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秋の夜長にいい音を楽しむヘッドフォンアンプ選び 第1回

その音に不満!? いいヘッドフォンを買う前にアンプを買え!

2011年09月19日 12時00分更新

文● 鳥居一豊

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ヘッドフォン本来の実力が引き出された
1ランク上の音に感動

 試聴では、MP3(128kbps)で記録した音源と圧縮音源ではないリニアPCMの音楽を再生。MP3音源は、良くも悪くも圧縮音源らしさがしっかりと出てしまった。そのほかのヘッドフォンアンプでも、圧縮音源とリニアPCMの音質差はきちんと出るが、本機の場合はその違いがとてもストレートでわかりやすい。

 例えば、圧縮音源の失われがちになる高域成分の不足による空間の広がりがなくなってしまうこと、バイオリンの弦の艶やかな音色や、ボーカルのみずみずしさの不足が残念ながらよくわかってしまう。まず、この正直な音の出方が本機の特徴だと感じた。

 こういった差がはっきり出るのは、ヘッドフォンアンプ自体に余計な音の色づけや演出がないこと、原音を忠実に増幅して送り出すというアンプのひとつの理想を徹底した音作りにあるだろう。

 そのため、自宅ではリニアPCMでリッピングしてNASに保存した楽曲データを、LINNのデジタルプレーヤー「MAJIK DS」で再生している。

今回の試聴で使用したShureのヘッドフォン「SE535」と「SRH940」

 クラシックでは、ショパンのピアノ・ソナタやモーツァルトの交響曲「ハフナー」などを聴いてみた。ヘッドフォンは出力音圧レベルが119dBとかなり高能率なShureの「SE535」のほか、同じくShureのオーバーヘッド型ヘッドフォンである「SRH940」で聴いている。それぞれに音の出方は異なるが、どちらも解像度が高く、演奏の細かい部分まで緻密に描き分ける実力を備えている。

 AT-HA20を使って聴くと、携帯プレーヤー+圧縮音源では気付かなかった音のダイナミックレンジが広いことに驚いた。S/Nが極めて高く、1音1音がとても鮮明だ。これは再生ソースが変わったことによる違いも大きいが、AT-HA20を使わない場合だと、小音量から大音量へと一気に盛り上がるフォルテッシモの部分の高揚感や勢いに違いを感じる。

 かなりパワフルな鳴り方なのだが、音色としてはフラットバランスであり、低音の張り出しによるパワフルさなどとは異なる。音の出方がとてもダイレクトで、音楽のエネルギーだけが倍加したかのような聴こえ方をする。

 とても楽しんで聴けたのが、ジャズの楽曲。ビル・エヴァンスのトリオなどを聴くと、ピアノ、ベース、ドラムスのそれぞれの音が鮮明というよりも目の前で鳴っているようなダイレクトな鳴り方で、ライブ録音ならではの緊張感やグルーブ感がよく伝わる。単に解像度が高いだけの音では、観客の咳払いなど余計なものが耳についてしまうのだが、そういった環境音はオフで、音楽だけがオンとなるような描き分けがしっかりとできており、音楽だけに集中できる。

 ポップスのボーカル曲は耳元で歌ってくれているように感じるほど、音楽との距離が近い。大好きなボーカル曲ならば曲に夢中になってしまうだろう。普段のヘッドホンでの試聴では、ここまで音楽が間近に迫った再現にはならず、もう少し音楽との距離を感じるし、熱気やエネルギー感ももっと控えめになる。

ヘッドフォンのよって変わる
音の違いを楽しむのも一興

 驚くのがヘッドホンを変えたときの聴こえ方の違いだ。SE535では解像度の高さがしっかりと感じられ、クラシックでのホール感やジャズの一音一音のしっかりとした音色、ボーカルのみずみずしさまできめ細かく描いたが、SRH940に変えるとエネルギー感やダイレクト感はそのままに、スケール感がさらに広がるのがわかる。

 解像感ではややSE535に劣るものの十分な情報量で、音の出方に余裕があるというか、少しテンションを抑えて冷静に音楽と向き合うような鳴り方になる。

 これは、両者のヘッドフォンで自分が感じる聴こえ方の違いをそのままわかりやすく表現したようなもので、それぞれのヘッドフォンの持ち味がよりはっきりと感じられた。アンプ自体の音色的な個性はほとんどないと言ってよく、それがヘッドフォン本来の音の個性を明瞭に描き分けるのだろう。これはさまざまなヘッドフォンをいくつも持ち、楽曲や気分で使い分けているようなヘッドフォン好きにはかなり魅力的だと思う。

 解像度の高い写実的な描写や低域がしっかりと音楽を支える安定感と、天井知らずのエネルギー感といった音楽を楽しむのに欠かせない要素はきっちりと押さえながら、それ以上の個性を主張しない。しかし、ヘッドフォンのグレードがひとつ上がったような、これがこのヘッドフォンの本来の持ち味だと思わせるようなクオリティーの向上がはっきりとわかる。

 もちろん、ヘッドフォンの個性に華を添えてくれるような、アンプとしての音の個性を求める人もいると思うし、なによりも音楽との距離がかなり近いこともあって、本を読みながらといったリラックスした聴き方には向かない。いつの間にか時間を忘れて音楽に集中してしまうような求心力のある音とも言えるし、聴き疲れする音と感じる人もいるだろう。そのあたりの厳しさも持った本格的な音だと感じた。

自宅で使うヘッドフォンを
手軽にアップグレードするのに最適

 正直なところ、この価格のヘッドフォンアンプでこうした音が聴けるとは思っていなかったので、ちょっと驚いたし、実に魅力的だと思った。現有のヘッドフォンの音がとても気に入っているので買い換えたくはないが、さらなるグレードアップには関心があるという人にはうってつけのモデルだ。

 さて、ヘッドフォンは外で使うもの、と考える人も多いはず。特に最近はスマホで音楽を聴いている人もよく見かけるようになった。そこで、次回はスマホの音楽環境改善をテーマにしてヘッドフォンアンプを紹介していく。

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