このページの本文へ

スイッチでデータセンターが変わる 第72回

データセンターやキャリアが注目するオーバーレイネットワーク技術

ネットワーク機器ゼロのデータセンターを目指す「MidoNet」

2011年05月20日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

クラウドコンピューティングの将来を見据え、「ネットワークの仮想化」を実現するソフトウェア「MidoNet」を開発しているのが、ITベンチャーのミドクラだ。ミドクラ創業者兼CEOの加藤隆哉氏にMidoNetの概要と登場の背景について聞いてみた。

クラウドをリアルタイムに使い分ける時代の基盤ソフト

 ミドクラは創業者の加藤氏がアマゾンやグーグルのインフラエンジニアを集めて作ったITベンチャーで、クラウドコンピューティング関連のソフトウェアを開発している。外国人の社員も多く、東京のほか、スペインのバルセロナや米ロス・アンジェルスなどにもオフィスがあり、グローバル展開を前提としてるのも大きな特徴だ。

ミドクラ創業者兼CEOの加藤隆哉氏

 ミドクラは設立されてまだ1年程度だが、先頃4月にはビットアイルやNTTインベストメント・パートナーズ、ファーストホールディングなどから資金を調達している。この背景には、同社が手掛けるMidoNetというネットワーク仮想化ソフトウェアへの期待があるという。

 加藤氏は、MidoNet登場の背景として、3年後のクラウドコンピューティングの未来を描く。「最初はハードウェアの仮想化で、IT機器の数を減らすのが第1段階。昨年くらいから所有から利用へという流れで、実験的にパブリッククラウドに移行する『クラウドファウンデーション』という第2段階が始まっている。そして、2~3年後には最終的にパブリック、プライベートクラウドをうまく組み合わせる第3段階がやってくる」(加藤氏)。この第3段階では、ビジネスと連動するITのインフラをリアルタイムに変更していきたいというニーズが出てくるため、パブリックとプライベートのクラウドを統合した「クラウドネットワーク」が本格稼働する。これが加藤氏の見立てだ。そして、これを実現するためのネットワーク仮想化技術を提供するのがMidoNetである。

ネットワーク仮想化を実現するMidoNet

 サーバーやストレージの仮想化を実現する製品は数多く出ており、データセンターでの導入も進んでいるが、ネットワークの仮想化はほとんど進んでいない。そのため、いまもエンジニアは物理な結線はもちろん、VLANやネットワーク設定を手動で行なう必要がある。また、ハードウェア故障によるシステムダウンの影響を避けて通れない。加藤氏は「先日、Amazon EC2が長時間ダウンしましたが、あれはデータベースにアクセスするトラフィックの増加でネットワーク機器に障害が発生したのが原因。仮想化の進んだクラウドの中でもネットワークはボトルネック、単一障害点になっている」と指摘する。もちろん、ネットワーク機器のベンダーもこうしたネットワークの仮想化に取り組んでいるが、「ハードウェアのネットワーク機器はきわめて高価。クラウドのコストに影響してくる」(加藤氏)と述べる。

ネットワーク仮想化は未開拓の分野

 これに対して、MidoNetはルーター、スイッチ、ロードバランサー、ファイアウォールなどの機能をソフトウェアで提供しており、汎用サーバー上にMidoNetをインストールすれば、VLANやVPNをどこでも構築できるオーバーレイネットワークが実現する。また、NOCのような一元的な管理を可能にし、通信方式や速度、品質、機能などを動的に変えられるのもメリット。ユーザーはMidoNetベースのノードを物理的につないだクラスタがあれば、インフラ構築は完了。この結果、物理的にはコンピューターの塊でクラウドは完結し、ネットワーク機器は一切不要になるという。

物理的なネットワークから論理的なネットワークを引きはがすMidoNet

 かなり革新的な技術なので、なかなかイメージしづらいが、加藤氏は「ネットワークにプロトコル変換やデータ交換などの付加価値が載っていた大型コンピューター時代のVAN(Value Added Network)の発想です。分散型から集中型に戻っているだけです」と説明する。もちろん、物理障害や性能面での懸念もあるが、MidoNetのノードは増やせば増やすほど、冗長度とパフォーマンスも向上する。そのため、前述したような障害やパフォーマンス劣化は起こりにくくなる。「2000~3000個のVMが動いていても、きっちりスループット1Gbps出る」(加藤氏)という。

 MidoNetは国内にとどまらず海外も含めたデータセンターや通信事業者から大きな注目を集めており、試用版の問い合わせが殺到しているという。「ワールドワイドで見ても、ソフトウェアベースのネットワーク仮想化を手掛けているのは、ビッグスイッチ(Big Switch Networks)、ニシラ(nicira)とうちくらい。まだまだプレイヤーが少ない」と、先進性をアピールする。

 現状、ミドクラはこのMidoNetとクラウド管理プラットフォームの「OpenStack」を用いたクラウドインフラをインテグレーションしている。そして、先頃データセンター事業者のビットアイルは、MidoNetとOpenStackを組み合わたIaaSの実証実験を行なうという発表を行なった。「MidoNet+OpenStackを安価なサーバーに載せて提供するので、性能やオペレーションについて調べる必要がある」(加藤氏)とのことだ。また、現状はOpenStackとの組み合わせだが、VMwareのような商用ソフトや他の仮想化プラットフォームとの連携も実現していくという。

息抜きも充実していそうなミドクラのオフィス。節電中で薄暗いことをのぞけば、英語の飛び交うオフィスは米国のようだ

 クラウド市場での競争が激しくなってきた昨今、コスト削減やオープン化の流れは避けて通れないことは明らかだ。こうしたなか、ミドクラの先進的な取り組みがクラウドの市場にどのように影響を与えていくのか、注目していきたい。

■関連サイト

カテゴリートップへ

この連載の記事