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【追悼】「スティーブ・ジョブズ」の軌跡 ― 第14回

やっぱりお礼の言葉しか言えない

2011年10月06日 22時00分更新

文● MacPeople 元編集長 野末尚仁

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「iLife ’11」

 スティーブ・ジョブズが死んでしまった。

 まずは心から哀悼の意を評したい。この業界の多くの人々と同じく、自分もスティーブとその仲間たちが作り上げたものによって、人生に多大なる影響を受けた。

 すでにネット上では、著名な先輩諸氏が書いた素晴らしい追悼文を数多く読むことができるので、ここではあえて、極めて個人的な話とさせていただきたい。

 何年も前の話だが、MacPeople編集部にいたスタッフが交通事故で亡くなった。第二子が産まれたばかりとあまりにも急な話であり、とてもショックな出来事だった。

 告別式でのこと。当時、お付き合いのあったアップルジャパンの広報スタッフの方々が、わざわざご参列くださった。MacPeopleの編集長だった私は、精進落としの会場でご挨拶をしたのだが、そのような場で、そのような方たちとどんな話をすればいいのか、分からなかった。自分自身、気持ちの整理もついていないのに。

 とりあえず忙しい中お越しいただいたお礼を、ビールを注ぎつつひととおり述べたあと、故人の話を少しだけさせていただいた。

 編集者としてはもちろん、1ユーザーとしてアップルの製品がとても好きな男だったこと。家族の写真を「iPhoto」で管理して、「iMovie」で動画を作ってDVDを焼き、よく親バカ全開で無理やり見せられて迷惑だったこと。故人の、今は小さな子供たちが大きくなったら、父親がアップルの製品でこしらえた作品を見て、きっと喜んでくれるであろうこと。

 なんだか間の抜けた営業トークみたいだ。なのに、そこまで話をしたら急激に感情が高ぶり、言葉に詰まった。気がついたら涙を流していた。

 当時は誌面にこそ書かなかったが、そもそも“iLife”だなんて、なんとも大げさな名前を付けるもんだ、と思っていた。今風に言えば、「ちょっと寒い」とさえ感じた。「人生」だなんて。

 しかしそれこそがまさにアップルの、ジョブズのメッセージだったのだと、そのとき気付いた。人が、人のために何かをしてあげたいというかけがえのない気持ち、それを形にするためのソフトウェアこそがiLifeであり、Macというハードウェアだった。当時アップルが盛んに伝えようとしたデジタルハブという構想だ。

 フォトアルバムを作ったり、動画を編集するソフトなんて山ほどある。だが、そういった個々の製品や環境は、機能面では優れているかもしれないが、トータルのコンセプトはおしなべて希薄だ。少なくともアップルのように、明確にユーザーの創作意欲を駆り立てようとする姿勢はあまり見えてこない。

 テクノロジーは人を幸せにするべきだと思う。スティーブ・ジョブズは、売れる・売れない、儲かる・儲からないだけでなく、そういう視点をしっかり持っている人だった。スペックシートには決して現われないことをこそ、大事にする人だった。だから、これだけ世界中の人々を魅了する製品を生み出せたのだと、自分は思っている。

 この文章を書いているまさに今、妻が8月に産まれたばかりの子供のムービーを、iPhoneで撮影して送ってくれた。

 本当にありがとう、スティーブ。どうぞ安らかに。


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