このページの本文へ

日本の企業を変える!最新SaaS導入事例 第1回

本当のメリットは「初期コストの低さ」と「モバイル対応」

SaaS導入にメリットを感じる企業は増えている

2011年02月28日 08時55分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

アプリケーションをネットワーク経由で利用する「SaaS(Software as a Service)」の導入がゆるやかに進んでいる。ここでは事例取材の内容を踏まえ、SaaSのメリットとデメリットを改めて検証してみたい。

ゆるやかに浸透するASP・SaaS

 現在のSaaSの原型となるASP(Application Service Provider)という概念が登場したのは、いまから10年も前にさかのぼる。クライアント/サーバー型アプリケーションが次々とWebアプリケーション化したことで、インターネット経由でのアプリケーション利用が現実味を帯びるようになったためだ。当時は、ドットコムブームの新しいビジネスモデルに注目が集まっていた頃で、ハードウェアやソフトウェアを所有せず、利用したいアプリケーションを月額課金で使えるというコンセプトに、多くの人は次のITの姿をかいま見た。

 しかし、ASPがブレイクすることはなかった。低速なインターネット、使い勝手の悪いアプリケーション、カスタマイズ性の欠如などさまざまな課題があり、一時期はASP専業ベンダーの撤退も相次いだ。

 だが、その後ネットワークがブロードバンド化し、PCの処理能力も高速化。Webブラウザ上での操作性を向上させるAjaxやリッチクライアントの技術も大きく進化した。また、セールスフォースがカスタマイズやアプリケーション間や基幹システムとの連携が可能なSaaS(Software as a Service)という概念をASPの進化形として打ち立てる。この結果、今ではクラウドの一部として認知され、ホスティングやクラウドプロバイダーのメニューの中に取りこまれるようになった。

ASPとSaaSの相違点

 こうした技術の進化や取り組みもあり、ASP・SaaSはゆるやかに企業に受け入れられてきたのが実態といえよう。特定非営利活動法人ASP・SaaSインダストリ・コンソーシアム(ASPIC)の「ASP・SaaS白書2009/2010」によると、国内でのASP・SaaSの普及率は17.5%となっているが、これは20%を掲げる総務省の2010年「通信利用動向調査」、13.6%を掲げるスプリングボードリサーチ(「Japan SaaS Market Forecast and Update, 2009-2014」)など、おおむね5~6社に1社が利用しているという実態は一致している。

ASP・SaaSの利用状況(総務省2010年「通信利用動向調査」より抜粋)

ITに手の届かなかったユーザーにSaaSが有効

 そしてもう1つ各種の調査やレポートで共通しているのが、会社の規模が大きくなると、導入率が上がるという傾向だ。前述したASP・SaaS白書2009/2010においては、5人以下の規模を除いた場合、導入率は約30%に上がる。つまり、SMB(Small Business Business)の導入率の低さが全体の足を引っ張っており、SMB・中小企業においてSaaSは未開拓という市場になるわけだ。

 導入率の低さにはいくつかの理由がある。まずセキュリティに関しては、業務データを外部の業者に委託できるかという不安が大きい。これはクラウドを含めたアウトソーシング全般に関わる問題で、「漏えいや紛失を防ぐため、どこまでやれば安心か」を考えると、なかなか回答が出しにくい。特に情報システムを持たないSMB・中小企業の場合、安全かどうかを検証するノウハウや余裕が不足しているため、漠然とした不安が導入を妨げている。お金を自宅に置いておくか、銀行に預けるかという議論に近い問題だが、自社運用の方が安心かというと必ずしもそうでない点に注意したい。ベンダー側がどのようにセキュリティを確保しているか、保証はどうなっているか、などを明確に説明できる体制が重要になっている。

 また、コストメリットも課題である。確かに昨今サーバーやアプリケーションの低価格化は著しく、手間のかからないアプライアンスも増えている。しかし、自社でデータ保護やバージョン管理を行なえば、どうしてもコストはかかってくる。前述した総務省の通信利用動向調査においても、最新の調査では78.5%が導入効果を感じており、課題に対して適切にSaaSを運用すれば、投資に対する効果は得られる。

 一方で、SMBや中小企業にとってのSaaSのメリットとはなんだろうか? 多くのベンダーは、SaaSのメリットを「所有しないことによる運用・管理コストの削減」や「ビジネス環境にいち早く適用する俊敏性」を謳うが、ここでは「初期コストの安さ」を挙げたい。今回取材した事例のうち、いくつかはSaaSがなければ、アプリケーションの導入はなかったという例だ。つまり、サーバーやアプリケーションを購入するための費用が計上されていたら、導入の検討すらされなかったわけである。SaaSの場合、オンプレミスに比べ、ハードウェアやソフトウェアが不要であるため、導入のハードルが低くなる。

iPhone等に対応するグループウェアは増えている(ネオジャパンの例)

 もう1つ、SaaSの導入を促進する要因があるとすれば、やはりモバイルへの対応だろう。自社で導入する場合、どうしても外出先からのリモートアクセスという手段が必要になるが、仕組みの構築にはコストがかかってしまう。インターネットを利用するSaaSは、モバイルデバイスとの親和性が高く、外出先からでも手軽に利用できる。もちろん、外出先でのセキュリティには留意が必要だが、低コストなモバイルインターネット接続が普及する昨今、モバイル環境での利用は想像以上の効果が得られる。携帯電話はもちろん、スマートフォンやタブレットを想定したサービスも多く、以前と違って使い勝手も大幅に向上している。

 以下、規模の異なる4社のSaaSユーザー事例を紹介する。2011年のIT導入の一助となれば幸いだ。

カテゴリートップへ

この連載の記事