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オラクル担当者が語ったグローバルサイトの作り方

2011年04月24日 10時00分更新

文●ロフトワーク、Web Professional編集部

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日本オラクルとロフトワークが「海外ビジネスを加速するグローバルサイトセミナー」を5月17日に開催する。Webサイトのグローバル化の必要性が企業にも理解されるようになり、さまざまな成功例が生まれている。しかし、グローバル化といっても多言語サイトをそれぞれの拠点で制作すれば膨大なコストが発生してしまう。コストをかけず、効果的なグローバルサイトを作るにはどうしたらよいだろうか。
セミナー共催社の日本オラクルは、米オラクルの日本法人として2004年という非常に早い段階でサイトのグローバル化に着手した経験を持つ。さまざまなハードウェア、ソフトウェアを世界規模で扱うオラクルとともに、今求められるグローバルサイトの姿を模索し、ノウハウを、ロフトワークの豊富なサイト制作ナレッジとともに共有するのがセミナーの目的だ。セミナーに先立ち、日本オラクル株式会社の渡邊紳二氏、浅沼隆司氏、ロフトワーク代表の諏訪光洋氏の3者が、オラクル青山センターの茶室で意見を交換した。

グローバルサイトはビジネスのグローバル化が求めた

ロフトワークの諏訪光洋

諏訪光洋氏(以下、諏訪):グローバル企業では、各国の拠点で構築・運営したWebサイトをグローバルサイトとして1つにまとめる流れがあります。日本オラクルさんも以前は日本語サイトを独自に運営していたと記憶していますが、2008年にはhttp://www.oracle.com/jp/として、グローバルサイトの一員になりましたね。

浅沼隆司氏(以下、浅沼):オラクルは、2004年から「全世界のあらゆるソフトウェア領域でナンバー・ワンになる」というスローガンを掲げて、企業・事業の買収を進めてきました。さまざまな製品やサービスが会社の一部として組み込まれていくとき、お客様に安定した、まとまった情報をご提供する必要性から、グローバルサイトの刷新プロジェクトが始まったのです。それまで日本オラクルとして独自に運営していたサイトも、2008年にはすべてグローバルサイトに統合させました。今はサイトのディレクトリ構造まで統一し、各国にある拠点では翻訳版を出すフローになっています。

諏訪:ロフトワークは大手企業のWeb制作をお手伝いしていますが、B to C分野ではマーケティング活動そのものをグローバル化する戦略に切り替える会社が増えました。単なる「Webサイトの多言語化」ではなく、Web中心のコミュニケーションとして、営業戦略を考えるようになったのです。

 また、各国サイトで製品情報の詳細さや正確さといった品質を一定に保つ必要性から、全世界で共通のCMSの導入を本気で考える企業が着実に増えています。これまではマーケティングの事情や組織の問題から各国の拠点が独自にサイトを持つ事を許してきましたが、グローバル戦略を考え、グローバルのマーケティング戦略がコミュニケーション化される他言語サイトをCMSで整えるわけです。もちろん企業の置かれた環境によって違いはありますが、ここ1、2年でそういう流れが確実に強まっています。

浅沼:グローバル企業がマーケティングをWeb中心に切り替える背景はなんでしょうか。

対談が開催された茶室。オラクル青山センターの中にある

諏訪:ちょうどよい事例に、試薬メーカーのWebサイトがあります。データをまず英語で載せると、化学記号の検索からサイトへの英語ユーザーのアクセスが増えたそうです。英語から始めて、お客さんがいることを確認し、実際に海外拠点を作って黒字化。この試薬メーカーにはすでに16か国語のサイトがあり、それを上回る数で海外拠点も増やしているそうです。初めにつくるのはWebサイトだけですから、いきなり海外に拠点を作るよりも安く、Webでマーケティング済みですので、拠点を作ったときの黒字化の見通しも立てやすい。中堅企業にとってすごく有効な方法ですし、Webからビジネスをグローバル展開した、とてもわかりやすい話です。これは中堅企業がWebを基点に海外進出を果たした成功事例ですが、大企業も拠点という「点」ではなくWebを中心にとした「面」でのグローバルマーケティングに目を付け始めている、ということだと思います。

グローバル化のポイントは、ローカライズのできる“余白”の設定

日本オラクルの渡邊紳二氏

渡邊紳二氏(以下、渡邊):オラクルのサイトでは、構造やデザインもグローバルで統一しています。他の企業だと、構造やデザインを各国で変えるケースもあるんでしょうか。

諏訪:グローバルサイトプロジェクトの運営は大変です。各拠点間の調整はとても面倒ですし、強いリーダーシップを誰かが発揮できればよいのですが、ある製品をこの国では載せる、この国では載せないといった話が出やすく、例外やマーケットや商慣習の独自性の話になると、組織内の見えない壁が立ちはだかります。

 ロフトワークがおすすめするのは"マスターデータ”を作ることからはじめることです。製品やサービスの全ての定量的なデータや画像を用意し、そのデータを実際に載せるか、活用するかは各拠点に取捨選択してもらうのです。XML化を考えマスターデータを作れば、各拠点のマーケティング事情に対応しながら、拠点の労力を圧倒的に減らせます。拠点の担当者も本当は大量の製品データをそろえることなんかやりたくないのです。

浅沼:その「マスターデータ」はどんなものなんでしょう? ブランドのロゴや製品情報のテキストファイルのことでしょうか?

諏訪:ロフトワークで島津製作所のWebサイト制作をお手伝いしたことがあります。そのときはまず、ロゴを全世界で統一しました。また、カタログ掲載の製品情報は、過不足なく、すべてデータにしました。製品画像も大切です。

渡邊:製品画像を各拠点で用意すると、色調整がうまくいかずに、色味がバラバラになることがあります。ましてやロゴは会社のシンボルですから、統一は重要ですね。正となるデータをCMSに登録し、サイズに合わせて自動変換できることもブランディングの観点から必要だと思います。

諏訪:ロゴにしても製品情報にしても、どこかで基準を定めて一定の品質で必要な素材を用意すれば、網羅的で品質が揃っていることが利便性になり、結局は皆が使うようになります。本当に特殊なプロモーションだけ、各国の拠点がローカライズする。グローバルだからといって本社が隅々まで統率するのではなく、Webサイトの運営体制として、こうした余白を残しておくことが大切です。

浅沼:同感です。オラクルの場合は、製品カタログを含めて、各拠点が共通で利用するマスターデータがあり、各国版のサイトはマスターデータを翻訳して制作するのが基本です。ただし、余白もあって、各国の事情に合わせた特殊なプロモーションをする場合は、必要に応じてキャンペーンサイトを別にオープンすることでローカライズしています。

プロジェクトの推進には、社内のコンセンサスも欠かせない

諏訪:グローバルサイトの制作では、各国の拠点や拠点をまたがっているはずの事業部のコンセンサスも重要です。「うちのマーケットは特殊なので……」と主張する拠点、事業部は必ず出てきます。グローバルサイトプロジェクトを推進する部署や我々のような外部のWeb制作会社からは「反対勢力」に見えるんですが、実は「本社の青二才の方針」に反発するのは、独自のマーケティングで、拠点や事業で誰よりも成果を出している人のはずなんです。ただ、そこに気を取られると、グローバルサイトは作りにくくなる。オラクルさんのようにトップダウンで一気にグローバル化できたのは稀有な例だと思います。

渡邊:オラクルの具体的成果は大幅なコスト削減が実現したことです。サーバー維持費や人件費といった「数字」がコンセンサスを得るのに役立ちました。現在、オラクルのWebサイトは、サーバーをすべてアメリカに集約し、全世界で主にインドで翻訳したコンテンツを使ってサイトを更新しています。翻訳作業も、一度翻訳した文章は、似たような原文が出てきたとき、同じように翻訳できるように支援する仕組みがあります。時間が経つにつれ、時期や文書によって表現や意味がぶれる心配も徐々に減り、結果として翻訳コストもだんだん下がっていきます。また、グローバルサイトの承認ワークフローは全世界で統一し、ローカルなコンテンツはキャンペーンサイトにアップ、という流れができています

グローバルサイト設計でできる、災害時の危機管理

諏訪:ローカライズの余白という意味では、3月11日に起きた地震とそれに続く災害は、グローバルサイトにおける日本からの情報発信が試されたんじゃないでしょうか。

日本オラクルの浅沼隆司氏

浅沼:今回の震災では、オラクルはサイトトップでお見舞いのメッセージを出しました。我々はさまざまな会社の製品・サービスを世界規模で扱っていますので、サポートやハードウェアのメンテナンス等にどういった影響があるのか、ないのか、オラクルとして一貫した情報をすぐに出さないといけません。ただ、緊急時には、被害状況のようなすぐに出すべきメッセージと、回復状況のような継続的に出すメッセージを別に対応しなければいけない。グローバルサイトのワークフローなど、Webサイト運営の体制があることは、すぐに出すべきメッセージを、全世界に、迅速に出すための非常に大きな利点として機能しました。

諏訪:情報が早く出ることは、今回の震災ではとても重要でしたね。ロフトワークではある官庁のWebサイトをCMSで更新できるようにリニューアルするプロジェクトを請け負ったことがあります。リニューアル前は本当にバイク便で制作会社とのやりとりをしていたと聞いていますので、もし以前の状態で災害が起こっていたら、次々に更新される放射線量などの重要なデータがすぐに出せず、日本中が困ったことになったでしょう。危機管理において、プラットフォームの有無は決定的な違いがあります。私は緊急時にCMSが非常に有用であることを再認識しましたし、CMSを入れてよかったとフィードバックもいただきました

浅沼:震災前は官公庁や企業のWebサイトにはいろいろな調査データのExcelファイルや紙媒体をスキャンしたJPEG画像が貼り付けられていて、フォーマットがバラバラでした。震災後はさまざまなデータがCSV(カンマ区切りテキスト)で出るようになりましたね。ちなみに、オラクルのUniversal Content Management(UCM)を使うと、Word、Excel形式のファイルを自動的にHTMLに変換してWebサイトに公開できます。普段の業務でWordやExcelを使うことに問題はありませんが、外部に公開するとき、仕事の仕方を変えずにコンテンツを更新できる機能は、災害時に限らず、多くの人の役に立つ可能性があると思います。


セミナーでは、日本オラクルの浅沼氏、ロフトワークの諏訪光洋氏はもちろん、日経デジタルマーケティングの杉本昭彦副編集長、ブラザー工業の田中裕子氏も登壇し、海外マーケット進出/強化のためのグローバルサイト戦略について語られる。

海外マーケット進出/強化のためのグローバルサイト戦略セミナー

日時
2011年05月17日(火)14:00〜17:00(13:30開場・受付開始)
主催
日本オラクル株式会社、株式会社ロフトワーク
会場
日本オラクル 13Fセミナールーム(外苑前)
定員
80名
参加費
無料
対象
  • 企業のマーケティング・広報担当者・マネージャー
  • 経営企画担当者

■プログラム

グローバル企業の最新Webマーケティング
日経デジタルマーケティング副編集長 杉本 昭彦氏
地域性を重視する「ローカリゼーション」戦略
株式会社ロフトワーク 代表取締役社長 諏訪 光洋氏
ECMで実現するオラクルのグローバルサイト統一手法とは
日本オラクル株式会社 Fusion Middleware事業統括本部 ビジネス推進本部シニアマネージャー浅沼 隆司氏
事例:BrotherのグローバルサイトとWebマーケティング活動
ブラザー工業株式会社営業企画部田中 裕子氏


※申込みは、ロフトワークのセミナー案内ページから。

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