「多過ぎる」書店に未来はあるか?
読者に最も近い存在である(リアルの)書店が電子書籍とどう向き合うのかも気になるところだ。
前述のBOOK☆WALKERは、書籍にオンラインで入手できる特典のコードを付けることを想定したり、NTTドコモらがスタートさせた「2Dfacto(トゥ・ディファクト)」では書店とのポイントシステムや購入履歴の共有化を図るなど、国内発の電子書籍プラットフォームは書店との連携を謳う事例が出始めている(関連記事)。
ここ数年、出版不況と言われながらも、大型ショッピングモールの増加などに伴い、実は書店の床面積は増加し続けていた。つまり、出版社にとってはそこに並べられる本の種類・数が増えるという効果があった。
ところが上記グラフにあるように、昨年この傾向が一気に逆転した。以前取材した出版業界の専門紙「文化通信」の星野渉編集長は、このグラフを指して、「本当の意味での出版不況は“これから”やってくる」と語った(関連記事)。
これまで書店は、出版社をある意味支えてきた存在だったが、現状の1万4000店という数字は、人口比率からすれば欧米の数倍だ。今後は「駅前の最後の1店になれるか」が勝負だと星野氏は語っている。しかしながら、現状では書籍販売において引き続き無視できない存在であることは間違いない。
本にも著作隣接権を求める動き
2010年12月27日には、文科省で「電子書籍の流通と円滑化に関する検討会議」が開かれ、出版社側からは、現在書籍には認められていない「著作隣接権」を主張する意見が多く出された。隣接権とは、“直接著作物を生み出していないが、その伝達に重要な役割を果たす”実演家やレコード製作者、放送事業者、有線放送事業者に認められた権利だ。
音楽の世界では、レコード会社は「原盤権」を有している。レコードの制作(スタジオや音響の確保、マスタリングなど)にかかる費用を根拠に、公衆送信(いわゆるインターネット配信)を始めとして原盤音源の二次利用を行なえる権利だ。
ときたまアーティストの意向に反したベスト盤が世に出て物議を醸すが、これはレコード会社が「原盤権」を有していることから起こる現象だ。とはいえ、レコード会社にとっては重要な収益確保の手段とも言えよう。
著者が望まない形での出版が行なわれる可能性
一方、本の世界では、出版社には「出版権」が認められているが、これは著作者との定めがなければ3年で消滅する(著作権法83条の2)。原盤権が公表の翌年から50年という期限であるのに対して、非常に短期間だ。先の会議での出版社サイドの主張はこの点を何とかしたいという思いが現われている。
現状の法体系下では、紙の本と電子書籍の権利は切り離されており、書き手の側からすれば、直販の仕組みも活用しながら(売れる仕掛けを自ら作り出せるかどうかはともかくとして)さまざまなチャレンジが行なえるところに魅力がある。
しかし、仮に隣接権が設定されるとそういった取り組みにも制約が生じる可能性があるため、(著者の側からは)反対意見も多い。また音楽と同様、著者の望まない形で、自著の出版が行なわれてしまうこともあり得る。
逆に出版社からすれば、一度出版すれば、その作品について長くビジネスを行なう権利が生まれ、先に挙げたレコード会社のような権利の再利用による活路が拓けてくる。両者には利害相反があると言えるだろう。
本当の「出版不況」はこれからやってくるという。そして電子化の流れはもはや止めることはできない。著者が直接「出版」を行なえるインフラが整備されるなか、2011年は価格設定も含めて出版社・編集者のスキルや存在意義が問われる年になることは間違いなさそうだ。
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