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四本淑三の「ミュージック・ギークス!」 第53回

ボカロで武道館も夢じゃない? デPフェス、奇跡の大成功

2011年04月16日 12時00分更新

文● 四本淑三 写真● 前田佑規

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他の人がやっつけで失敗するのは我慢ならない

―― 実際に来てビックリしたんですが、えらく大きな会社ですね。

武井 一通り、アリーナクラスをやらせてもらっています。僕はスピーカーエンジニアとしてサカナクション、m-flo、バンプ・オブ・チキン、木村カエラ、エルレガーデンなどのアリーナライブを担当してきました。会社としては沖縄のHYなどをやっています。

―― そんな武井さんが、なんでデPなんですか? 歌詞とかひどいですけど。

武井 いやいや、表面的にはそうですが、練りこまれた歌詞だと思いますね。「私は人間じゃないから」の「排卵期が来ないから税金を払わない」というロジックには衝撃を受けました。よく聴いたら究極のラブソングじゃないですか。歌詞から受けた衝撃はボブ・ディラン以来。歌詞に恐ろしいほど密着したメロディと、高密度なリズムにもやられっぱなしですよ。それに削除事件の時の対応や、カラオケの著作権なんかについても、すでに大物感ありますよね。

PAブースの武井さん

―― 今回のライブには僕も恐れ入りました。エンターテイナーですよね、彼は。

武井 最初のミクフェスがスタジオコーストでありましたよね。僕はここでストリーミング放送を観ていたんですが、あの伝説の「デPコーナー」があった。その経緯をどこかの記事で読んだんですが、ミクも使わせてもらえない、バンドも断られたんで踊ったと。こんな才能のある人にそんな処遇なのかと。でも、それをああいう形でパフォーマンスできるのは大物だなとも思いましたけど。

※ 伝説のデPコーナーが何だったかはこちらで。「初音ミクが歌って踊る! ミクフェス '09(夏)レポート

―― ただ実際にバンドとなるとハコ側の問題で残念なことになるケースもあります。武井さんが手を挙げた理由もその辺にあると思うんですが。

武井 そうですね。デPの音楽はBPMも早いし、バラエティに富んだスタイルだし、しかも今回は歌い手さんがたくさん出てくる。PAの手間としてはかなり多いものになるはずです。デPの曲を予習する機会のないハコの人がぶっつけでやるのはかなり無理がある。でもバンド側はみんな時間をかけて練習してきているわけで、その彼らにふさわしいものを用意したい。誰かが準備不足で仕事して失敗するのは我慢ならないし、とにかく他の誰かじゃなくて俺にやらせろ、やらせてくださいと。何より、自分が今まで聴きこんできた曲をミックスできるなんて、こんな楽しいことはないですからね。


「PAしてみた」みたいな感じじゃないですか

―― ライブでPAを担当すると、そのまま演奏力が出てしまうと思うんですが、プロのエンジニアから見てデPバンドはどうでしたか?

武井 スタジオのリハを2回見たんですが、まずデPが各パートに対して突っ込む力がすごい。耳がすごくいいんですね。自分があれだけのものを弾きながら、さほど聴こえているわけでもないギターの音を「そこのコードちょっと違う」とか、ドラムのすごく速いテンポの音の入り方とか、こいつ耳ホントにいいなと思いました。だから曲が終わると的確にツッコミを入れるんですね。メンバーの皆もそれに応えようとするし。バンドとデPの間の絆というのを、そこで感じましたね。

―― なんだか「のだめカンタービレ」の世界みたいじゃないですか。

武井 ははは。ちょっと美化しちゃったかな。かと思うと、デPは自分で作った曲なのにコードを忘れていて、[TEST]さん(関連記事)に「そこはこうだろう」とツッコミ返されたり。

[TEST]さん(筆者撮影)

―― ああ、[TEST]さんとデPはいいコンビかも知れないなあ。

武井 それに皆、あれだけの難曲を、あの密度で、あの曲数をこなして、すごい頑張っていたと思う。僕も彼らの力を引き出すような仕事をしたいと思っていました。ただ、僕のPAも含めてもう少しできること、「やり残しシロ」は残っていたと思います。細かいところでミスをしているし、もう一回りタイトに演れる実力を持った人たちだと思います。

―― それはどの辺ですか?

武井 彼らも個々の音が問われるようなシビアなライブは、まだやっていないと思うんですよ。今回はそこまで関与しきれなかったのが残念だった。あの太鼓(ドラム)は小屋の太鼓なんです。スネアやシンバルはショボンさんが持ってきたけど、キックやタムはチューニングも詰め切れていない。アンプもハコのものなので、普段お家でやっているのとは違う。そこでもう少し、アドバイスが出せればよかったなと思ってる。

―― 確かに家では完璧に演奏できても、ライブハウスでは全然環境が違いますよね。ライブの場数を踏んでいないメンバーにはちょっと厳しい。

武井 そういうアウェー感を感じないよう気を付けました。歌い手さんにとってモニター環境が厳しいことが予想されたので、イヤーモニターとワイアレスマイクを人数分持ち込みましたし。

イヤモニの受信機はゼンハイザーの「EK3253」 、イヤホンはシュアーの「SE315」(武井さん撮影。イヤーパッドを衛生上使い捨てらしい)

ワイヤレスマイクは シュアーの「UR2」(武井さん撮影)

―― あれはびっくりしました。キャパ300くらいのハコでは見たことがないですね。

武井 だってデP「フェス」ですから。サマソニなんかと同じグレードでやりたいわけです。スタッフも外部のオペレーターも含めて全部で4人で行きました。バジェット的には合わないものだと思うんですけど、でもあれがミニマムだと思っているんです。デPフェスの演出内容を具体化するための戦力としては。

―― しかし、普通そこまでやれないと思うんですけど。

武井 今回はある意味、同人活動みたいなものですよ。「PAしてみた」みたいな感じ。やっぱりリスペクトなんですよ。彼らは若いけど僕にとってはアイドルだし、彼らの音楽を少しでも良く伝えたい。そういう気持ちでやりました。

(次ページに続く)

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