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IPv6に進路を取れ! ― 第7回

IPv6にモビリティと経路集約をもたらすILNPの取り組みとは?

枯渇目前のIPv4アドレス!シスコが全身全霊を傾けるIPv6

2010年12月06日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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3つの「P」で通信事業者のIPv6移行を手助け

ディスティングイッシュ エンジニアのW.マーク・タウンズレー氏(左)、シスコシステムズ フェロー トニー・リー氏(右)

 IPアドレスの枯渇がいよいよ深刻な問題となってきている。2010年11月末現在、IANAが未割り振りのIPv4アドレスはいよいよ全体の残り4%のみになった。このまま行くとIPv4アドレスは2011年3月に枯渇することになる。

 中国やインド、ロシア、ブラジルなどBRICsと呼ばれる経済発展国でのインターネット需要の増加と、それらの国との国際間通信の必要性ともに、iPadやAndroidデバイス、家電や産業機器など新しいデバイス増加も、このIPアドレス枯渇に拍車をかけている。「2013年には1人あたり7台のコネクテッドデバイス(インターネットに接続されている機器)を持つことになる」という調査結果もあり、IPv4のアドレスではまったく足りなくなっている。

 これに対して、シスコのルーターやスイッチで搭載されているCisco IOSでは、早い段階でIPv6に対応。「取り組んでいるというレベルではない。まさに全身全霊をかけている」。これはIPv6への取り組みを説明したシスコCEO ジョン・チェンバーズ氏の力強いコメントだ。

 たとえば、通信事業者向けにはCGv6(Carrier Grade IPv6)という取り組みをスタートしているという。「われわれは既存の資産を守りつつ(Preserve)、IPv6への準備を進め(Prepare)、新しいビジネスをつかむ(Prosper)という3つのアプローチを提案している」(タウンズレー氏)ということで、通信事業者に対して無理なくIPv6へ移行できるよう、デュアルスタックの製品を用意している。

Carrier Grade IPv6としてシスコが提供するソリューション

 具体的な共存・移行の方法としては、通信事業者レベルでプライベートアドレスとグローバルアドレスのNATを行なうラージスケールNATのほか、IPv4とIPv6のプロトコル相互変換、そしてIPv4ネットワーク上でIPv6を通すトンネリングなどを提供している。最近ではIPv6パケットを家庭内のゲートウェイでIPv4トンネリングする「6rd」への注目も著しい。タウンズレー氏は「こうした技術を組み合わせることで、IPv4を延命させ、IPv6を低コストでデリバリできる。その意味で、IPv6は今まで溜まってしまった圧力を抜く『バルブ』のような役割を果たすことになるといえる。ステートフルなIPv4の環境において、唯一先に進められる道だと思う。より多くのコンテンツがIPv6で使えるようになれば、IPv4の依存度は減るし、自然にIPv6に移行できる」と、既存の環境からの移行についてこう説明する。

IPv6版YouTubeで初めて見たコンテンツはitojunさんのデモ

 実際、多くの通信事業者でIPv6の導入が進められているという。「たとえばパリのフリーテレコムでは、6rdを実装したゲートウェイを使って、簡単にIPv6が使えるようにしている。一方、Googleではフリーテレコムをホワイトリストに載せているので、IPv6で直接アクセスができる」ということで、すでに大きなIPv6トラフィックになっているという。GoogleのIPv6対応以降、Facebookのようなコンテンツプロバイダでも、IPv6対応を進めるところが増えている。「今後はIPv6とドメイン名の名前解決が直接行なえるようになれば、http://ipv6.google.com/のようなURLを指定しなくても済む」とのことで、クアッドAレコード(AAAA)への対応が2011年以降のステップになるという。

 ちなみにタウンズレー氏がIPv6を用いて最初に観たYouTubeのコンテンツは、バルセロナで行なわれたCisco Live and Networkers。内容はIPv6に大きな貢献を残したitojun氏(萩野純一郎氏:故人)のデモのビデオだったという。

IPv6を魅力的にする試み

 とはいえ、これまでアドレス枯渇の根本的解決法として提案されてきたIPv6だが、これまで移行が遅々として進まなかったのも事実だ。「ようやく枯渇が実感される状況になってきたが、今まではやり方を変えたくないという心理的な障壁もあったし、移行へのインセンティブがなかったというのもある」とタウンズレー氏は語る。つまり、単にアドレス枯渇でユーザーを脅かすだけでは、IPv6への移行はなかなか進まないという意見だ。「IPv6は非常にハイスケールで使える。たとえば、数百万台のデバイスを短時間でデプロイするとか、IPv4では難しいことも可能だ」(タウンズレー氏)といった導入メリットが挙げられるという。

 将来的にこのようなIPv6ならではのメリットを実現する取り組みとして、IPv6自体の機能強化であるILNPが紹介された。ILNPとはIdentifier/Locator Network Protocolの略で、数多くあるルーティング&アドレッシングのグループの1つだ。米シスコ フェローのトニー・リー氏によると「IPv4の経路は12.6%で伸びているが、IPv6の経路は60.2%の伸びになっている。しかし、現状のルーティングやアドレッシングではこの伸びに対する十分な処理能力をネットワーク維持していくのが難しくなる」とのことで、第一義としては経路の数を抑えるプロトコルとして設計されたのがILNPだ。

ILNPでは、IPv6ホストを変更し、モビリティや経路の削減をもたらす

 ILNPでは、128ビットのアドレスでロケーションとIDが混在していることを問題視し、両者を64ビットずつ厳密に分離することで、より高速なルーティングの収束を図る。これにより、IPv6で課題となるマルチホーム構成によるアドレス集約の問題を解決することができる。ILNPをサポートした端末ではどのISPに所属しても、接続するIPアドレスが変わっても、端末を一意に識別することが可能になる。

 また、この仕組みはモビリティという面でも有効となる。たとえば、3Gから無線LANサービスへのローミングなど、ホストとなるデバイスが複数のISPや接続サービスを移動する際にも、途中経路の構成に依存することなく、高速なハンドオーバーが可能になる。ILNPに対応したホストは、ホスト間での通知の仕組みにより、候補となるロケーターのビットをあらかじめ複数受け取ることができる。そしてホストに割り当てられるIDとロケータIDの組み合わせを、メディア間の移動時に切り替えることで、アドレスの再取得によって発生する課題を回避することができるという。

 この仕組みがエンドポイントのプロトコルスタックに標準実装されれば、ネットワークとしてなにも変更を加える必要がなくなる。従来のモバイルIPでは、同様の継続的なモビリティを維持するため、複雑のトンネリングをネットワーク側に用意しなければならず、スケーラビリティにも限界が出てしまう。「ILNPを使えば、エンドユーザーがモビリティのメリットを享受できるほか、データセンター等での仮想マシンの移動にも役立つ」(リー氏)とそのメリットを語る。

 IPv4アドレスの枯渇に関しては、いまだに危機感は少ないが、インターネットへの依存度を考えれば、安寧とはしていられない。そろそろ情報収集から導入の準備へとギアのチェンジを行なった方がよいかもしれない。

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