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誘致を目指す北海道、青森県のブースをレポート

自然エネルギー活用を提案するデータセンター誘致の現場

2011年05月16日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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3・11の大震災の影響で、データセンターの需要が拡大するなか、首都圏から地方へのデータセンターへの移転も加速すると見込まれる。Japan IT Week会場で誘致を行なっていた北海道、青森県の誘致プロジェクトに話を聞いた。

大震災がデータセンターの地方移転を加速する

 データセンターの7割は首都圏に集中しているといわれているが、今後地方への移転が進むと考えられる。クラウド市場での競争が激化すると共に、データセンター事業者は大きなコスト削減が必要になってくるからだ。

 本来的にデータセンターはサーバー向けのリッチなホテルに等しく、電力設備、耐災害設備、セキュリティなどあらゆる面で大きなコストがかかる。現状、多くのデータセンター事業者は、IT機器の大量購入や省エネ化、運用管理の自動化などにより、コスト削減を進めているが、土地代や人件費などの固定費はなかなか下げられない。ここを抜本的に解決し、コスト構造自体を大きく変えるには、データセンターの立地自体を見直すしかないわけだ。実際、地方データセンターとして象徴的なIIJの松江データパークやさくらインターネットの石狩データセンターなどは、こうしたデータセンターのコスト構造の再設計と外気冷却による電力消費の削減を大きなテーマとしている。

 そして、ここに来て3・11の大震災と電力の利用制限である。BCPの観点から、首都圏以外の郊外や地方のデータセンターのバックアップサイトの需要が急増しており、特に関西のデータセンターは一気に埋まりはじめているという。また、安定した電力供給という観点からしても、東京電力や東北電力の管区外へのデータセンター移転は今後検討すべき事項であろう。

 これに対して多くの地方自治体は以前からデータセンターの誘致に力を入れていた。今回のJapan IT Weekでも、いくつかの自治体がそのメリットをアピールしていたので、見てみよう。

冷涼な気候と雪冷熱が売り!
北海道美唄市のそらち工業団地

 北海道の空知団地企業誘致推進会議は、国内最大級の敷地を誇る「そらち工業団地」へのデータセンター誘致を行なっていた。そらち工業団地のある美唄市は札幌と旭川の間の道央に位置しており、主要幹線の国道12号線と隣接している。地震や台風の上陸がきわめて少なく、海岸線からも35kmと遠いため、津波の心配もない。自然災害に強いというのは、3・11の大震災を経た今では、きわめて重要な要素といえる。

北海道の空知団地企業誘致推進会議は「そらち工業団地」を誘致

 そらち工業団地の売りは、なんといっても北海道ならではの冷涼な気候だ。美唄の年平均気温は約8℃で、夏期でも20℃程度。4~10月の外気温15℃以上で冷房が必要だとすると、東京では4,541時間稼働することになるが、美唄では2,567時間で4割以上低減できるという。

 さらに同市では、雪を使ってデータセンターを冷却する「雪冷房」を使った世界初の実証実験も昨年行なっている。雪冷房は、降雪した雪を雪山として蓄積し、夏期にその雪で水の熱交換を行ない、IT機器等の冷却を行なうというもの。外気冷却と雪冷房を組み合わせることで、首都圏に比べてサーバーの冷却コストをなんと20分の1にまで削減でき、PUEも1.2以下に抑えられるとのことだ。

実際の模型を元に雪冷房のデータセンターのモデルを披露

 雪冷房自体は、すでに農作物の貯蔵設備や高齢者の介護設備、賃貸マンションなど市内10箇所で導入済みで実績もある。夏期を冷房するためには約5万トンの雪山が必要だが、年間約8メートルの降雪量を超える美唄では十分に調達できるという。雪山を蓄積するために必要な敷地も広大で(分譲中面積110ha)で、安価なので心配はいらないようだ。同市はこうした自然エネルギーをフル活用した「ホワイト・データセンター」を提唱し、データセンターの移転施策を促進している。利雪技術などの資料も非常に充実しており、グリーンなデータセンターを検討している事業者は注目しておきたい。

■関連サイト

風力発電の活用を訴える
青森県の「むつ小川原グリーンITパーク」

 むつ小川原グリーンITパーク推進協議会は、青森県の六ヶ所村にある「むつ小川原グリーンITパーク」を誘致するブースを出していた。むつ小川原グリーンITパークは下北半島のつけ根に位置しており、最先端のエネルギー関連施設が集中する場所としてよく知られている。年平気気温が9.5℃と冷涼な気候で外気冷却にむくほか、海沿いということで豊富な工業用水を冷却に利用でき、太平洋側のため、降雪が少ないという特徴があるという。

むつ小川原グリーンITパーク推進協議会のブース

コストの低減や低い災害リスクなどを訴える

 雪冷房が売りだった北海道の美唄市に対し、青森県のむつ小川原グリーンITパークの売りは風力発電である。実は青森県は風力発電の導入率が日本一で、県内には200基以上の風力発電機が据え付けられており、むつ小川原グリーンITパークにはその約4割が集中している。また、六ヶ所村二又風力発電所では、大容量蓄電池を併設し、電力の平準化やUPSの代替を実現しているという。原子力、火力、水力、地熱などと併用することで、安定した電力供給が可能になっている。

 その他、Japan IT Weekでは沖縄県や旭川市、神戸市などが誘致活動を繰り広げていた。次にどの事業者がこうした地方移転へチャレンジするか、ちょっと楽しみだ。

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