この記事は城繁幸氏のメールマガジン「『サラリーマン・キャリアナビ』★出世と喧嘩の正しい作法」(「ビジスパ」にて配信中)から選んだコンテンツを編集しお届けしています。
「転職するなら35歳がリミット」――キャリアに関心があれば誰でも気になるこのフレーズは今も生きているのか?『若者はなぜ3年で辞めるのか?』などの著作で知られる城繁幸氏が解説する。
内規としてしっかりと存在
キャリアについて関心のある人なら、誰でも一度は「転職するなら35歳がリミットだ」というフレーズを耳にしたことがあると思う。筆者自身、そういうコメントを何度かしたこともある。少なくとも一般的な日本企業に関して言えば、今でもこの説はしっかり存在している。
理由は、年功序列型の報酬システムで説明できる。このシステムだと、若いころに働きためた年功に対する報酬を将来の出世(+昇給)で受け取るわけだから、賃金が生産性に追い付くまでの残り期間の長い人を採った方が、断然トクであるのは明らかだろう。そのトクか損かの線引きが、だいたい35歳あたりというわけだ(厳密にいえば40歳までOKという企業も30歳までという企業もある)。
2007年の法改正で、年齢を基準にすることが禁じられたため、現在の求人票には年齢条件は原則として書かれてはいない。だから一部には「35歳上限説は過去のものだ」という人もいるが、今でもリミットは人事部の内規としてしっかりと存在している。
35歳以上で転職できる人材は?
では35歳以上の転職が不可能かというと、そういうわけでもない。生産性が賃金カーブを上回っている優秀者なら、企業にとっては何歳になっても魅力的な人材だ。ただし、職能給という単線型キャリアパスの日本企業の場合、それは事実上、マネージャーとして一定の成果を上げた人材を意味する。
よって、一般的日本企業に、35歳以降も転職できる人材を目指すのであれば、会社である程度の出世コースに乗って、30代でマネージャー(課長級以上)を経験していることが必要となる。ただ、この場合はヘッドハンター経由での一本釣りが多くなるから、やはり一般的とは言えない。キャリアを武器に渡り歩くスーパーミドルは、あまり狙って成れるものではない。
転職には人材紹介会社を介した方が効率的
そこで、狙うなら、職能給ではない職務給ベースの企業を狙うとよい。
今のところ外資系企業や新興企業が該当するが、こういった企業なら、マネージャー以外にも専門職キャリアパスがあり、原則として生産性に応じた賃金が払われるので、年齢で区切るインセンティブは薄くなる。
上記のように求人内容に明記できないので、このあたりの温度差は、外から見ているだけでは分かりにくい。そういう意味では、転職活動にはやはり人材紹介会社を使った方が効率的だ。転職コンサルタントが最初から年齢にマッチした案件しか出さないから、無駄な履歴書を書く必要がないだろう。
劇的な変化は10年以内に訪れる
ところで、以上のような35歳を軸とした区切りは、今後10年で大きく変わると思われる。先ほどの図における変化が指し示すものは、単なる賃金カーブの鈍化だけではない。その先に待つのはフラット化である。つまり、マネージャーとそれ以外のホワイトカラーが分化し、緩やかな職務給化が始まっているわけだ。こうなると、もう年齢にこだわって中途採用を実施する意味は無くなる。一般的な日本企業の中にも新たに"専門職"というカテゴリーが生まれ、その中で多様な値付けがされることになる。
そう考えると「マネージャーは期待薄だけど、転職できる準備だけはしておきたい」という人は、とりあえず専門性のスキルを磨いておくことをすすめたい。
ポイント:
- 企業によって若干の幅はあるが、35歳転職限界説は今でも存在する。法改正で見えにくくなっているため、転職の際は人材紹介会社を介した方が効率的だ。
- 35歳以上でも転職できる人材を目指すなら、専門性を磨いて専門職キャリアパスを目指すといい。賃金カーブのフラット化にともなって、専門職キャリアを整備する企業の増加が見込まれる。
【筆者プロフィール】城 繁幸
人事コンサルティング「Joe's Labo」代表取締役。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種メディアで発信中。代表作『若者はなぜ3年で辞めるのか?』『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』等。
「ビジスパ」にてメルマガ「『サラリーマン・キャリアナビ』★出世と喧嘩の正しい作法」を執筆中。
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