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“音のビーム”を壁に反射させてサラウンド環境を実現

ヤマハ「YSP-2200」で『ガンダムUC』を聴いてみた

2011年06月20日 09時00分更新

文● 鳥居一豊、氷川竜介 撮影●篠原孝志(パシャ)

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なぜ後ろから音が聞こえるのか?

太田 「接続は簡単なんだけど、これってバーチャルサラウンドとはどう違うんですか?」

鳥居 「いわゆるバーチャルサラウンドと形は一緒だけど、中身は別物。それがヤマハのYSPシリーズの最大の特徴なんだ」

 バーチャルサラウンド技術とは、テレビの周りに置いたスピーカーだけで擬似的に後方の音まで再現する技術。音声信号に人間の聴覚心理を応用したデジタル処理を加えることで、後ろにスピーカーがあるようなサラウンド音場を再現できるもの。

 省スペースでコスト的にも有利なため、各社からいろいろなモデルが登場しているが、残念ながら本格的なサラウンドと比べると、サラウンド空間の再現などには差が出てしまう。

 だから太田クンの心配ももっともなのだが、「YSP-2200」は違う。スピーカー部をよく見ると、内部に16個ものスピーカーがずらりと並んでいる。この16個のスピーカーを高精度に制御することで「音のビーム」を作り出す。

一列に並ぶ計16個のビームスピーカーが、音を壁に反射させてサラウンド効果を作り出す

 これは水面に石などを落としたときの様子を見ると想像しやすいが、同時にいくつもの石を投げ入れると、互いの石が生み出した波紋が打ち消し合ったり、ひとつにまとまって大きな波紋になっていることに気付くだろう。

 スピーカーの音も、空気の振動という波なので、1個のスピーカーの音は波紋のように均一に広がって放射される。これを複数のスピーカーから音を出すことで、音に指向性を持たせ、自由な方向に音を投射できるようにしているのだ。

 この「音のビーム」を部屋の壁に反射させることで、真横や真後ろといった後方の音までリアルに再現できるのだ。しかも、「YSP-2200」は7.1chのサラウンド音声まで対応しているので、最新の映画館と同じ7.1chサラウンドをリアルに再現できてしまう。

音のビームを壁に反射させることで7.1chのサラウンド再生を可能にするヤマハのデジタル・サウンド・プロジェクターの概念図

鳥居 「百聞は一見にしかず。まず自動でセッティングを済ませてくれる『インテリビーム』をやってみるから、その様子を見てみよう」

太田 「自動セッティング? インテリビーム?」

鳥居 「説明したように、『YSP-2200』は部屋の壁を利用して音を反射させる。だから、部屋の広さや壁までの距離を測定したり、壁の反射による音質の調整などをしないと、正しいサラウンド空間を再現できないんだ。でも、これを素人がやるのは難しいので、自動で最適にセッティングする機能が用意されているというわけ」

太田 「セッティングを始めたら、スピーカーからパチパチとかザーザーといった音が出てますね」

鳥居 「それがテスト用の音。視聴位置に置いたマイクでその音を収録して、部屋の広さや音響条件を測定しているんだ」

太田 「あっ、音が四方を動き回り出しましたよ」

鳥居 「音のビーム角度を調整しているね。正しい位置からリアの音が聞こえるようにビームが進む向きを揃えているんだ」

付属の「インテリビームマイク」を視聴したい場所に設置して、もう一方をスピーカー前面のイヤフォン端子に挿したら、後はリモコンから一発で自動的にセッティングされる。所要時間は3分程度。マイクの裏には三脚用の穴が付いているので、写真のような設置法がベスト。いちいち複数のスピーカーを動かす必要がないので初心者でも楽々

 なお、本来は測定が始まったら部屋の外に出て待っているのが基本。おしゃべりなどをしていると正しい測定ができなくなるので、うるさくしないことも注意事項だ。測定時間はほんの数分なので、長時間待たされてイライラするようなことはない。

太田 「あっという間にテストが終わっちゃいましたね。これでOKなんですか」

鳥居 「好みに合わせて微調整することもできるけど、基本はこれで終了だよ。この計測だけで、今回のテストのようにテレビを壁に寄せていたり、部屋のコーナーに設置しなければいけない場合でも適切に調整してくれる。だから、テレビの置き場所を気にする必要もないんだ」

太田 「これなら誰でも簡単にできちゃいますね」

鳥居 「実際に5本以上のスピーカーを置くとなると、設置だけでも大変だから、この簡単さは本当にありがたいね」

宇宙世紀の世界へ跳ぼう! 『ガンダムUC』の音響(2)
文=氷川竜介

音で宇宙世紀を表現した『ガンダムUC』

『機動戦士ガンダムUC』第1巻(バンダイビジュアル/税込5040円/発売中)

『機動戦士ガンダムUC』第2巻(バンダイビジュアル/税込6090円/発売中)

 では話題作『機動戦士ガンダムUC』を例にとって「音による世界観」を解説していこう。1話あたり60分とは思えない濃密な内容のアニメ作品で、しかも短時間で舞台を次々に移動する群像劇である。

 原作小説からかなり圧縮した語り口にしては、「主人公たちが今どこにいて何をしているか」が瞬時かつ明瞭に伝わってきて、物語進行がスムーズに感じられるはずだが、これを不思議に思う人は少ないはずだ。音響を語る難しさがここに端的に現われている。付いていて当たり前、それも不自然に感じずスッと聞き流してしまう音であるからで、そのナチュラルさこそが大きな演出効果を上げる。

 たとえば第1話、格納庫にいるカーディアス・ビストのところへガエル・チャンがバナージたちの侵入を報告するシーン。ユニコーンガンダムの全身が見えるほど広大なマスターショットでは、空間の広さを示す残響たっぷりの背景音が観客を包みこむ。ところが続けて2人が近づくバストショットに変わると、すっと音が引く。そこで観客は重要な会話に耳をそばだてて集中できるというわけだ。

 こうした音響の遷移があまりにもカット割りに忠実だと、観客は自分がテレポートしたかのように錯覚するため、あくまでもスムーズに感じられるかどうかがポイントだ。

 また、オードリーを自称する少女は戦闘中の宇宙艦船内、コロニー中央部、落下中の大気、落下後の住宅地、そして繁華街と移動する。このときもエンジン音、回転音、風切り音、鳥のさえずり、雑踏など背景音が絶妙に変化していく。

 ことに「空気そのものに常に音が付いている」という感覚は、スペースコロニーという地球外に居住可能な巨大空間を造りあげ、そこに空気を人工的に配した時代という「宇宙世紀」を実感させるものだ。このように環境音は非常に重たい役割を背負っている。

場面が切り変わるたびに、背景音も細かく変化していく。『ガンダムUC』は絶妙の音響を構築することで「主人公たちが今どこにいて何をしているか」を観客に伝えている。(C)創通・サンライズ

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