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古田雄介の“顔の見えるインターネット” 第86回

まるで不動産版ウィキリークス!「大島てる」の正体は?

2010年12月21日 12時00分更新

文● 古田雄介

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「消してくれ」という苦情は多いが、
削除したことはない

―― たしかに、穴の多いデータベースのままだと、サイトに載った物件の所有者からすれば不公平感も出ます。そこで伺いたいのは、事故物件の線引きです。世間の耳目を集めた殺人事件や火災現場は比較的把握しやすいと思いますが、いわゆる孤独死のケースや、自殺された方の住まいまでは網羅するのが難しいのではないかと。

大島学 事故物件は「殺人事件や火災による死亡事故などの、嫌悪すべき歴史的事実があった物件」と定義しています。おっしゃるとおり、自殺があった部屋も該当しますが、やはりそこは網羅しきれていません。漏れが多いという批判もよく目にしますが、それは重々承知しています。

 ただ、例えば100あるうちの50しか載っていないからといって、その50の情報が無価値になるとは思っていません。その50を我々が公開することで話題になって、そこから51件目や52件目の情報をいただけるようになれば、やる甲斐があると考えています。まだまだ把握しきれていない物件が多いにしても、やらないでいるよりは網羅性が高まっていくのです。

―― 今あるサイトは完成形ではなく、完成形に至る過程の状態というわけですね。そう考えると「今さらやめられない」というのも分かります。ただ、現時点を見て不平を訴えてくる大家さんもいるのかなと思いますが、そうしたクレームはありませんか?

大島学 多いですね。でも、嫌がらせや何かしらの圧力をかけられたことはありません。

 ちなみに、陳情などにも、結果的に情報を補強してくれるものもあります。「そういうことがあったのは事実だけど、頼むから消してくれ」といったメールを受け取ったことがありましたが、これは情報の確度を高めてくれるわけです。それに、「ウチばっかじゃなくて、あそこのマンションも載せろ!」といったメールがあれば、貴重な情報になりますし、しっかりと目を通していますね。

 ただし、そうした声に応えて情報を削除したことはありません。それをやったら、第三者として調査を続けている意味がありませんから。

―― たしかにそうですね。では、それを可能にするリスク対策もされていると。

大島学 まあ、我々は組織でやっていますし、仮に私一人がどうこうしたところで、どうしようもないですからね。私一人だったらやっぱり怖さはあると思いますが、一人じゃないからこそ(取材で)顔を出せるというところがあります。

 怖いといえば、ウソの情報が載ったままになってしまうことなんですが、事故物件という性質上、そこは簡単なんです。家が火事で燃えても、建て替えても、そこで何年何月何日に火事があったり人が死んだりしたという事実は変わりませんから。

―― 累積していくだけの情報だから、確実にマッピングしていけるわけですね。

大島学 そうなんです。たとえば、大島てるでは暴力団幹部が拳銃自殺した部屋は載せていますが、同じく嫌悪施設である、暴力団事務所そのものは載せていません。

 なぜかというと、怖いからではなく、事務所が次々に移転していくからなんです。

 移転したら、その情報を把握してマップを書き換えないと嘘になってしまいますが、とてもそこまで追い切れないんですよ。格段に難易度が増してしまう。サイトにも「事故物件じゃなく、性犯罪者がどこに住んでるか知りたい。そっちのほうが役立つ」というコメントがありましたが、それはもう今の我々の力では無理なんです。生きている人間は「動く」わけですから。

(次のページに続く)

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