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まつもとあつしに聞く、新書で書きたかったこと

本当にコンテンツは無料になりたがっているのか?

2010年12月17日 09時00分更新

文● ASCII.jp編集部

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 ASCII.jpで展開中の連載企画「メディア維新を行く」(関連サイト)などを新書にまとめた「生き残るメディア 死ぬメディア 出版・映像ビジネスのゆくえ」の発売が始まった。

「電子書籍や動画配信って本当に儲かるの?」――デジタル化とブロードバンド化によって大きな変化の波にさらされているコンテンツ業界が進むべき道は? いち早く“次のモデル”を考案・試行する人々の生の声と、筆者の論考が組み合わさった一冊。アスキー新書から発売中
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 連載ではフリーミアムがトピックスとなった2010年初頭に企画が始まり、丹精こめて作り上げたコンテンツもネットに乗れば限りなく価格がゼロに近づき、利益を上げられないという状況を考えてきた。新書ではその中でも特に重要と思われる回を加筆修正し、メディア転換期の今、新しい製作・流通体制に取り組む先駆者、識者たちにそのメカニズムを聞き、今後行きぬく道筋を示す一冊とした。

 この新書で筆者のまつもとあつしが伝えたかったことは何か? 本人の口から、あらためて連載のテーマ、取材秘話、これからの取材先などについて語ってもらおう。聞き手は、ASCII.jp ビジネス・編集長の小林。


当初は編集長に企画を突き返された?

―― ついに連載「メディア維新を行く」が新書化したわけですが。この機会に一度、「まつもとさんがこの連載で何を伝えたいのか振り返っておいてもいいのではないか」と思います。例えば、フリーミアムが持てはやされているけど、それは最終的に幸せをもたらすのかとか、そういったテーマです。第1回でも軽くは触れてたのですが、連載を18回重ねた今でも、その気持ちは変わらないのか(笑)とか、あらためて聞かせてください。

まつもと メディアがシフトしていく中で様々な問題と、逆に面白い取り組みが起こっています。

「最初はソーシャルメディアを追いかける企画だったのですが……」(まつもと氏)

 私としては、こんなサービスが始まりましたとか、残念ながらうまくいかなくて終わりましたというニュース要素だけではなく、その裏側というか最前線でがんばって動かしてる人たちに会いたかった。

 “維新”なんて大げさなタイトルを付けたのは、その現場でがんばる人を追いかけたいという欲望からきています。

―― この連載は何かやりましょうという話の後、まつもとさんから提案のあった企画でした。最初はソーシャルメディアを取り上げるという内容でしたね。テレビの広告費でトヨタを抜いたっていう話もあるけど、今年になってからもGREEやモバゲーの勢いは凄い。確かに盛り上がっているんだけれど、「今からやるなら電子書籍でしょ、なんでやらないんですか」って返した。

 ちょうどクリス・アンダーソンの『FREE』が翻訳されて話題になっていた時期ですね。フリーミアムという方法が新しいビジネスモデルとしてもてはやされていた時期。だけどその物言いに対しては、コンテンツ業界の中にいると感じる違和感もあって、一読者としても、それを連載の中で解き明かしてほしいと思った。

 あとはiPadの発売が目前、Kindleも日本で年内に出てくるかもしれない……などと言われていた時期で、電子書籍は2010年に絶対盛り上がると言う確信があった。その状況をちゃんと追いかけていく必要があったので「最初は電子書籍だ」と言ったわけです。

まつもと 僕としては、電子書籍に限定せずメディア全般を追いかけようと思いました。そしていままさに進行している“メディアの転換”を動かしていく要素は、やはり人だろうと考えました。だからインタビュー中心にして、そういう人たちがどんなことを考えていて次は何をやるのか、ということを赤裸々に語っていただくのが一番じゃないかと。そういう狙いがあったんですね。

 他方、「フリー=絶対的な流れなのか?」という考えるべき課題もありました。みんなが一所懸命がんばっているんだけど、コンテンツがデジタルになってネットに載った途端、それは無料になりたがる。ユーザーも無料を期待するとなると、がんばってコンテンツ作ってる人たちはどうやって食えばいいんだ、という根本的な疑問が常に付きまとうわけです。

 業界の先行者たちが、そこをどうクリアーしようとしているのかもポイントになると思いながら、取材を続けました。


フリーには「ハングリー」で対抗

―― 結局はフリーミアムと現状のコンテンツ業界のビジネスモデルが噛み合わない、というのが大きいんですよね。まつもとさんのお考えは? 

まつもと 無料で展開してプレミアム商品で回収していくというときに、大きな組織だと固定費が高すぎて参入できない。でも、小さい組織であれば固定費を下げられるから回収の余地が出てくる。つまり……誤解されるかもしれませんが、コンテンツ業界もリストラを考えないといけないのではと思いました。

―― それ以前の問題として、フリーミアムがトピックスになってるうちは販促手段として有効なんだけど、みんながフリーで配り始めても本当に有効な手段なのかという問題もありますよね。何でもフリーで手に入る時代になったら、フリーで配ったって何のプロモーションにならない。話題にすらならないのに、それを制作するコストは変わらない。

まつもと コンテンツすべてを完全にフリーで見せてしまうと、もう“その後”はないでしょうね。そこで、例えば『イヴの時間』のような例が出てくる。これは1話ずつ見せていって、すべてを見せ終わったら一度公開を止めるわけです。

 そしていまだに1話と2話はパッケージになっていない、という状態で劇場版を公開する。そういった展開を小まめに続けていく。

 フリーで関心を引き付けるんだけど、決してお腹いっぱいにはさせない。イヴの時間のビジネスを推し進めた人たちはこれを、“ハングリー・マーケティング”って名付けていますが、そのような工夫が求められているんだと思いますよ。

 無料化の波にさらされるコンテンツ業界。その生き残り方について、次回もまつもと氏に語っていただく。乞うご期待。

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