GIGABYTEのマザーボード事業部のトップであるVincent Liu氏が来日しているという話を聞き、どうしても聞きたいと思ったことがあった。それは今年のCOMPUTEX TAIPEIについてである。世界最大級のコンピュータ機器の見本市であるが、ここ数年、以前と比べてパワーが落ちているように感じる。デスクトップPCは凋落し始めたのか、それとも単に市場のサイクルの問題なのか、自問自答しても答えはでない。日本でも人気の高いPCパーツメーカーであるGIGABYTEは、それをどのように感じているのか、そしてどのように展開を考えているのか、今後の日本での製品展開も含めてお話を伺った。
非力なモバイルと強力なデスクトップ
この2つの併存で生活が豊かになる
――私、毎年COMPUTEXに参加しているのですが、例年に比べてパワーが落ちているような気がします。どのようにお考えですか?
Vincent Liu(以下、Liu):最近注目されている製品はiPadやスマートフォンの類ですが、今回のCOMPUTEXの期間中も、他社からもいくつか発表されていました。インテルの資料では、PCの成長率はまだ上り調子です。これは予想ですが、将来的にはiPadやスマートフォンに代表されるモバイル機器が1つの軸になり、PCの重要度は相対的に下がっていくと思います。今回のCOMPUTEXを見ると、そのような感じがあります。
――御社のライバル会社であるASUSTeKさんは、30日にプレカンファレンス(関連記事)を行なってウルトラモバイル系の製品を発表しました。Macbook airに対抗した製品ですが、大体こういった発表のときには対抗して同じようなジャンルの製品を発表いたしますが、今回はありませんでした。そのあたりの戦略はどのようにお考えなのでしょうか?
Liu:事業部が異なるので答えられる範囲でお答えします。今のウルトラモバイル系の製品はインテルが注力している1つで、各メーカーに強力なプッシュがあります。これは会社の選択の問題なのですが、ASUSTeKはウルトラモバイルをプッシュしてきましたが、GIGABYTEも同じような製品がありますし、中心に据えているラインナップが若干異なっています。今回GIGABYTEから、Windows7を搭載したスレートPCが発表されました。これはGIGABYTEのモバイル系の特徴の1つです。普通のスレートPCとかタブレットだったら、AndroidとかアップルのiOSを使用するのでしょうが、GIGABYTEはビジネス系をターゲットにして、Windows7を使ったタッチスクリーンタイプの製品を出しました。
――なるほど。スレートPCの延長として聞きたいのですが、Windows8の開発版が9月に開催されるBUILDで登場するのではないかと周辺では言われています。そこで注目なのが、Windows8がARMに対応する点です。従来のWindowsというのはデスクトップを中心に発達してきたものでした。ところがARMにも対応するとなると、ある意味デスクトップの文化から軸足を移すのではないかと思われます。デスクトップを担当されているということで、そのあたりは一抹の寂しさというのはないのでしょうか?
Liu:基本的にARM系のCPUとIntel系のCPUは目的が違います。Intel系のCPUですと、複雑ですが性能が高く、パフォーマンスを求めるものが主流になります。ARM系だったら、シンプルでパフォーマンスはそれほど高くなくとも携帯が便利なモバイル系機器の中心となります。今の段階で報道などに出てくる話を見ていると、マイクロソフトのWindows8は異なるセグメントの機器をすべてカバーするとのことですが、いろいろなデバイスGIGABYTEにはありますので我々には都合がいい。
去年と今年のインテルやほかの調査会社によると、モバイル系(タブレットとスマートフォン)の成長が顕著です。PCももちろん成長しました。その2つの間でユーザーは「何がいいのか?」という選択基準で製品を選んでもらい、生活の利便性が向上してお互い発展することでしょう。
mSATAにMLCではなく、SLCを採用した理由
――デスクトップに話題を移したいのですが、今のところGIGABYTEさんの製品というのは秋葉原では知らない人はいない状況です。人気順で言うならば、ASUSTek、GIGABYTE、MSIという3社が中心となっていて、ASRockさんが猛烈に追い上げています。御社の製品の強みというのはいったいどこにあるのか、セールスポイントをお聞きかせください。
Liu:(「GA-Z68XP-UD3-iSSD」を取り出して)、これがマザーボードに取り付けられたmSATAコネクターです。インテルの20GBのSLCタイプのSSD(Intel 311シリーズ、関連記事) を使用しています。メインシステムを組み込むことでHDDに比べて60%の高速化が可能となります。このシステムはGIGABYTEのみのもので、インテルと一緒に開発をしたものです。これによりシステムのボトルネック――HDDですが、を解消しました。SSDはシステムパフォーマンスを改善するのです。これをユーザーに最初に提供できました。先進のものを製品にいち早く取り入れるというのがGIGABYTEの特徴です。
――mSATAコネクター付きのマザーボードが登場したときは衝撃的だったのですが、社内的に喧々諤々の議論が起きたのですか?
Liu:社内では反対意見はもちろんありました。MLCのほうが流行っているからMLCのほうがいいのではないかという意見がありました。インテルはSLCのSSDを推していて、ノートPCに搭載したりと流行り始めているものなので、SLCのいいところをいろいろなセグメントに広げていこうということで、GIGABYTEとインテルが協力して開発したものです。
――他社からも同じようにmSATAコネクターを載せたような製品は出てくるのでしょうか?
Liu:まだありません。mSATA+SSDという構成が可能なのはまだGIGABYTEしかありません。
――mSATA接続のSSDの搭載容量が20GBになった理由というのは何だったんですか?
Liu:コストパフォーマンスの問題です。今の普通のSSDだったらMLCタイプのものが普通です。GIGABYTEはSLCです。SLCはMLCに比べて10倍ほど寿命が長いのですが、値段が高い。普通この容量のものを市場で購入したら1万1000円くらいです。40GB、60GBですとより高価になるのですが、20GBだと適当な価格ですし、20GBというのはコストパフォーマンスで一番お勧めとなっているのです。
SLCはちょっと価格が高いのですが、GIGABYTEとインテルが協力してこのSLCを供給しています。今後、GIGABYTEがもっと安い値段でお客様にSLCを提供するチャンスもあるでしょう。GIGABYTEの特徴について、SSDのほかにもう1つあります。説明してもいいですか?
――ぜひお願いします。
Liu:GIGABYTEには非常に珍しい、便利な機能があります。「EZ Smart response」というものです。インテルのZ68チップセットにはインテル独自のiSRT機能がありますので、これとSSDを使ってシステム性能を上げます。しかしちょっと設定が複雑です。BIOSからRAIDを使ってOSを入れて、さらにユーティリティをインストールしなければなりませんし、最初から設定するとなるとOSを入れ替えなければならず、以前の設定や資料などすべてなくなる可能性が高い。
ですが今回のCOMPUTEXでGIGABYTEは「EZ Smart response」という機能を発表しました。最初からGIGABYTEのBIOSで設定すると、他のユーティリティをインストールすることなく、RAIDを設定する必要もありません。「EZ Smart response」をONにすれば全部自動的にBIOSから設定でき、インテルのスマートレスポンスと同等のことができます。こういった機能は現在のところGIGABYTEしかありません。
多分他のベンダーからそういった機能を持った製品が出るかもしれませんが、最初からGIGABYTEにはいろいろな機能が用意されています。例えばソリッドコンデンサー、2オンスの基板など、GIGABYTEはいろいろな機能を発表してきました。GIGABYTEは基本的にシステムを作るとき、安定性や性能を高くするようにいろいろなユーティリティとか機能を作ります。他のメーカーならば見た目だけの場合がある。GIGABYTEは今のシステムをどうやって安定的に利用できるか、性能的にもっと上げることができるかということをいつも考えています。