連載「メディア維新を行く」の開始当初から力を入れて取り組んできたのが、電子書籍と変わり行く出版ビジネスに関してだ。第1回に引き続き、筆者のまつもとあつし氏に聞く
「ネットは無料」を打ち破るのは電子書籍か?
―― 連載「メディア維新を行く」は、ベストセラー『FREE』の賛否とそこから見えるコンテンツビジネスの変化を第1回のテーマに掲げました。18回重ねた連載のうち半分が電子書籍に関するものです。
出版業界の現状を文化通信の星野渉編集長に聞いたり、問題になっているアップルのiPhone/iPadアプリ審査の現状についてボイジャーの萩野正昭氏から生々しく伺ったり……と業界のキーマンからも示唆深い話をいただきました。
KindleやSony Readerといった読書端末の登場が市場に刺激を与えていますが、その後にはフォーマットやサービスによる囲い込みが待っている。ソーシャルリーディングなど電子書籍ならではの読まれ方にも可能性があります。DRMや課金体系なども課題で、音楽配信に近いものがあるかもしれません。
ただ出版社の立場で見ると、同じ電子化したテキストでも無料が基本のウェブの世界とは大きく異なるという認識です。市場規模はまだ小さく、すぐに何千、何万部のベストセラーが出てくるわけではないですが、広告収益ではなく、コンテンツそのもので課金ができるという点は光明だし、ここに足がかりを得たいと多くの出版社が考えていることでしょう。
まつもと ええ。でも、取材して面白かったのは、出版社とは異なる業種が、電子出版に関心を示していることなんですね。例えば、ゲームメーカーや、ウェブコンテンツの会社です。両者に共通するのは、ブラウザーの上に載っている(載り始めた)コンテンツを扱っていること。
苦境に立たされているのはゲーム業界も同じです。でもゲーム業界は、出版社に比べてプラットフォーム・ビジネスや、パッケージ流通に関する経験値が高い。そういう人たちが電子書籍にピンと反応して動いているのは非常に興味深いです。
例えば元コンパイルで『ぷよぷよ』を作った米光一成氏は、電子書籍を“電書”と命名して様々な取り組みをされています。
その他にも、現時点では名前を出せませんが、「ソーシャルゲーム時代には(アイテム課金などでは)大きな組織体を維持できなくなる」として、大手ゲーム会社から小回りの効く組織を指向して独立しようとする方々もいらっしゃいますよ。