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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第14回

アスキー総研 遠藤諭所長に聞く

コンテンツ消費データ「MCS」でアニメ消費の今を見る

2010年10月12日 09時00分更新

文● まつもとあつし

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アニメが再び浮揚するためには?

まつもと「縮小する国内市場に合わせてしまっては、海外のビジネスチャンスを取り損ねたり、そもそもの供給力が小さくなってしまいます。

MCS Elementsで「けいおん!」視聴者を調べてみる。30代の支持が低く、スマートフォン利用者も少ないなど興味深い側面が見えてくる

 とはいえ、足元の売上も大切となると、MCSや動画協会のデータから見えてくるように、(1)プレミアム消費に即した商品(グッズ)を開発する (2)劇場を新たなウィンドウとしてさらに開拓する、といったあたりが打ち手となりそうですね」

遠藤「あとは、深夜アニメで多様性を支えるコアな作品がどう視聴されているかをデータで見るには、映画でいうところの5万人くらいが見る“規模は小さいけど重要な作品”の動向が把握できるといいね」

まつもと「ネットから話題となり、韓国での放送反対運動などがありつつも、海外ファンも多数獲得したヘタリアなどは1つのベンチマークになるかもしれません」

アスキー総合研究所が考える「メディアのこれから」

遠藤「iAdのサンプルとか見るとテレビコマーシャルに似ているんですよ。たまたまサンプルがそうなったという意見もあるかもしれないけど、広告を押した途端、コントロールは奪われる。パッシブになる。

 ネット広告のセオリーとは反対だよね。iPadやiPhoneの広告モデルがテレビ的というのはとても興味深い。そう考えると、Apple TV、GoogleTVなんかもアプリや動画が一体化した新しい広告モデルが成立していくんじゃないかと思いますね。

 少なくともお茶の間からPCは取り除かれる。運用がいらない、OSの存在が見えない家電になっていき、アプリとアプリ環境が一体化していく。BML(Broadcast Markup Language/地上デジタルなどのデータ放送に使われる言語)がインターネットのモデルを持ってこようとしたのとは全然違うアプローチ。ウェブとは違う肌ざわりでアプリに近い。

 ウェブやOSを操作するというのはお茶の間には馴染まず、そうじゃないものが未来のテレビになっていく。日本にとっても重要なタイミングですよね。大事なのは『凝るな』ということ」

“未来のテレビ”のヒントはアップルのiAdにある。近い将来、お茶の間からPCが駆逐される可能性も

まつもと「凝るな、とは?」

遠藤「ボタンを押したら起動して、それで終わり。初期のパーソナルワープロみたいにシンプルにすることが大切。一番近いのはゲーム機なんだけど。任天堂もソニーも近いところにいるんだけど、やはりゲームで競争をしていることもあってなかなか主導権がとれないよね」

まつもと「せっかく出荷台数もあって、すでにテレビとネットにつながっているのにもったいないですね」

遠藤「やっちゃうべきだとは思うんだけどね、あるいは儲からないならきっぱり止めたほうがいい。マスかプレミアかどちらかしか儲からないわけで、ネットではプレミアなものに特化する必要がある。逆にマスだと、月額定額でいくらでもレンタルできる限りなくフリーに近いモデルで戦わなければならなくなるからね。

 そういった観点からは、例えばCruchy Roll(日本のアニメを字幕付きで配信する北米発の動画共有サイト)なんかがそうだけど、アニメ好きが集まっているコミュニティーにプレミア価格で参入するというのはアリだよね。現状600円というのは多分安すぎる設定だと思うんだな。

 デジタルだから、マルチプラットフォームだからと言ってのべつまくなしに出すというのは良くないと思うね。とはいえ、そういったコントロールは本来コンテンツ業界の人に土地勘があると思うんだけど」

「次回のMCSではジブリ作品やONE PIECEといった大ヒット作品だけでなく、深夜アニメのようなコア層向けも調査対象に入れたい」(遠藤)

まつもと「ネットという新しい分野ではまだ試行錯誤が続いている、という状況ですね。まだ、こうだ! という法則が確立されているわけではない」

遠藤「ロングテールについて指摘しておきたいのは、ロングテールのしっぽで稼げるとはヒトコトも書いていないということ。クリス・アンダーソンもちゃんと書いているにも関わらず読み飛ばしている人が多い。

 ロングテールが用意されていると、客の滞留時間が長くなるということに過ぎない。売れるのはあくまでヘッド。ヘッドに来た客をしっぽのほうに流す仕組みをフィルターと呼んでますが、そうして滞留時間が長くなるとしっぽの合計売上げも相応になる。

 いずれにしてもしっぽにいる限りは滞留の道具にされているだけ。そこに留まっていてはだめなんですね」

まつもと「他人のロングテールに使われるのではなく、プラットフォームを利用する側に回ることを考える必要があるわけですね」


MCS(メディア・コンテンツ・サーベイ)とは?

 アスキー総合研究所が2010年3月に販売開始した、コンテンツ利用状況に関する大規模調査をまとめたデータ集。

 「映画、テレビ、DVD、ネット、新聞、雑誌、コミック、ゲーム、スマートフォン、ケータイ等の11ジャンル777作品の消費状況、PCサイト323、ケータイサイト105の利用状況、および、これらのメディアに関する利用スタイルや利用頻度について詳細なアンケートを実施しました。メディアとコンテンツに関するアンケート調査としては過去に例のないもので、『MCS 2010』の集計結果からは、ネットやケータイの利用が進んだ現在における、コンテンツやメディアのトレンドや消費の仕組みを見ることができます」(ニュースリリースより抜粋)。

 また10月には、「MCS 2010」から一部データを抜粋収録したiPad専用アプリケーション「MCS Elements」が発売。iPadアプリとしては異例の1万円という価格設定と(抜粋版とはいえ元のMCSは30万円超なのでおトクではある)、これまでの調査データ集のイメージを覆すグラフィカルな表現で大きな話題となった。

「MCSの完全版は、MCS Elementsよりも対象アニメのタイトルが多く、年齢とアニメ作品の単純クロスも取れますので、全タイトルに渡って20代が多いとか、タイトル毎にかなり相違が出るといった発見があるでしょう」(遠藤)



著者紹介:まつもとあつし

ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環修士課程に在籍。ネットコミュニティやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆、ゲーム・映像コンテンツのプロデュース活動を行なっている。デジタルハリウッド大学院デジタルコンテンツマネジメント修士。著書に「できるポケット+Gmail」など。公式サイト松本淳PM事務所[ampm]。Twitterアカウントは@a_matsumoto


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