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新書『生き残るメディア 死ぬメディア』発売記念セミナーレポート

アニメにおける、無料=フリーミアムをもう一度考えてみる

2011年01月15日 12時00分更新

文● ASCII.jp編集部

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DVD販売は予定外?

 曲がり角を迎えているアニメビジネスの現状を解説した前半に引き続き、セミナー後半では、変化に対応すべく新手のコンテンツ展開を試みたアニメ作品「イヴの時間」「ブラック★ロックシューター」の事例紹介とそのキーマンふたりのコメントで進んだ。

長江氏は「個人作家を核に制作すると、こだわりの部分があるために予算と制作期間はどうしてもオーバーしてしまう。でもそのこだわりが実った仕上がりの良さを見てしまうと……ねえ(笑)」と述べ、少人数制作ならではの難しさと達成感を語った

 イヴの時間のプロデューサーである長江 努氏からは、Yahoo!動画(現GyaO!)での2ヵ月に一度公開という異例の手法を経て、劇場版制作まで漕ぎ着けた舞台裏が語られた。

 イヴの時間の場合は3話の制作が間に合わず4ヵ月空いてしまうことが判明した時点で、「4ヵ月の間、認知度を下げないための施策として急遽DVD販売に踏み切った。予定すらしていなかったので限定版として3000枚しか刷らなかったが、これがあっという間に売り切れて逆に話題を呼ぶことになった」(長江氏)という。

ユーザーの手元で愛してもらうためには?

 一方、アニメ本編を丸ごとDVDに収め、雑誌付録として60万枚超を無料配布するという前代未聞の展開が話題を呼んだのがブラック★ロックシューター。その製作委員会の幹事を務めたグッドスマイルカンパニーの代表取締役である安藝貴範氏は、「現状のビジネスモデルに合うような、大資本+テレビ放映が効力を発揮する作品もある。ただ、そこからはみ出してしまう作品も確かに存在するのだが、それを動かすには自分たちがリスクを背負わなくてはいけない」と述べた。

安藝氏自ら、昨年暮れに発売したブルーレイ初回限定版を紹介。「限定版に入っている絵コンテ集は見事なんですが、これがなかなか上がらず(アニメ本編の)発表期が4ヶ月遅れました(笑)」(安藝氏)。同じく4ヵ月遅れを経験した長江氏が苦笑する場面も

 ブラック★ロックシューターは、公開先も含めグッドスマイルカンパニー主導で進められた。製作委員会にはニコニコ動画を擁するドワンゴも入っていたが、あえて初公開はネットではなくDVD配布が選択された。

 その理由について安藝氏は、「ブラック★ロックシューターはpixivとニコニコ動画というネットサービスで生まれて育ったものだから、アニメもネットに戻すことは当然だと考えていた。ただ、ユーザーさんたちの手元で愛してもらうためには、まず実物が残るDVDから始めるのが得策だろうと判断した」という。

海外展開に立ち塞がる海賊版の巨大な壁

 前半の現状解説では、海外での売れ行きが振るわない旨も紹介されていたが、これには海賊版やファンサブが少なからず関係しているという。

 安藝氏によれば、「上海に行った際、あるお店に行ったらフィギュアの7割方が自社製品で『これはすごい!』と近づいてみると、そのうち6割ぐらいが海賊版。店側も海賊版だとわかっていて、店主に聞くと『これは国産です』と言う。そして、その“国産品”とは別に“舶来品”として正規品も売っている」状態だとか。

 安藝氏曰く、「せっかくの機会だと思ったので、現地の若い人たちと晩御飯を食べながら激論を交わしたところ、相手の学生は『海賊版のおかげでお前たちの作品を知ったんだ』と反論するので、『そのままだと(日本のコンテンツ産業にとって)君たちの国は“存在しない”のと同じ扱いになるんだ』と返した。

 いったいどういうことかといえば、僕たちがフランスのアニメイベントに行って、何に驚くかというと、18万人も集まっていること。なぜって、フランスではほぼ何も売れてないから。それは中国などでも同じ。僕たちの努力が足りない面はあるにせよ、まず正規品が売れないとファンがいることに気づけない。

 だから、『(正規品が売れない限り)君たちの国は僕らにとって“存在しない”のと同じなんだ』と言ったら、『おお、それはその通りだ! 買う努力をするよ』と。こんな風にひとりずつは口説けるが、いかんせんひとり口説くのに2時間はかかる(笑)」

 海外での認知度上昇に海賊版が果たした役割も少なからぬ一方で、今後海外でのコンテンツ展開に海賊版やファンサブは避けて通れぬ大きな問題として立ち塞がることを感じさせるエピソードだった。

今後のアニメビジネスには、視聴者行動と媒介メディアの変化を捉えた上で、公開手法と共感醸成に一層の工夫が求められるというセミナーの最後には、ゲーム版「ブラック★ロックシューター」のPV、そしてディレクションズが手がけたDVD「こびと観察入門」から短編一篇が上映された

テレビからネットへ、しかし安易な無料化は禁物

 最後にまつもと氏から“アニメビジネスの変化”が語られた。若年層のメディア接触は、徐々にテレビからネットに移っており、コンテンツの受容の仕方も、鑑賞から共有と二次創作といった形に急速な変貌を遂げている。これまでのビジネスモデルではユーザーを捉えきれなくなる可能性が高いと語る。

 さらに、ネットは基本無料の世界だが、舞台がネットに移ったとしても資本を投下して制作する以上、どこかで利益を上げなくてはならない。そのためにも公開場所(ウィンドウ)の選択・期間・順番は以前にも増して重要になるとした。

 そしてウィンドウの選択・期間・順番によって、ユーザーからの認知と共感(グッドウィル)を大きく育たせることが、今後のアニメビジネスにとってカギになるとしてセミナーは終了した。

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