コルグが楽器アプリを作る理由
―― ところでiPadのアプリって儲かります?
佐藤 儲かるかどうかというより、コルグ全体としてみた場合、これはやっておく必要があると判断しているんです。
―― ソフトハウスや音源メーカーならともかく、楽器メーカーがダウンロードで楽器を売るというのは、すごく新しいわけですよ。楽器市場が頭打ちのなかで、戦略的に動いているのかなという気もするんですが。
佐藤 はい。壮大な計画と緻密な計算に基づいて、戦略的に動いています。ということにしておいてください。
―― iPhoneアプリを作っているインディーズメーカーは、コルグに本気出されたらかなわんと言ってますよ。どうですかデチューンさん、インディーズメーカーの立場で。
佐野 その通りですよ。コルグさんは言いにくいと思うので、ここはデチューンが成り代わって、いちファンとして言わせていただきますが。最初にSQ-10が入った画像を見せられたときに、あまりのグロ画像ぶりにびっくりしましたからね。
―― グ、グロ画像! あの、一応フォローすると、要するにインパクトの強いデザインってことですよね。
佐野 脅迫めいたものさえ感じましたね。まずiPadのソフトって「よくできてるねー」って文化じゃないですか。買って、ダウンロードして、ああ良くできてるね、って感心してツイートでもして、次に行ってしまう。でも、見た瞬間、すごいことは分かるけど、何していいか分からないという、このゾッとする感覚。大人を怒らせたら怖いというか、えらいことになるんだなと。
岡宮 だから今回は一緒にやらせてもらって良かったですよ。
―― まあ、これに比べたらDS-10はものすごく使いやすいですよね。
佐野 でも最初にDS-10が出たときには、誰もそんなことは言わなかったわけで。そういう意味じゃ、皆さん洗脳されたんですよ。
岡宮 開発初期のDS-10も、ものすごいマニアックな仕様だったんですよ。佐野が「シーケンサーなんかいらない」とか言っていましたから。
佐野 だから、その頃のマインドがiMS-20には詰まっている気がするんですよね。
―― それはiPadとDSの違いですか?
佐野 プラットフォームの持つ文化や宗教観みたいなものが、多分に影響していると思いますね。DSで作るなら、iPadで作るならと、自由に考えているつもりでも、ある程度はバイアスがかかってくる。それできれいに棲み分けができているような印象はあります。
―― いままでDS-10、iELECTRIBE、それにレガシーコレクションもそうですけど、既存楽器の復刻や参照だったわけじゃないですか。まったくのフルスクラッチ(一から作ること)で、アプリを開発してみようという気はありませんか?
佐藤 もちろんありますよ。
―― それはどんな?
佐藤 言っちゃったらつまらないじゃないですか。
佐野 ただね、新しいインターフェイスは難しいんですよ。iMS-20だって自分が知っているから手を伸ばそうと思うわけで、まったく見たこともない画面だと、どう反応していいか分からない。ジレンマですよね。その点、iMS-20は表向きは皆が知ってる古い形でも、中身は最新鋭という意味で、「iMS-20は銀河鉄道999だ」と言っているんですが。
―― あ、ふーん。なるほど。
佐野 あ、いまいちウケが悪いですね。皆そういう反応なのは何でなんだろう。
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