サイトは「手を離れた自分の子供」
―― では、そうした状況で、今後の目標を教えてください。
富沢 サイトを「タイムマシン」にすることですね。
私の記憶を頼りにまとめた情報でも、それをきっかけに自分の記憶を呼び覚ます人もいると思うんです。「あのビルの隣には赤い屋根の店があった」とか、当時のことをはっきり思い出すきっかけを作りたい。
きっちり作っていけば、色んな人の記憶を過去に運んでいけるタイムマシンになると思うんです。感覚としてはまだ1割くらいしかできていなくて、足りない部分や真っ白な部分ばかりです。それを2割、3割と増やしていきたいですね。
―― 十割になるのはけっこう先になりそうですね。
富沢 完成しないんじゃないですかねえ(笑)。完成したら終わっちゃう気がしますし。それに、いただいた要望や情報から膨らました部分もあるので、自分の手を離れた子供を育てているような感覚もあるんです。
私と妻の間には子供がいないんですけど、自分が死ぬとき、自分の遺伝子が次世代の社会で何かをしてくれるかな、という淡い期待を持てるだろうと思うんです。
その意味、このサイトは、身近ながら自分とは別の存在という感じがしているんです。自分の手から離れていっても、情報を注いでくれた皆さんの遺伝子も受け継いで育ってくれればいい。そこには期待と安らぎさえ感じることがあります。
―― すると、富沢さん自身の記憶から離れたものもたくさん入っていくような?
富沢 いまはサイトに「漂流瓶」を流しているような状態です。いつか自分の記憶のおぼえのある人が返事をくれるかもしれないという期待をこめ、自分のエピソードや小中学校の具体的な名前を書いたりして。
ある教師の方が、生徒に歌わせる「みんなのうた」を探していて、たまたま私のサイトにたどり着いたことがあったんです。そこで私のプロフィールを見たら、どうも同級生らしい。実はその人は、友人の隣の席にいた女の子だった。私と入れ替わりで転校してきたので面識はないんですが、そうやって出会えたんです。
彼女から、私が転校したあとに新調された校舎の写真も見せてもらったんです。私はもう別の土地にいたから見ていない校舎です。過去の自分が見られなかった「未来」を、いま見せてもらっているのが、すごく面白いんですよね。
―― サイトスタートの2006年から現在を見てもネットは順調に普及していますし、今後漂流瓶を拾われる可能性はちょっとずつ上がっていきそうですね。
富沢 何年後でもいいから、ずっと期待していたいですね。こういうネットの利用法は、やはりホームページが最適なんですよね。ブログやツイッターだと、過去に作った情報がすぐに見えにくくなってしまう。「蓄積し、膨らませる」という点ではホームページに勝てません。なので、これからもHTML形式で続けていきたいと思っています。
筆者紹介──古田雄介
元建設現場監督&元葬儀業者&現古銭マニア&毎週仕事で秋葉原と都内量販店に足繁く通う毎日を送る現デジタルライター。「古田雄介のブログ」ではみなさんのお勧めサイトを募集中です。ツイッターIDは@yskfuruta。
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