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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第127回

東京スカイツリーは21世紀のピラミッド

2010年10月13日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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地デジの放送には必要のない展望台

 実はスカイツリーの事業主体である東武鉄道も、その目的に「地上デジタル放送の受信エリアの拡大」をうたっていない。その公式ウェブサイトには、こう書かれている。

新タワーに移行すると、地上デジタル放送の送信高は現在の約2倍となりますので、年々増加する超高層ビルの影響が低減できるとともに、2006年4月に開始された携帯端末向けのデジタル放送サービス「ワンセグ」のエリアの拡大も期待されているところです。

 つまりスカイツリーの目的は、ワンセグの受信改善なのである。ワンセグは屋外で使うので、ビル陰に入りやすく、ケーブルテレビなどの手段がないからだ。しかしワンセグはもう成熟商品で、出荷台数は前年割れ。特に最近はiPhoneなどのスマートフォンが増えて、ワンセグ機能はあまり重要視されなくなってきた。ワンセグは視聴率調査の対象にもならないので、テレビ局の営業収入にもつながらない。

 「新東京タワー」の構想が持ち上がったのは、地デジの放送が決まった1997年で、デジタル放送開始と同時に新タワーから放送する予定だった。しかし各社の意思統一ができないうちに2003年に東京タワーで放送が始まってしまい、ビル陰対策も7年かけてほぼ終わった。ところが「地域振興」にこだわった自治体が誘致合戦を繰り広げたため、放送には意味のないタワーをつくることになったのだ。

 石原慎太郎・東京都知事は、2004年の記者会見で新タワーについて質問されて「つくる必要はないと思う。インターネット時代でシステムが変わろうとしている時代に、あんなばかでかいタワーが要るかどうか、それはもう基本的な問題だ」と批判した。建設予定地は航空機の進路にあたるため、都の都市計画審議会では許可が下りず、計画を縮小して墨田区の都市計画審議会で通した。

 だからテレビ局は、スカイツリーの建設費を負担していない。建設費はすべて東武鉄道が出し、テレビ局はそれを借りるだけだ。経費はツリーだけで約650億円、併設のオフィスビルや水族館など周辺開発を含めると総額約1430億円だが、設備投資を回収するキャッシュフローは展望台などの利用料金だけで、回収期間は25年かかるという。

 要するにスカイツリーは、地デジの放送には必要のない単なる展望台なのだ。こんなものを建てなくても、通信衛星を使えば100億円以下で全国100%に放送できたのだが、ここまで1兆円以上のコストをかけた以上、もう引っ込みはつかない。スカイツリーの建設には世界最先端の技術が使われているそうだが、この無用の長物は、技術者は世界一優秀だが経営者は世界最悪といわれる日本の企業を象徴する「21世紀のピラミッド」である。

筆者紹介──池田信夫


1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退社後、学術博士(慶應義塾大学)。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラブックス代表取締役、上武大学経営情報学部教授。著書に『使える経済書100冊』『希望を捨てる勇気』など。「池田信夫blog」のほか、言論サイト「アゴラ」を主宰。

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