取りたいという潜在的な欲望の現れじゃないですか。それは偉大なミュージシャンを見て私もそうなりたい。そういうモチベーションとは全然違う。私もこの楽しそうなコミュニティーに参加したい、そういう欲求だと思うんです。


―― 大友良英さんの「オーケストラTOKYO-FUKUSHIMA!」というイベントがあって、音が出るものを持って集まれってことで、奏者が200人くらい集まったんです。演奏はジョン・ゾーンのコブラの簡略版みたいな感じで、指揮者のハンドサインに従って即興なんですけど、これは楽しかったなあ。僕もウクレレで参加したんですけど。

手タレP 僕はサンバをやっているんですけど「ジレトール」という指揮者がいるんですね。ジレトールが指を出して笛で合図をしたら、このキメをやるとか、この展開に行くとかいう形で回していく。

 サンバチームの打楽器の人って、必ずしも上手い人ばかりではない。昨日はじめたばかりという人とか、去年まではダンサーだったという人とか、色んなレベルの人が混じり合って、それで一つのコミュニティーができあがる。大友さんのもそうだし、山塚EYEさんのやってるボアドラム(77台のドラマーによるライブ演奏)とか。コミュニティー的な音楽のあり方というのは、そういうところに行き着くのかなと思いますね。

ジルジャンのシンバル「GEN 16」を試す手タレP。AE(アコースティックエレクトロニック)と呼ばれる新シリーズで、シンバルに小さな無数の穴を開けて音量を抑制し、その代わりセンサの入力をシンバル音源に置き換えるというもの。手タレPいわく「凄い気持ち悪い。叩いているはずなのに、そこから音が出ているような出ていないような、なんとも言えない感じ。でもそれっぽい音はスピーカーから聴こえてくる」


―― 音楽教育が何か職業訓練みたいになっているでしょう。コミュニティに参加する楽しさは、会話の楽しさと一緒なので、そこから抜けなければいけない気がしますね。

手タレP ここにいる子供なんか、ものすごく素直じゃないですか。潜在的に持っているわけですよね、「音の出るものがあったらさわりたい」っていう。だから音を出すことの楽しみに、素直になる段階がいると思いますね。「まわりの人みたいに上手くやれなきゃ」みたいな恥ずかしさや照れとかあるじゃないですか。今は、そこを取り除くものが必要だと思うんですよね。

今回は楽器ケースブランドとしてSKULL MUSIC RECORDSも楽器フェアに出展。突然ボイスパフォーマンスを始めたりして、このフェアにはないぶっ飛んだ展示が面白かった。こういう新しい人達が、この業界にどんどん入ってくると、ますます楽しくなる

SKULL MUSIC RECORDSのブースには、スティーヴ・エトウが「楽器」にしているドラム缶も展示されていた



著者紹介――四本淑三

 1963年生まれ。高校時代にロッキング・オンで音楽ライターとしてデビューするも、音楽業界に疑問を感じてすぐ引退。現在はインターネット時代ならではの音楽シーンのあり方に興味を持ち、ガジェット音楽やボーカロイドシーンをフォローするフリーライター。

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