キーの快適さは「ボディ構造」の賜物
筆者がSBシリーズを触ってなによりも感じたのは、驚くほどの「快適さ」だ。キーボードが恐ろしく打ちやすく、ボディーのバランスもいい。持ってみればそれなりの重さは感じるが、卓上や膝の上で操作している時は、とにかく気持ちいい。誤解を恐れずに言えば、これまでに本連載で扱った製品の中でも、トップクラスの「気持ちよさ」である。
太田「キーを初めとする『操作性』は、商品企画を考える上の優先度では上位にありました。Sシリーズは、より多くのお客様に安心して使っていただきたいという狙いがありますので、操作性に違いが出てきます。キーへのこだわりも、Zシリーズと多少は違ってきました」
では、どのように操作性を向上させたのだろうか?
北野「構成としては、薄くなった分シンプルにならざるをえないのですが、0.8mm厚のアルミパネルをパームレストに使い、剛性感をしっかりさせようと考えました」
「今回、もうひとつデザイン上のポイントとして、『ヒンジを見えなくする』という点があります。ヒンジを見えない外側に置くことで、ディスプレーをよりキーボード側に寄せることができるようになり、手を置くスペースを広めに取ることができました」
宮入「アルミニウムでしっかりした『台』を作ったので、かなり使いやすく感じるはずです。ディスプレーが近づいたことで、キーを探すための視線移動の距離がずいぶん変わっています。キー1列分くらいディスプレーを寄せたので、視線の移動は小さくなったはずです。ゆったりと仕事に集中できるのではないかと思います」
写真をよく見ていただくと分かるのだが、キーボード部は単に平たい板なのではなく、若干段差をつけて、絞り込んだ「底」にあるような構造になっている。パームレスト部とキーボード部の若干の高さの違いが、操作性の良さにつながっている。宮入氏の言う「台」とはこの構造を指す。
北野「今日は試作の板をお持ちしました。金型を左右で半分ずつ堀り方を変えて、感触をチェックしたんです。エッジの見え方やスロープも違います」
宮入「ちょっとしたことですけど、カーソルキーが一段下がっていると、タイプミスが減りますよね。これからのVAIOでは、できるだけカーソルキーを『一段下げた配列』を使っていこうという考えで作りました。しかしその結果、パームレストからキーボード部にかけてのカーブの途中にカーソルキーがある、という大変な構成になって、デザイナーさんには無理を言ってしまいました(笑)。でもここは使用感優先で実現しました」
北野「本体後部には、メイン基板や光学ドライブが収納されます。ここにはバッテリーを置かないようにしました。やはり、バッテリーが熱せられると寿命が短くなりますので、その配慮です。排気は後ろに出て行きますので、膝の上で使っても熱を感じにくいはずです」
「この構造により、バッテリーを入れるために『内部に部屋を2つ用意する』ような形になり、二重にリブが入ることになりました。おかげで剛性感も相当に高くなっています。ひねりにも強くなりました」
★
SBシリーズは、「ものすごく特別なパーツ」を使っている製品ではない。だが、非常に細かな配慮を積み重ねて作られたことがわかる、とてもいい製品に仕上がっている。重さは確かに気になるが、「1台ですべてを済ます」主義の人には強くお勧めできる完成度の高さが魅力だ。
Zシリーズの影に隠れた優等生がようやく花開いた、というと言い過ぎだろうか。
筆者紹介─西田 宗千佳
1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、PCfan、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)、「クラウド・コンピューティング仕事術」「iPhone仕事術!」(朝日新聞出版)、「iPad vs.キンドル」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う? 世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ! クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(共著、徳間書店)。「電子書籍革命の真実 未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)。
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