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NetAppユーザーの商社AがDRで成功したワケ 第3回

転送してみた!

NetApp技術陣がオンプレミスのDRを実際に検証

2011年10月18日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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商社Aの情シスでDRの見直しを進めている石川は、ネットアップの無償アセスメントを受け、計画見直しを本格化させている。大阪へのDRサイト構築、そして遠隔バックアップという具体策が見えた今、最後の関門はその「実現可能性」だ。

オンプレミスで遠隔バックアップを試す

 ヒアリングから1週間後、NetApp小林はレポートを持って商社Aに来社した。レポートには、DR実施レベルの総合評価や確認できた課題、特に優先度を上げて実施すべき項目の抽出、そして課題解決に向けた方針とアクションなどが事細かに書かれていた。そして、NetApp小林はレポートの概要を説明すると共に、同席したNetApp石渡が石川に一枚の興味深い資料を渡した。なんと、東京と大阪間で遠隔バックアップを実施した場合の検証データである。

NetApp 石渡:今回の震災で、関西のデータセンターや支社に遠隔バックアップを行ないたいという要望が多く上がってきました。ですので、関西の事務所を引っ越したのを機に、弊社のエンジニアにFASでのSnapMirrorを使った遠隔バックアップのベンチマークをとってもらうことにしたのです。

石川:うちのためというわけではないのですね(笑)。でも、弊社も東京と大阪間での遠隔バックアップを検討していたので、とても貴重なデータです。どういう条件で検証したデータなのか、もう少し詳細を教えてください。

NetApp 石渡:はい。まず検証環境ですが、都内のオフィスにはミッドレンジのFAS3170+DS4243を設置し、IIJの20Mbpsの帯域保証回線でインターネットにつないでいます。一方、大阪オフィスにはエントリのFAS2040を設置し、フレッツ光の100Mbpsベストエフォート回線で同じくインターネットにつないでいます。あとは両者でVPNを張り、SnapMirrorでの仮想化のデータストアとファイルサーバーのレプリケーションを行ない、重複排除や圧縮などの効果を図ったのが今回の検証です。FASでは同一データをブロック単位で排除する重複排除とファイルシステムWAFLでの圧縮、そしてSnapMirrorで転送時に圧縮をかける方法があります。これらがどの程度有効かを調べました。

石川:特段、速い回線やハイエンドの機種を用いたわけではないのですね。

NetApp 石渡:そうですね。ベストエフォート回線でしたし、今回はネットワークの速度が出なくて、厳しかったです。

石川:なるほど。確かにVMwareのデータストア100GBの転送に37時間3分27秒なんて、べストエフォート回線とはいえ、相当な時間がかかっていますね。実効帯域が6.21Mbps(786KB/s)というのは厳しいですね。

NetApp 石渡:ですから、可能な限り余計なデータは転送しないというアプローチが重要です。たとえば、重複排除を使うとデータ容量は約1/10の9GB強にまで削減され、SnapMirrorで転送時に圧縮をかけると転送量は約4GBにまで削減されます。WAFLで圧縮をかけておくとディスクの使用量や転送量も減ります(図5)。

図5 VMデータストア初期転送

石川:最終的には当初から約1/20の2時間22分4秒で済んだというわけですね。データストアのアップデートもやはり重複排除や圧縮を用いると、劇的に転送量が減りますね。

NetApp 石渡:DRはとにかく初回時の転送に時間がかかりますから、東京-大阪間であれば、ストレージ自体を郵送してしまう方が早いかもしれません。あとは差分転送だけですから、それほど時間もかかりません(図6)。

図6 VMデータストアアップデート

石川:これであれば、遠隔拠点できちんと仮想マシンを立ち上げることも可能ですね。

NetApp 石渡:もう1ついわゆるファイルサーバーの場合でも試してみました。25GBを転送した場合、普通だと9時間強かかります。これに重複排除とWAFLの圧縮をかけると20%削減の20GBになります(図7)。

図7 一般ファイル初期転送

石川:重複排除でも7%程度、WAFLの圧縮でも20%ということで、やはり削減率が下がりますね。

NetApp 石渡:そうですね。ただ、弊社社内だとファイルサーバーの更新がだいたい1日3.2GB程度なので、これをベースに差分転送すると、毎日1時間弱でファイルサーバーの最新データを転送できることになります(図8)。ベストエフォート回線を用いて、これくらい速度が出ているので、十分現実的だと思います。

図8 一般ファイルアップデート

石川:確かに現実的な数字ですね。ぜひDRプランに盛り込んで行きたい内容です。

クラウドへのバックアップも有効な選択肢に

NetApp 石渡:今回はオンプレミスで、DRサイトを構築するという想定でしたが、昨今では転送先としてクラウドサービスを利用するというパターンもおすすめしています。

石川:大震災以降、クラウドの導入を本格的に検討しているところも増えているようですね。

NetApp 石渡:たとえば、弊社のパートナーであるインターネットイニシアティブ(IIJ)さんでは、SnapMirrorでのバックアップ領域をIIJのクラウドで用意する「IIJ GIOリモートバックアップ forNetApp」というサービスを提供しています。これを使えば、DRサイトの構築にかかるコストや時間を大幅に短縮できます。コスト面で妥協を強いられた場合は、よい選択になると思います。

石川:わかりました。では、DRサイト構築の際には、またお声がけすると思いますので、今後ともよろしくおねがいします。

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 ということで、商社AはDRの実現に向け、確実な一歩を踏み出した。大震災から少し時間が経ち、DRやBCPに関する関心が少しずつ薄れている面もあるが、余震や電力不足などは今も続いている。こうした不透明な状況だからこそ、事業継続に対してきちんと見直しを行なうべきであろう。

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