音楽はコミュニケーション
CGMはその潜在的願望のあらわれだ
最後にブースをざっと見終わったあと、手タレPが雑談中にとても大事なことを言いはじめたので、急遽インタビューを開始することにした。
―― こんな風に楽器がたくさん売られていて、買う人も大勢いるのに、全員がプロになるわけではないんですよねえ。
手タレP 非凡な才能を持ったミュージシャンが前に立って、今のようなかたちで大衆に音を授けるというスタイルは、ここ100年くらいの話じゃないですか。それは録音っていうテクノロジー、マスプロダクションやマスメディアの発展にとともに音楽がそうなっていたわけで。音楽やるというと「有名になって皆の前で演りたいの?」っていう話ばかりになっちゃう。
―― 音を出して楽しむという部分が抜けちゃってるんですよね。
手タレP 音楽はコミュニケーションなんです、音を出すことによる。それは上手い下手じゃなくて、音を出してグルーヴを共有することで1つになる。それが音楽の大事なところだし、強いところだと思うんですよ。
―― おっ、それはその通りだと思いますよ! さすが。
手タレP このCGMの動きというのは、まさにそのコミュニケーションを取りたいという潜在的な欲望の現れじゃないですか。それは偉大なミュージシャンを見て私もそうなりたい。そういうモチベーションとは全然違う。私もこの楽しそうなコミュニティーに参加したい、そういう欲求だと思うんです。
―― 大友良英さんの「オーケストラTOKYO-FUKUSHIMA!」というイベントがあって、音が出るものを持って集まれってことで、奏者が200人くらい集まったんです。演奏はジョン・ゾーンのコブラの簡略版みたいな感じで、指揮者のハンドサインに従って即興なんですけど、これは楽しかったなあ。僕もウクレレで参加したんですけど。
手タレP 僕はサンバをやっているんですけど「ジレトール」という指揮者がいるんですね。ジレトールが指を出して笛で合図をしたら、このキメをやるとか、この展開に行くとかいう形で回していく。
サンバチームの打楽器の人って、必ずしも上手い人ばかりではない。昨日はじめたばかりという人とか、去年まではダンサーだったという人とか、色んなレベルの人が混じり合って、それで一つのコミュニティーができあがる。大友さんのもそうだし、山塚EYEさんのやってるボアドラム(77台のドラマーによるライブ演奏)とか。コミュニティー的な音楽のあり方というのは、そういうところに行き着くのかなと思いますね。
―― 音楽教育が何か職業訓練みたいになっているでしょう。コミュニティに参加する楽しさは、会話の楽しさと一緒なので、そこから抜けなければいけない気がしますね。
手タレP ここにいる子供なんか、ものすごく素直じゃないですか。潜在的に持っているわけですよね、「音の出るものがあったらさわりたい」っていう。だから音を出すことの楽しみに、素直になる段階がいると思いますね。「まわりの人みたいに上手くやれなきゃ」みたいな恥ずかしさや照れとかあるじゃないですか。今は、そこを取り除くものが必要だと思うんですよね。
著者紹介――四本淑三
1963年生まれ。高校時代にロッキング・オンで音楽ライターとしてデビューするも、音楽業界に疑問を感じてすぐ引退。現在はインターネット時代ならではの音楽シーンのあり方に興味を持ち、ガジェット音楽やボーカロイドシーンをフォローするフリーライター。
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