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ゼロから分かる東京都青少年健全育成条例改正問題 第5回

呉智英氏、保坂展人氏ら都条例シンポに登壇 『非実在犯罪規制』を語る

漫画の中で犯罪を表現したらアウト!?

2010年12月13日 09時00分更新

文● 高橋暁子

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今後に影響を与える個別質問の内容とは

質疑予定の8項目を読み上げる民主党の吉田康一郎都議

 次に、民主党の吉田康一郎都議が登場。

 9日は代表質問、10日は個別に聞く一般質問が予定されていると、今後の日程について報告した。

 その上で、6月は反対したが、当局が議員等が反対した児童ポルノ単純所持規制や規制を盛り上げる団体への補助などを条文から落として歩み寄ってきたため、内部に「問題ない内容」という意見も出ているという現状を解説。

 今後は、当局が質問に対してどのような回答をするかによって、賛成か反対かの立場を決めることになると語った。

 なお、質疑予定の8項目として吉田都議があげたものは、以下の通り。


「都知事は『表現の自由の規制ではなく販売の規制』というが、最高裁では『表現の自由を規制するが青少年の健全育成を阻害するという理由で販売規制する』という判決が出ているが、事実関係はどうなのか」

「新しい条例案は、強姦漫画を読むと強姦魔になるなどというデータがないままで出しているのか。そうなら、科学的根拠なしでなぜ出すのか」

「現行の7条の基準で規制対象はすべて網羅されており、新たな規制をする必要はないのではないか」

「『不当に賛美または誇張』とは何を指すのか、そもそも漫画はすべて誇張表現ではないか」

「刑罰法規自体を表現すること自体を規制するか」

「8条に『著しく社会規範に反する』とあるが、それは7条にある『刑罰法規に触れる性交及び性交類似行為』など以外の、道徳などに踏み込んだ新しい内容に入らないか」

「『刑罰法規に触れる性交及び性交類似行為』とすると13歳未満或いは18歳未満などというキャラの年齢が関係してくるが、キャラクターの年齢をどのように判断するのか」

「過去の日本や諸外国などでは、現在の日本の法令とは異なる文化・習慣・宗教があるが、それもすべて今の日本の法令に当てはめて考えるのか」

「SFなど架空の世界の設定について、設定自身が反社会的という規制を行なうことはあるのか」

「これまでの青少年健全育成審議会は、内容を読み込んで総合的に判断せず短時間で判断していたが、新しい規制に踏み込むなら不当かそもそも13歳未満などをどう判断するのか、審議会は従来と変えるのか」

保坂氏「強行採決がわずか2時間前に中止された例もある」

 この後も、パネリストからのコメントが続いた。評論家・日本マンガ学会会長呉智英氏は資料としてプリントを用意。桐蔭横浜大学法学部法律学科教授河合幹雄氏は、「呉氏のプリントにある前田雅英氏の間違った話が世論を作り、今の規制につながっている」と指摘。

 さらに、「条例改正案は通りそうな勢いだが、通ってもひるまないでがんばってほしい。昔は警察が起訴したら必ず有罪だったが今は違うので、過剰に自主規制せずに戦ってほしい」とした。

評論家で日本マンガ学会会長の呉智英氏(左)、元「週刊プレイボーイ」編集長の鈴木力氏(右)

 ジャーナリストで元「週刊プレイボーイ」編集長の鈴木力氏は、プレイボーイが有害図書指定されそうになった際の逸話を語った。有害指定されると当時売上全体の50%を販売していたコンビニで棚を成人向けコーナーに移されてしまい、販売機会の損失につながり、部数が減ってしまうことになる。

 「そのような事態を避けるためには自主規制しがちだ」と問題を提起。さらに、「吉田都議は当局の回答により賛成か反対か決めると言ったがそれは危険。国旗国家法の際、小渕首相は『強制も処罰もしない』と言ったが、現在反対する教師の処分が多いのは東京都」と危惧を述べた。

 翻訳家の兼光ダニエル真氏は、日本以外の先進国ではすでに規制されているという意見に対し、オレゴン州で13歳未満の性描写をした作品は違法としようとしたが連邦裁判所に違憲とされて廃案になった例、マサチューセッツ州で未成年者に卑猥なメールを送ることを違法にしようとしたが同じく違憲廃案となった例を提示。「有害情報を出すのがいいと思わないが、今回は改正までが早すぎて疑問」とした。

 最後に、ジャーナリストで前衆議院議員の保坂展人氏は、ある劇団が非実在青少年をテーマにした芝居をやろうと東京の小劇場に申し込んだところ、劇場から電話があり『都条例に反対するのは反社会的』と断られた例を挙げ、「まだ成立していないのに反対することが反社会的だろうか」と疑問を呈した。

 「以前にも、ポルノ禁止法案で絵は対象から外されたのに、書店からは漫画本が消えた。これは間違った情報と、萎縮効果の影響」とし、さらに「心の中で考えたことが犯罪になる共謀罪は強行採決の2時間前に中止が決定した。諦めずに声を上げて、15日まで残された時間は短いが世論を盛り上げよう」とまとめた。

定員550人の「なかのZERO」小ホールに約1600人が集まり、急遽サブ会場を用意してのパブリックビューイングも行なわれた

青少年健全育成審議会に場を移せるか

 集会後、主催者の1人である山口貴士弁護士に話を聞くことができた。

 山口弁護士は、「新改正案の非実在性犯罪規制は、犯罪を描写することが自体が青少年の健全育成を阻害しかねないという発想に基づいており、これが先例となり、将来の改定において、薬物や暴力などまで拡大されかねない。時代と場所、社会背景等を自由自在に設定しうる創作の世界について、現行の法規の基準をあてはめて判断すること自体が根本的に間違っている」と指摘。

 新改正案は通るかどうか非常に危うい状態であり、通った場合、「現場が萎縮したり、過剰な自主規制に走らないよう、勉強会等を通じて、正確な知識を広めていく必要がある」という。

 また、「協議会の答申に基づく改正案が廃案になったのだから、再度、諮問からやり直すのが当然」としつつ、「青少年問題協議会の人選は知事が恣意的に行なうことができるようになっているので、議論の場を青少年健全育成審議会に移せるようにすべきではないか。審議会も知事がメンバーを任命するが、業界関係者などの枠があるし、これまでの条例の運用や自主規制のあり方についてノウハウの蓄積もあるから、多少なりともバランスの取れた議論が出来るはず」と語った。

 9日は代表質問、10日は一般質問、15日までには改正案の可否が決定する。残された時間は短いが、今後も動きに注目していきたい。

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