本気で演奏すればファンクになる
―― でもあれだけ大人数のバンドを従えてやっていたのに、ゲーム機1台って怖くないですか?
サイモンガー 自分はキーボードの人間なんですが、あまり上手くはないです。だから楽器一本でやれる人にはコンプレックスがある。でも、そのスキルもないし、ピアノで出てくるとピアノの音楽になっちゃう。そういう「一人でやりたいコンプレックス」をずっと抱えていたんです。
―― ただファンクという音楽との整合性はどうですか? DS-10なんかはアナログシンセなので、ビートも含めて強い音は出せない。
サイモンガー いや、それはむしろ良いんじゃないですか。僕はプリンスを通過しているんで。ベースがなくてもいいんだ、みたいなことです。
―― ああ、「KISS」なんて曲はそうですね。それにあの人も打ち込みでした。
サイモンガー ファンクだからこの楽器のこの音がなければダメ、とは全然考えていないんです。むしろ、DS-10のような脆弱な音源にまかせることで、ファンクの機能的な部分を再現できると思うし、そこが面白さでもあると思います。
―― それは面白い発想です。でも最近「KORG M01」になって以降、すごく音に迫力出ているんですが。
サイモンガー それも善し悪しなんですよね。すごく良いソフトなんですが、ホーンの音を出したいと思ったら、本当にホーンの音が出ちゃう。それがDS-10のように、ホーンの機能はしているけど、ホーンとは似ても似つかない音を鳴らす面白さみたいなものがない。
―― ただあれで「サイモンガーさんは、打ち込み上手いんだ」ということは分かりましたよ。あと上手いのはステージのパフォーマンスですよね。舌でカオシレーターを弾いたり。
サイモンガー カオシレーターは圧力センサーなので、触れるものなら音が出ますから。いろんなところで出せますから。放送できないようなところとか。
―― 警察が来ちゃうようなところとかね。
サイモンガー ジミヘンからジム・モリソンに行くかどうかという話になるところですよね。
―― なにか不穏な話になってきましたが、歌詞も面白いですよ。深いことを言いたそうで、実は……。
サイモンガー 何もないんですよね。できるだけ浅いところで引き返すようにしています。たとえば「お風呂で石鹸踏んで転ばないように気をつけたい」※ということを歌うなら、それだけにしておくのが、その曲に対する誠意だろうと思いますね。
※ お風呂で石鹸踏んで転ばないように気をつけたい : サイモンガー・モバイル「BABA1960」の一節。株式会社ドッグイヤー・レコーズよりiTunes Storeで絶賛配信中!
―― 誠意!
サイモンガー それをBメロで「人生もこんなふうに転ぶけど何とかやってこうぜ」みたいにしがちじゃないですか。それが嫌だったんです。言葉数を減らしていくと覚えてもらえるし。「お風呂で石鹸踏んで転ばないように気をつけたい」以外の情報はお客さんの耳に入らないので、言いたいことが的確に伝わるなあと。
―― じゃああれは警句なんですか。
サイモンガー 気をつけてほしいです。実際、お風呂で石鹸は踏まない方がいいに決まってます。今のは「BABA1960」という曲ですけど、ジャイアント馬場さんの曲で※。最初はそれらしいことをも書いていたんですが、曲名だけ「BABA1960」って付けたんです。
※ 馬場さんとお風呂 : ジャイアント馬場はピッチャーとして読売巨人軍に入団後、風呂場で転倒して怪我を負い野球を断念。1960年に日本プロレスに入団し、プロレスラーとして復活する。
―― そこは分かれよと。
サイモンガー でも、わかんない人には、お風呂で石鹸を踏まないように気をつけてもらえれば、自分としては本望なので。
(次ページに続く)
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