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評論家が語る最新3Dテレビの魅力(後編)

発色&精細さが違う! AQUOS Z5で日本のアニメを見よう

2011年03月28日 11時00分更新

文● 広田稔 撮影●篠原孝志(パシャ)

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日本ならではの3D表現が生まれてきている

── 立体視が世界観への没入をうながすということなら、日本のアニメでも立体視が進んでいく可能性はあるということでしょうか。

「細田さんは日本でも3Dの演出に長けたクリエイター」

氷川 立体映画自体は古くからありますからね。

 大昔の話ですが、1970年前後に東映が『まんがまつり』の一環で『飛び出す 人造人間キカイダー』『飛び出す立体映画イナズマン』といった作品を赤青メガネの「アナグリフ」という方式で上映していました。これは実写ですが、ほかにも1987年にはサンライズがVHD専用の立体アニメで『DEAD-HEAT』(デッドヒート)という作品を作っていたりで、試行錯誤の歴史はずっと以前からありました。

 実は、アバターショック以前から、(立体視を)各社が模索しています。例えば東映は2009年10月に『とびだす!3D東映アニメ祭り』を公開しています。『きかんしゃ やえもん』『ゲゲゲの鬼太郎』、それに『デジモンアドベンチャー』が2本という4本立てでしたね。

 このうち、ゲゲゲの鬼太郎とデジモン1本は『サマーウォーズ』の細田守監督が演出しています。細田さんが東映アニメーションに所属していたとき、演出家としてはデジタル化の一期生にあたるんですが、1990年代末~2000年代初頭にはモーションライド(映像に合わせてイスなどを動かす装置)で3D演出を手掛けていた時期があるんです。

 これらは3DCGですが、その流れとは別に、日本のアニメならではの3D演出も生まれつつあります。昨年のある展示会では、予想以上に3D作品が展示されていて、目を引きました。


── その中で印象に残ったものはなんでしょうか?

本体の薄さも重要なチャームポイント。10年前の43V型プラズマテレビの設置スペースに、AQUOS Z5シリーズだと52V型を置けてしまう!

氷川 2Dでいったん制作されたアニメを3D立体視に変換するという展示(パナソニックとキュー・テックの共同開発)が実に興味深かったんです。

 バンダイビジュアルのブースで見た大友克洋の『ヒピラくん』という作品は、絵本的な質感をもつCGアニメですが、アメリカの作品とも日本の2Dアニメとも違う独特の表現に仕上がっていました。ヒピラくんが物語中で2Dとされている絵本の中に入ってしまうというエピソードなんです。絵本から、ぺちゃんこに潰れたヒピラくんが飛び出してくる。 その平たい感じが立体視に変換されたことで、より強調されていたのです。

 日本のアニメはさまざまな技法を使って、平面なのに奥行きがある空間に錯覚させるところに持ち味がありました。その素材に何の加工もせずに遠近の距離データだけつけて3D化すると「ついたての前についたてがある」といった感じで、仕掛けがバレてしまう。だからあまり3Dに向いていないのでは、と思っていました。

 そんな中で、ヒピラくんが見せた2Dと3Dが何重にも入れ子になった使い方は、独特の世界観を見せることにつながってますから、日本のアニメにおける3D演出にも可能性があるんだと感じましたね。

 GONZOブースでも、3D立体視のデモが行なわれていました。題材は、「板野サーカス」で有名な板野一郎さんが監督をされた『ブラスレイター』という作品で、多数のミサイルが飛んだり、バイクで町中を走るシーンを3D化しているのですが、これもアメリカの3Dとは違った方向性の演出だと感じました。

 ブラスレイターの3D化にあたっては、位置情報を与える際に監督が立ち会い、ミサイル1つ1つに指示を出して演出をつけたそうです。ミサイルが10本飛んでいたら、10本分の奥行き感を構築したわけです。2D映像用の素材から起こしたものと、デモ用に3Dで作られたものとが混在していたそうですが、2Dとはまた違う不思議な奥行きが感じられ、その感覚が動きとシンクロして刻々と変化することで脳内に新たな刺激を覚えました。

 元々平面でも奥行きが感じられるように描いていた日本のアニメですから、やり方次第で独特の立体空間の味が表現可能なんだなと。


3D版『攻殻機動隊』のパッケージ化が楽しみ!

── 2D/3D変換ではなく、3Dの演出ありきで作られた商業作品はありますか?

祝福のカンパネラ

氷川 ここ数年の流れで一番最初に商品化されたのは、2010年9月発売の『祝福のカンパネラ』のパッケージ版に収められた特典映像だと思います。

 さすがに本編すべてを3D立体視にするには手間と価格が跳ね上がるのでまだまだ難しいようです。「3D化にコストを投じるなら、その予算で新作をもう一本作ったほうがいいのでは」と言われるぐらい高価ですし、再生装置の普及もまだまだです。このあたりは、前回折原さんがおっしゃっていたように、3D化作業がコストダウンすることで徐々に状況も変わるでしょう。

 3Dの演出は、まだ手探りの状態です。最近いいなと思ったのは、正月に上映されてヒットした劇場版『イナズマイレブン』。昔からよくある、テレビの総集編に新作を足した構成ですが、そのテレビの部分も素材流用にしてはきちんと3D立体視になっていました。サッカーなので、フィールドを遠近ハッキリ付けて表現しやすいし、ストーリーのやんちゃな感じと、必殺技のインパクトが3Dのハッタリ感とマッチしているのかなと思いましたね。


── すでにパッケージ化されている国内アニメ作品はありますか?

氷川 声優ライブでは3Dカメラで撮ったものが販売されていますが、国内のアニメはまだありません。ただ、この3月末に劇場公開される『攻殻機動隊 S.A.C. SOLID STATE SOCIETY 3D』は、パッケージ化を楽しみにしている作品です。『東のエデン』で注目された神山健治監督が、押井監督とは異なるアプローチで作った『攻殻 S.A.C.』の3作目にあたる長編を3D立体視にした映画です。

 石井朋彦プロデューサーが試写室で語った話では、先ほど触れたアバターショックで日本のアニメ関係者が軒並みうちひしがれる中で、神山監督だけが「まだ負けてない、やれることがある」と意気込んでいたそうです。「それならまず攻殻機動隊からでしょう!」と、ある種の勝算を持って挑んだ作品なんです。

 作中では、自分の身体をサイボーグ化したキャラクターが登場し、ほかの人間から指示を受けると、視界の前に情報が表示されるというシーンがあります。それを一人称視点で描く場合、3D立体視を使って、「本当にサイボーグになったらどう見えるのか?」ということを追体験できるように作られています。

 作中では、自分の身体をサイボーグ化したキャラクターが登場し、公安9課のメンバー同士が電脳で会話するとき、視界の中にウインドウでデータが表示される主観的なカットが多々あります。3D立体視にした結果、「自分が本当にサイボーグになったら、一人称視点はどう見えるのか?」ということが、疑似体験できるように作られているわけです。特にオープニングの電脳世界は完全新作で、本当にすごい視覚体験が待っています。



 2006年に作られた2D版とストーリーは同じなので、「次にどうなるか」が分かっているはずなんですが、3D演出に合わせた音響の相乗効果で緊張感の盛り上がりがすごいなと思いました。「日本独自の3D効果は開拓されていないだけで、可能性はある」と実感しました。しかもこれはあくまで予行演習で、得られた手応えをふまえた神山監督の次回作がおそらく本番でしょう。こうした作品が続々とパッケージ化されるのであれば、やはり3D対応テレビを用意しなければと思わせるほどでした。

── なるほど。お話を聞いていると、日本のアニメ業界が仕掛ける3D作品がこれから面白いことになりそうですね。

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