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2011年、クラウドパートナーをいかに選ぶか? 第4回

通信とサービスを一体化して提供する重要性

クラウド時代のネットワークとシステム構築の姿とは?

2011年02月07日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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1月12日、主要IT関連5媒体の編集長が一堂に介し、「クラウド討論会2011」が開催された。討論会のテーマである「ネットワーク」や「システム構築(SI)」については、クラウドを安心して利用するにあたって、きわめて重要な要素であるという点が共通認識として浮き上がった(以下、敬称略)。

【メディア横断企画】クラウド討論会2011

パネリスト
浅井 英二 アイティメディア ITインダストリー編集統括部長
別井 貴志 朝日インタラクティブ CNET Japan編集長
大谷 イビサ アスキー・メディアワークス TECH.ASCII.jp 編集長
田口 潤 インプレスビジネスメディア ITLeaders 編集長
星野 友彦 日経BP コンピュータ・ネットワーク局
ネット事業プロデューサー 兼 日経コンピュータ編集プロデューサー
モデレーター
舘野 真人 アイ・ティ・アール シニア・アナリスト


クラウドのなかで「ネットワーク」は軽視されている

アイ・ティ・アール チーフ・アナリスト 舘野真人

 クラウド討論会2011では、「いまユーザー企業が求めるクラウド環境とは」を大きなテーマに、導入の課題、サポート・運用体制、レガシーとの連携やプライベートクラウド、ビジネスモデル、ネットワーク、グローバル対応などについて、さまざまな意見が交換された。本稿ではおもに「ネットワーク」や「システム構築」といった分野での討論内容を掲出する。

ITR 舘野:クラウドの事業者を選定するにあたって、どこを重要するのかアンケートをとると、インフラやネットワークに強みを持つ事業者を重視する事業者に対する期待が高いようです。一方で、ネットワーク事業者の選定において重視する要素について聞いてみると、コストや料金というニーズも高いのですが、クラウドサービスの充実ぶりを挙げる方も多くなっています。このあたりの変化について、大谷さんはどうお考えになっていますか?

ネットワーク事業者選定における重視ポイント

TECH.ASCII.jp 大谷:以前、レンタルサーバーやホスティングって回線のオマケだったんですよね。しかし、クラウドやIaaSという分野で考えると最近は逆で、仮想サーバーのスペックのほうがむしろメインになっています。クラウドのなかでは比較的軽視されている要素だと思います。

ですけど、クラウドの時代ではサーバーやアプリケーション、ITリソースは、ネットワークを介して利用するわけですし、アプリケーションの操作性などを考えれば、ネットワークは重要な要素です。その点、ネットワークも含め、プラットフォームやアプリケーションまでトータルコーディネートしてくれる事業者が、今後は選定されていくようになると思います。

ITR舘野:現状では、ビジネス戦略の立案でネットワークが重視されていることは少ないです。今後はユーザー自身でもシステム開発だけでなく、ネットワークに関する設計や構築のノウハウが必要になってくると思うのですけれど。

アスキー・メディアワークス TECH.ASCII.jp編集長 大谷イビサ

TECH.ASCII.jp 大谷:そうですね。専用線やフレームリレーの時代は、細い回線をいかに効率的に活用するかというノウハウがありました。アプリケーション側で無駄なパケットをださないよう工夫したり、システムの要件にあわせて回線を使い分けるといった手法です。ですが、2000年以降のブロードバンドの普及で、帯域があればすべてが解決するという考え方がメインになり、ノウハウが失われてきた経緯があるんです。しかしクラウドの時代では、アプリケーションがどう動くかをきちんと意識する必要があります。

ITR舘野:ユーザー側も、ネットワークについて理解する必要があると……。

TECH.ASCII.jp 大谷:一方で、クラウド時代になると利用者はネットワークを意識しなくてよくなるという考えもあります。IPv6がメインになれば、もはや人間はIPアドレスを直接扱うことができなくなります。ですから、ネットワーク周りはあくまで通信事業者のみが考えればよくなるはずです。果たしてどちらに進むか? 私の考えも正直、揺れています。

通信とサービスを一体化して提供できる
事業者が生き残る

ITR 舘野:では、企業の情報化を陰で支えてきた国内のSIerは、こうした流れについていけるのでしょうか? 退場を迫られる企業がかなりの割合に上るのではないでしょうか?

ITLeaders 田口:リーマンショックから立ち直ったことで、米国のSIerは軒並み高収益を上げていますが、日本のSIerはよくて現状維持、悪くて微減という状態です。しかし、先ほどの大谷さんのお話ででてきた通信事業者に関しては、動画のトラフィックも増加していますし、技術がつねに現状を上回っているわけではない。クラウドの波にうまく乗れる可能性がありますよね。

しかし、クラウドへの移行には壁があります。ご存じのとおり、日本は世界になだたるメインフレーム大国です。極端な話、5世代くらいのシステムが同居しています。これをどうするのかは大きな課題です。まして、グローバル化にも対応していかなければなりません。つまり、SIerの仕事は今後もなくならないわけです。ただし、仕事の中身が指示待ち型ではダメです。

ITR 舘野:ユーザーのオーダーを待っているようなビジネスでは、厳しいわけですね。

ITLeaders 田口:うちはネットワークに強い、うちはセキュリティに強いみたいな特徴があるところはいいですが、指示待ち型のSIの料金は、中国やインドなどのいわば「国際価格」に落ちていきます。もちろん、2000年問題が終わっても、SIの仕事がなくなったわけではなかったので、あまり悲観はしていません。しかし、いまのビジネスに安住するのはよくないと思います。

日経BP 星野:クラウド時代にSIerが生き残れるかを、私はマクロの観点で見ていきたいと思います。現在のSIやシステム開発の市場ではビッグ5(NTTデータ、NEC、日本IBM、日立製作所、富士通)を除くと、年間3000億円売り上げ、10%の営業利益を確保可能な会社でないと、研究開発がデパート型にできず、生き残っていけません。兜町で流行った「3000億円クラブ」の話ですね。たとえば、グーグルでは100万台のサーバーを持っていて、5年で20万台ずつ増やしています。しめて、クラウドに200億円規模の投資を行なっている計算です。こうして効率化したシステムにより、既存の情報システムの事業を巻き取っているので、ほかのSIerはクラウドを使って新産業を創出していかないと、どんどん厳しくなります。あとは田口さんが話したように、ユーザーに対して新しいICTを提案していくようなスタイルが必要です。

こうした場面では、もはやSIerも通信もあまり違いがないだろうと思います。ここはSI、ここは通信といった区別ではなく、ユーザーのICTが中心にあって、通信とサービスが一体化して提供できるところがビックプレーヤーとして生き残っていくんだろうなと考えています。

 このように、通信とシステムが「サービス」として融合するクラウドの時代においては、やはり足腰となるインフラに強みを持つ事業者にアドバンテージがありそうだ。そして、SIerや通信事業者といった垣根が取り払われていくとともに、ユーザーに対してつねに新しいICTの活用法を提案していく事業者が生き残っていくという示唆も説得力がある。

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