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編集者の眼第23回

Web担安田編集長にMerry Christmasと人類蟻化計画

2010年12月25日 08時01分更新

文●中野克平/Web Professional編集部

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 Webマーケティング系のWebサイトには横のつながりがあって、Web Professionalも昨年12月28日「4大サイト編集長の辛口コラム」に参加し、「2009年、印象に残ったヒトモノコト」という共通テーマに沿って「ガンダムがザクより強い理由とGoogleの真の目的」という記事を公開した。

 あれから約1年。「日経ネットマーケティング」は誌名変更とリニューアルを発表し、Webサイトも会員制に移行した。「ネットマーケティング」の専門誌ですら無料の記事配信をやめてしまうのだから、いかにWebメディアが確固としたビジネスモデルを構築しにくいかわかる。新誌名「日経デジタルマーケティング」では、おそらくデジタルサイネージなど、Web、モバイルには収まらない領域も扱うはずで、個人的な定期購読者としても応援している。そういえば安田編集長はどこでお目にかかっても第一声は「広告ください」。広告、イベント、セミナー、ムック。あらゆる手段、機会にマネタイズに腐心する姿は、私も真似しないといけない。

 さて、「4大サイト編集長の辛口コラム」は今年3月に終了。今回はWeb Professionalだけで2011年のWebについて予測してみる。といっても、Facebookが流行りそうとか、日本のソーシャルゲームが外来種に敗れるとか、博打のような予測を書くのは性に合わないので、私が1998年ころに考えた「人類蟻化計画」について書くことにした。

Webの発達で、人間は蟻になる

 人間は、一度口にしたモノを他人に分け与えることはない。唯一の例外は、(最近はそんな光景を目にしないが)赤ん坊に母親が噛み砕いた食べ物を口移しすることくらいだろうか。人間の体は、シンプルに描けば1本の「管」であり、欲しいものを獲得して、要らなくなったら捨てる、という所有欲の原点みたいなものは、体の構造に由来しているんじゃないかと思っている。

 一方で、蟻には素嚢(そのう)と呼ばれる器官(消化用の胃よりも口側にある)があって餌を蓄えられる。餌を発見した蟻は、すぐに胃に入れてしまうのではなく、いったん素嚢に蓄える。巣に帰る途中で仲間の蟻に出会うと触覚で知らせ、餌の一部を分け与える。「これは旨そうだ!」と感じた仲間の蟻は、フェロモンを頼りに餌の場所に向かうのだそうだ。餌場からの帰り道でなくても、ツンツンと触覚で刺激されると、素嚢から餌をはき出したり、中には仲間に分け与えたりする専用の餌の出口が腹にある種類もいるらしい。蟻には体の構造からして、「共有欲」みたいなものがビルトインされているわけだ。

 私は蟻の専門家でないので詳しくは専門書を読んでもらうとして、これって何かP2P的だな、というのが当時の私の感想だ。20世紀の頃、WWWやFTPで公然と他人の著作物を公開するユーザーがいたのは、コミュニティに対する「お返し」という感覚があって遵法精神から逸脱してしまったのが理由のひとつだろう。その後のWinnyの登場と普及を見ても、何かをもらったユーザーは、何かをお返ししたくなる、という人間の社会性がこの手のソフトやサービスの普及の背後にあるのだとしたら、Web世界では共有欲によって、人間は強欲とは無縁の生き物になるかもしれない。

 クリスマスのプレゼント交換も、そういう意味では共有のひとつの形態かもしれない。私が買った焼きそばUFOの12個セットを安田編集長が受け取り、誰かが買ったビームライフル型ボールペンを私が受け取る。その場限りではあるものの、共有の連鎖でコミュニティが生まれ、お金が動く。電子書籍や電子雑誌、電子新聞市場の立ち上げにも応用できそうな話ではないか。来年は「共有」がキーワードになる。

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