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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第22回

才能を育てよう、小さな種がやがて大きな実をつけるまで

「花咲くいろは」の経営術【後編】

2011年11月12日 12時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko

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「若者でばか者でよそ者」が変化を起こす

―― 北陸の人の気質はどんなふうに捉えていますか。

堀川 富山の人も石川の人も、地元を離れた出身者の人も含めて、地元のことをよく語ります。自分たちの故郷をすごく大事にする、誇りに思うところがありますね。

 うちのことも「富山にはP.A.があるだろう」みたいなことを言ってくれるから、本当にありがたいです。『true tears』も「地元の会社が作ってるなら」って応援してくれる。「Blu-rayボックスを買ったよ」って、Blu-rayのデッキ持ってないのにね。そういう地元の人たちにも支えられているんだなと。

 東京にあったら全然目立たない、埋もれてる小さな会社なんだけど、富山ということで注目してくれる。

―― それも、会社を地方に構えることのメリットだと言えるかもしれませんね。

堀川 はい。それから、全国の人に富山のことを知ってもらえたのがうれしかったですね。僕らが最初に『true tears』を作ったとき、“城端町”(じょうはなまち)という小さな町の読み方も、そもそも「富山県が日本のどこにあるのか知らなかった」という人たちにも広く認知してもらえた。それを意図して制作したわけではないですが、結果的に観光地を広く知ってもらえたことで貢献できたのかなと思います。

 会社を北陸に置くことが、会社のためだけではなくて、北陸の人にも何かをもたらしているのであればすごくうれしいですよね。地元の人も、僕らがやっていることを活用してくれればいいなと。

 先日も、『花いろ』に登場する「ぼんぼり祭り」を再現した「湯涌ぼんぼり祭り」が開催されて。湯涌温泉は作品作りに協力してくださった方々なので、僕らも迷惑をかけるようなことはしたくないですからね、どんな貢献ができるかを考えました。『ぼんぼり祭り』をやりたいと提案を頂いたときに、一過性のブームで終わらせないよう、アニメのイベント色を排除したお祭りにすることで、地元の方によって長く続けてもらえるお祭りにしたかったんです。その結果、僕ら制作者も湯涌の人々も、大きな達成感を得られるものになったと思います。またこっそり個人的に望み札を掛けに行きたいですね。

ぼんぼり祭り : 作中に登場した架空の神事から、湯涌温泉観光協会の申し出により、実際に開催。10月9日、石川県金沢市湯涌温泉街と湯涌稲荷神社で行なわれた

ぼんぼり祭り


―― お話をうかがっていると、地元との交流が密で、ひとつの大きなファミリーのようでもありますね。

堀川 そうですね。歴史のある小さな町なので、良いところもある反面、旧習やしがらみとかもあって大変な部分もあるんでしょうけれども。

 でも、城端町で会社を設立したころ、町で事業をしている経営者の寄り合いで挨拶をしたときに、大先輩が言ってくれたんです。「こんな小さな町だから、いろいろあるかもしれないけど、ここで何か成そうと思うなら、若者で、ばか者で、よそ者だよ」って。

 ぼくもそのころは若かったので、「若者で、ばか者で、よそ者」というのは全部当てはまるなと思って、素直になにかできる気になりました(笑)。


―― 最初にその地で会社を設立するときには様々なご苦労があったわけですね。

堀川 自分が苦労したということはあまり感じてないですね。運とタイミングがよかったんだと思います。当時の行政や旦那衆には大変お世話になったんです。新しいことに興味を持ってくれた方々でした。今の本社の場所も、町にできたばかりのインキュベート施設に入れてもらえたし、若いやつらがどんどんやれよ、と後押ししてくれたので、流れができていたという印象がぼくには強いんですね。

 最初の自社元請け作品になった『true tears』も、僕が企画を用意したというより、永谷敬之さん(『花咲くいろは』プロデューサー)が持ってきてくれたものだったし、自分で切り拓いたというより、いいタイミングで人が用意してくれた流れに乗った感じがありますね。

―― エネルギーを持って周囲を巻き込んでいく。堀川さんご自身が、緒花のようでもありますね。

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