2月17日、EMCは先月発表されたばかりのSymmetrix VMAXの新版で実装された新機能に関する詳細を説明する勉強会を開催した。目玉機能であるFAST VPのほか、無停止でのマイグレーションを実現するFLMの詳細が明らかになった。
もっと細かい粒度で!目玉機能のFAST VP
Symmetrix VMAXで稼働する最新版ソフトウェアである“EMC Enginuity 5875 for Symmetrix VMAX”の新機能について、EMCジャパン テクニカル・コンサルティング本部 プロダクト・ソリューションズ統括部 マネジャーの笹沼 伸行氏が説明を行なった。
同氏はまず、新機能のうち「効率性の向上」に関わる機能として「FAST VP(Virtual Pool)」「Virtual LUN VP(仮想LUN V3)」「Symmetrix Performance Analyzerのエンハンス」「EMC Tier Advisor」「Enginuity Performance Enhancements」の5点を取り上げ、順次説明を行なった。中でも、今回のバージョンアップの目玉ともなっているのが、自動階層化機能であるFAST VPだろう。
Symmetrix VMAXでは、筐体内にEFD(Enterprise Flash Drive、いわゆるSSD)、FC HDD、SATA HDDを混在搭載し、階層ストレージとして運用できる。FAST VPは、この階層間でデータを自動的に移動し、アクセスパフォーマンスと容量/コスト効率を最適化する技術だ。従来の実装では、データ移動は単一の固定サイズのブロックで行なわれていたが、FAST VPでは8MB単位でデータ分析を行ない、実際の移動は最小768KB~最大360MBという可変長で行なうことができるという。なお、768KBというのは、Symmetrix VMAXにおけるデータアクセスの最小単位だ。
特定のデータに対してアクセスが集中するような場合には、このデータをEFDなどの高速な階層に移動するのが有効だが、データブロックのサイズが大きいと、高速なデバイスの容量を無駄に消費してしまうことになる。FAST VPでの最小768KBというサイズは業界でも最小だといい、高速なドライブの容量の消費を必要最小限にとどめることができる。
逆に、あまりアクセスされないデータを低速だが安価で大容量の階層に移動するような場合は、最大360MBの大サイズで移動が可能だ。この場合、一回の処理で大量のデータをまとめて移動できることが高効率につながる。状況に応じてデータの移動単位を可変できるという点がFAST VPの高効率性を支えるポイントとなる。
また、Virtual LUN VPでは、FAST VPが自動的に行なっている階層間のデータ移動を手動で行なうことが可能だ。FAST VPのような自動階層化機能では、実際のデータアクセス状況を分析することで適切な階層を決定する。いわば、過去のアクセスパターンが今後も継続するという前提を置くことになる。一方で、ある特定の時期にアクセスが集中するデータもあり得る。こうしたデータも、アクセスが集中し始めた段階で高速な階層に移動され、アクセス頻度が下がれば低速な階層に自動的に移動されることは間違いないのだが、将来のアクセスパターンの変動が予測できている場合は、予測に基づいてあらかじめ適切な階層に移動することで最良の結果を得ることができるわけだ。
こうした新機能はいずれもシンプロビジョニング機能をベースとして成立しているものだという。ボリュームとして確保するサイズを実容量以上のサイズにできる、という単純な理解をしてしまいがちなシンプロビジョニングだが、実際にはストレージの内部で物理的な記録領域と論理的なボリュームを分離し、仮想化する機能であり、一度仮想化されてしまえばその後さまざまな活用法が拡がる点も他の仮想化技術と共通するところだ。個々の新機能についてのみならず、機能間の関連について聞くことができた点も今回の説明会の収穫だったといえそうだ。
実装がなかなかトリッキーなFLMの詳細
続いて、同社のテクニカル・コンサルティング本部 プロダクト・ソリューションズ統括部 シニア・テクノロジー・コンサルタントの田中 宏幸氏が、Federated Live Migration(FLM)機能を実機によるデモンストレーションを交えて紹介した。
FLM機能は、アプリケーションを停止することなく、旧モデル(現在はSymmetrix DMXのみサポート)に記録されているデータを新モデル(Symmetrix VMAX)に移動する機能だ。ハードウェアには寿命があり、永久に使い続けるわけにはいかず、どこかのタイミングで新しいものに入れ替えざるを得ない。しかし、データの整合性を維持しながら新しいハードウェアにデータを移動し、かつサービスは止めない、というのはかなり実現が難しい要求であり、現実にはある程度のサービス停止時間が発生してしまうことが多い。FLMでは、対応可能なモデルが限定されるものの、サーバー側にはまったくインパクトを与えず、無停止でのデータ移行が実現できる。
手法としては、ストレージ側だけでできる工夫としてややトリッキーにも思えるやり方で実現している。移行元となるDMXのボリュームに付加されているデバイス情報を、VMAXに新たに作成したボリュームにコピーしてしまう、つまり、サーバーから見た場合には以前のボリュームとまったく同一のボリュームに見える状態を作る、というやり方だ。この場合、サーバー側からはデータの格納場所であるハードウェアが交換されたことが検知できないため、設定変更等の作業は一切不要であり、設定変更のためのサービス停止等も起こらないわけだ。
一瞬たりとも停止できないきわめて重要なサービスの場合には、ハードウェアの交換をこうした手法で実現できることにはメリットがあるのだろうと思われるが、一方で、デバイス情報を完全にコピーしてしまうことで、外部からはこのボリュームはVMAXではなく従来通りDMX上にあるものと見えてしまうなど、運用管理上は別種の複雑性も生じるリスクもある。こうした機能を必要とし、かつ有効に活用できるようなユーザーはごく限定されているものと思われるが、そうしたユーザーに向けた機能も確実に実装してくるあたりは、エンタープライズ向けのストレージベンダーならではの強みといえるのかもしれない。