現状、アニメへの投資はギャンブルに近い
まつもと「ですが、商品化の窓口権を行使することで回収はできますよね?」
安藝「それは僕自身があまり望まない方法なんですよ。つまり、先ほど申し上げたように色んな商品が出たほうが良い。出資したからといって、その窓口を独占しないほうが良いと考えています。
実際、パブリッシャー以外はほとんど回収できないんですよね。第三者出資では全社ほぼ回収できないはずです。もちろん“バカ当たり”した作品は、通常のマーチャンダイジングでも大いに回収できるので、そういう作品に巡り会えるかどうかになっちゃう」
まつもと「そうなるとギャンブルですね」
安藝「ギャンブルだし、そもそも大当たりが有望な作品だと、僕らには声が掛からないわけです。一部でホールドしちゃいます」
まつもと「例えば大手の玩具メーカーさんとか?」
安藝「玩具メーカーというよりは、今はパブリッシャーや原作を持っている出版さんとかその周辺企業ですね。かつて玩具メーカーと映像は結びついていました。しかし今はその様子は変わっていると思います」
まつもと「あ、確かに子ども向け作品以外では、あまり名前を見かけませんね」
安藝「DVD販売で回収できた期間っていうのが何年かあったじゃないですか(いわゆる2006年をピークとしたアニメバブル期)。
実はあの間に、それまで何十年と築き上げてきた関係性に変化がありました。映像単体で回収できるモデルが実現されたんですよね。……しかしご存知の通り、DVDの売り上げが落ちてきて、結果、皆苦しくなってきています。パブリッシャーさんにも負荷が大きい。
さらに言えば、アニメ周辺に強い産業が育っている訳でもない。深夜帯向けアニメで、仮にそういった大手玩具メーカーさんに加わってもらったとしても、フィギュアカテゴリーではなくて商品化全般で商品化権を押さえがちなので、僕らには降りてこないんです。
でも、そういった大手さんはフィギュアを積極的には作らないんですよ」
まつもと「それはノウハウがないから?」
安藝「細かなクオリティーコントロール周りを別にすればノウハウはありますが、それ以上に、フィギュアのビジネス規模が大手さんから見ると小さかったというのが大きいでしょう。
昨今は状況も変わってきまして、僕らだけでも80億円ほどの売り上げ規模になってきています。いろんなジャンルで各社がフィギュア的な商品の積極展開が始まっています」
テレビアニメに感じていた限界
安藝「というわけでアニメ制作に第三者として出資をしていました。まあ僕らは第三者とは言えないかもしれないけど。ただ恐らく、周辺業種以外(つまりアニメ漫画業界以外)はアニメにお金を出す気はないでしょう。
だって、平均値として回収の見込みがない投資を、普通の投資家がするわけないですよね。少なくとも120%はあがらないと、投資として割りが合わない」
まつもと「アニメバブルのときに幻想が壊れましたからね」
安藝「全社失敗したわけですから。いくつかのコンテンツファンドを運営していた人たちを、僕は知っていますけど。ほぼ、全員が……」
まつもと「退場……」
安藝「おおよそ溶けてしまった。アニメ産業は改めて外圧がないと効率化できないかもしれませんね。現場の問題も根が深いですし。
そんな按配で、アニメ出資が(投資として)どれほど詮のないことかに気付きつつも、前向きに出資するわけです。だって、アニメが沢山成立した方が良いですしね。
そしてあまりの成立しなさ具合に絶望するのですが、それに抗う方法が僕らにはないんですよ。フィギュアメーカーには、企画を眺めて、入っていって、お金を出し続ける以外に手がなかったんです」
次回予告
次回は、グッドスマイルカンパニーが主幹事を務めるブラック★ロックシューターの製作委員会の概要などについて、安藝貴範社長に引き続き語っていただく。
著者紹介:まつもとあつし
ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環に在籍。ネットコミュニティやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆、映像コンテンツのプロデュース活動を行なっている。DCM修士。12月10日にはアスキー新書より「生き残るメディア 死ぬメディア 出版・映像ビジネスのゆくえ」が発売。公式サイト松本淳PM事務所[ampm]。Twitterアカウントは@a_matsumoto
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