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古田雄介の“顔の見えるインターネット” 第81回

星占いサイト「筋トレ」は、なぜラッキーカラーを紹介しないのか

2010年10月12日 12時00分更新

文● 古田雄介

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「筋トレ」は失恋と退職から生まれた

―― 「筋トレ」を始めたきっかけから教えてください。

石井 最初の勤め先を辞め、ヒマになったのが大きいですね。大学を卒業してからウェブプログラマー的な仕事をしていたんですが、1年半で体調を崩したこともあり、挫折しまして。しばらくモラトリアムな期間ができたので、仕事で身につけた知識を使って、自分のウェブサイトを作ってみようと思い立ったんです。

 せっかくやるなら人がたくさん来ないと面白くない。人が来るコンテンツは何か。そう考えて思い浮かんだのがエロと占いだったんですが、エロを扱うにはちょっとスペック的なものが足りないわけです(笑)。でも、占いなら占星術ができるから、ちょっとやってみようというふうに始めました。将来これで食っていこうみたいな気は全然なくて、趣味半分、文章の訓練半分という気持ちでした。

占星術は、ホロスコープという天体の配置図を使って天体の動きから運勢を導き出す。「昔は手計算でやっていたからすごく大変でしたが、今はパソコンがあるからけっこう楽ですね」という。写真は自分でもホロスコープがわかるという「星ダイアリー2011」(幻冬舎)

―― 占いのスキルはかなり前から持っていたんですか?

石井 スキルというほどのものじゃないですが、大学4年生の頃、付き合っていた彼から突然「好きな女ができた」と別れを切り出されたんです。で、その相手がどうも西洋占星術ができるらしいという噂を聞いたんです。どうでもいい情報ではあるんですけど、その「星占いができる」っていう意味がよく分からなくて、腹が立ったんです。「占いができる」ってなんだよって。それで「そいつにできるなら私だってできるだろう」という、妙な対抗意識みたいなものが湧いたようで(笑)。

 たまたま見かけた西洋占星術の入門書を買ってホロスコープを書いてみたら、なんかおもしろかったんですね。今にして思えばちょっと勘違いだったんですけど、とてもいいホロスコープのように見えたんです、そのときは。

 で、調子に乗りやすい性格なんで「私すごい!」とうれしくなってしまって。「初めてポーカーをやったら、いきなりストレートフラッシュが!」みたいな感覚で、ハマっちゃった感じです。他の人のホロスコープをたくさん描くようになったら、別に大したことのない、むしろ問題の多いチャートだということが分かりましたが(笑)。

―― 人気ジャンルだとライバルもかなり多いと思いますが、そのなかでどのように読者を増やしていったのでしょうか。

石井 一番最初に「アクセス数が伸びたな」と思ったのは、当時あったジョナサン・ケイナーさんの占いサイトの掲示板に書きこみをしたときのことです。書き込みに自分のサイトのURLを添えたら、そこからスーッとアクセスが上がって、そこから口コミ的に広がるようになったんじゃないかな、と思います。

 あと、サイトを続けてしばらく経った頃、コールセンターでバイトをしていたことがあったんです。コールセンターには、お客さんからの要望や苦情を受けて対応する「インバウンド」と、お客さんの傾向から最適なタイミングでこちらから営業をかける「アウトバウンド」という考え方がありますよね。

 それをサイトにも活かして、読者の要望が聞けるようにわりとオープンな掲示板をサイト内に置いて、外に向けてはメルマガを発行したり、という体勢を作りました。誰でもやってたことなので、大したことじゃないんですけど。最近のTwitterはアウトバウンドとインバウンドが一体化してるツールって感じですよね。

ケータイ版の占いサイトも。こちらは月額315円

―― なるほど。あと、文体の個性もライバルサイトとの差別化に重要な役割を果たしていると感じます。石井さんはフラットといいますか、「素敵な巡り合わせのある一日になるでしょう」みたいな、いかにも占いという書き方をしないですよね。

石井 そうですね。占いの文体というのは、すでにテンプレートのようなものがあるんだと思います。おっしゃるように、恋する乙女を読者層の中心に置いた感じの定型文があれば、「金運」「家庭運」のような古くからあるものもあって。それに沿って書くのが一般的という気がしますし、読み手もそれを前提にしています。私も最初は無意識に影響を受けていたと思いますが、しばらくしてから、型通りにやる必要はないんだなと気づいたんです。

 サイト自体も特に想定読者は定めていませんでした。たとえば、男性や中高年の方が見ても、主婦や主夫が見ても、子どもがいたり、妊娠中だったり、たとえ流産の直後であっても、スッと読めるようなプレーンな書き方をしたいと考えていました。

 女性誌の記事なんかの場合は読者層が絞られるので、編集さんからはむしろ具体性を求められるんですけど、筋トレでは「どんな人でも読めるものを」と考えているので、書き方がちょっと違ってきます。でも、なかなかうまくはできないです。思いがけない立場・状況の方から、「今週の占いは傷つきました」と言われることもありますし。

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