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仕事と生き方を変える、著名人の意見 第5回

インプットするだけで満足していてはいけない

現場での応用力・実践力に進化する「思考の3ステップ」

2011年10月24日 09時00分更新

文● 田村誠一

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 ※この記事は田村誠一氏のメールマガジン「戦略プロフェッショナルの流儀  -変革を楽しむために-」(「ビジスパ」にて配信中)から選んだコンテンツを編集しお届けしています。

 「生き馬の目を抜く」実ビジネスの世界において、「既製品」がそのまま使えることなど、そもそもない――MBA不要論、そして「MBAは役に立つのか?」という学生からの質問に応じて田村誠一氏が説く「思考の3ステップ」は、ビジネスの世界で成長できる秘訣を提示する。

MBA(経営学修士)は役に立つのか?

 2004年1月、世界的な経営学の権威であるミンツバーグ教授の“Managers Not MBAs”(邦題:『MBAが会社を滅ぼす』)が出版され、大変話題となりました。業績不振の米国企業のエグゼクティブにおいてMBA取得者の比率は90%にも達する一方で、業績好調の米国企業のエグゼクティブにおいてMBA取得者の比率はわずか55%にも満たないそうです。日本でもMBA不要論が叫ばれて久しく、私が教鞭をとるビジネススクールの学生からも質問を受けることが少なくありません。

「ケースメソッドを繰り返し、「目から鱗(うろこ)」の「学び」を得る日々に充実感はあるのだが、結局、実ビジネスの現場で活かせていない。果たして、MBAは役に立つのだろうか?」

 とても素直な質問です。しかしながら、基本スタンスに問題があると言わざるを得ません。そもそも、「目から鱗」のインプットの日々に充実感を感じている時点で間違っています。

 もちろん、ケースメソッドを通じて多くのリーダーの意思決定を疑似体験することは有用です。併せて教科書で理論を学ぶことも必要です。しかし、これは「既製品」に過ぎません。「生き馬の目を抜く」実ビジネスの世界において、「既製品」がそのまま使えることなど、そもそもあり得ません。解は常に「個別解」であり、真に身に付けるべきは「個別解を導出する思考法」です。

「感想をくっつけてRT」に留まっては成長は望めない

 この思考法を身に付けるためには、

  1. 「既製品」の品質の良さを理解したうえで、それに満足することなく、
  2. 「既製品」を独力で「部品」に「分解(Deconstruction)」する時間を確保する

ことが大切です。「既製品」のまま頭にインプットされた情報は、単なるマメ知識です。実践の場では殆ど役に立ちません。

 何が本質なのか、を自分なりに考え抜き、要素分解し、それらを自分なりの言葉に変換したうえで頭の中の引き出しに収納してはじめて応用が効くのです。他人の言葉を記録し、そこに感想文をくっつけて転送・RT(リツイート)するに留まっていては、決して成長は望めません。それでは、朝礼で校長先生の話を聞いてきた小学生が、家に帰ってお母さんにそのままそれを報告しているのと何ら変わりません。「分解(Deconstruction)」にもっと時間を使って欲しいものです。

分解と再構築

 このように、マーケティングを学んだら自分なりに「分解」し、ファイナンスを学んだら自分なりに「分解」し、人的資源管理を学んだら自分なりに「分解」し、を繰り返していくと、いつしか、多くの「部品」が頭の中の引き出しにたまってきます。ここまでくると、次に、

3. 「部品」群を組み合わせて「特注品」に「再構築(Reconstruction)」していく

ことが求められます。応用力や実践力とは、「部品」の組合せ力に他なりません。点と点が結びついて線になり、線と線が繋がって面になり、面と面が組み合わさって立体になっていく過程なのです。

インプットに充実感を感じている場合ではない

 「既製品」インプットに留まり、「部品」に「分解」できていない人(Aさん)は、多くの知識を学んでもそれが「点」の積み重ね(足し算)にしかなりません。5科目学んでも、その価値は「5」に留まってしまいます。一方、「部品」に「分解」できている人(Bさん)は、5科目学べば、その価値は「線」のレベルでも「10」(=5C2)に拡がりますから、得られる価値は合計「15」(=5+10)。実に3倍の開きが生まれるのです。仮に卒業までに25科目を履修するとしましょう。Aさんは「25」の価値しか得られないのに対し、Bさんは「325」(25+25C2)の価値を得ることになります。その格差は実に13倍。これが、ビジネススクールを通じて成長できる人と成長できない人の違いだと思います。

 インプットの量を増やすよりも自分の頭で考える時間を確保しましょう。インプットに充実感を感じている場合ではないのです。「分解(Deconstruction)」と「再構築(Reconstruction)」に時間を使いましょう。Aさんが取り組むべきことは、多くの科目を履修することでも、セミナーに足を運ぶことでもありません。それは、「25」の価値を「26」や「27」にするに過ぎません。むしろ、自分なりの線化、自分なりの面化、自分なりの立体化に注力してください。自分の頭で考えることに時間を使ってください。きっと、そこから得られる価値は等比級数的に拡がり、実ビジネスの現場での応用力・実践力に進化しているはずです。「思考の3ステップ」、肝に銘じてください。


【筆者プロフィール】田村 誠一

 東京大学経済学部経済学科卒業。ノースウェスタン大学経営大学院アドバンスド・ビジネス・マネジメント・プログラム(ABMP)修了。アクセンチュア株式会社において、約18年間、戦略コンサルタントとして活動。各業界を代表する40社超のクライアント企業に対し、全社戦略・事業戦略立案、M&A支援、バリューチェーン再構築、マーケティング・CRM戦略立案、R&D改革等、約80プロジェクトに携わる。経営コンサルティング本部戦略グループ製造・流通セグメント統括、製造・流通本部運輸・旅行業セグメント統括等を歴任。現在は、株式会社企業再生支援機構のマネージング・ディレクターとして、数多くの事業再生案件のプレディールからポストディールまでを一貫して担当すると同時に、ターンアラウンドマネジャーとして投資先企業2社の取締役を務める。K.I.T.虎ノ門大学院客員教授。石川県ニッチトップ企業等育成事業スーパーアドバイザー。共著書に、『一流の思考力』(東洋経済新報社)。

「ビジスパ」にてメルマガ「戦略プロフェッショナルの流儀  -変革を楽しむために-」を執筆中。

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